運動が健康に良い事を知らない人はいませんが、何故良いのか知ってますか?
これは実はとても大事なことで、たくさんの研究が行われています。
この記事では、数あるメカニズムを簡潔にまとめて紹介します。
メカニズムを知ることで、「どういう状態の方に効果があるか」も見えてきます。
Contents
運動がなぜ健康に良いか【メカニズムを解説】
運動が健康に良い、と最初に言ったのは数千年前、ヒポクラテス。
疫学的にしっかり初めて示されたのは20世紀になってからでした。
その後たくさんの基礎研究、臨床研究が行われ、そのメカニズムが明らかになってきました。
この記事で紹介するのは、「運動が心肺機能に良いメカニズム」のまとめです。
最近のreview論文を参照しています(Nat Metab 2020 0.1038/s42255-020-0262-1)。
分量が多いので、2回に分けて説明していきます。
この記事では、
・運動による心機能への影響
・高齢化するとなぜ心機能が低下するか
という2点をお話します。
運動による心機能への影響
まず、運動でどのように心機能が変化するか、説明していきます。
心臓の形態が変わる
・心拍出量(CO)=心拍数(HR)× 一回拍出量(SV)
→HRは置いておいて、運動中はSVが増加します
→これは左室拡張末期容量(LVEDV)が増える事+収縮力自体が増すことによります
長期に運動すると、心臓の形態が変わります。
→LVEDVが増え、SVが増えます
→結果、心拍出量が増えます。
*運動により心室の壁が厚くなります(eccentric hypertrophy)が、これは肥大型心筋症での厚くなり方とは異なります
→肥大型心筋症では心筋が固くなり、SVが減ります
→この「病的な心肥大」と「運動による生理的な心肥大」の違い、がとても重要です。以下の説明でも時々出てきます。
徐脈になる
安静時の脈が遅くなります。
若い頃激しい運動していた方、健康診断で徐脈で引っかかることありませんか?
あれです。健康の証。
メカニズムは以下の3つが考えられてます。
・副交感神経の活性化
・アドレナリン刺激の感受性低下
・Intrinsic HRの低下
詳細略ですが、交感神経がずっと働きっぱなしだと良くないのです。
*副交感神経の活性化は、心拍数の変動が大きい事に繋がります(Higher HR variability)。
→HR variabilityは大きいほど心血管病リスクが低いです。
Reverse remodeling
心臓のremodelingというのは、心筋細胞が繊維細胞に置換され、その部分が動かなくなる(固くなる)事をいいます。結果、SVが減少し、それを補うため心臓が拡張します。
特に心筋梗塞にて顕著で、梗塞箇所に認められる変化ですが、心臓病なら何でも原因になります。
Reverse remodelingとは、remodelingした心臓の機能(SV)が改善することを言います。
→心臓病により心臓が固くなってSVが低下した方でも、運動をすることにより、残っている心筋細胞の収縮力が上がり、心臓が柔らかくなり、心臓が小さくなる可能性があります。
*多くの場合これは期待されますが、心臓移植後は話が別かもしれません。移植後はかなり複雑な状態です。運動がreverse remodelingに関与するという報告はありますが、まだ確定的ではありません。
心臓の「高齢化」を運動で良くする
続いて、なぜ年をとると心臓が悪くなるか、を説明します。
このメカニズムを知ることで、特に高齢者にとって、運動はとても重要なことが分かります。
運動に適切に反応できなくなる
運動中はCOを上げなければいけませんが、COの構成要素であるHRもSVも十分に上昇できなくなります(cardiac reserveの低下)。
この大きな原因の一つは、心臓の自律神経系がうまく機能しなくなることです
…高いカテコラミンに慢性的に暴露していると(高齢者で多い)、心臓のβアドレナリン受容体が脱神経化し、交感神経の活性化を抑制できなくなってしまうのが原因です
→そして、これは運動により可逆的です
*運動により、間質のカルシウムイオン濃度が上昇しづらくなることも原因です。
→すると、心臓の収縮力が弱まります
…高齢化により、これを調整する機能が低下することによると考えられています(SERCA2aなど)
高齢化による心臓リモデリング
上で説明した心臓リモデリングですが、年を取ることで、大まかには次のような変化が起きます:
心筋細胞の肥大化と心臓線維化
→細胞外基質の沈着
→心臓が固くなり、ホメオスタシスが崩れる
運動はreverse remodeling、心臓を柔らかくする効果があると考えられています。
例えば実際、筋トレを行うことで、心臓の柔らかさを保ち、高齢者の心機能低下を予防することが示されています。
負荷をかけることが重要です。
その他
✔心筋細胞のミトコンドリア機能低下
・心筋細胞は勝手にずっと収縮→弛緩を繰り返す、非常に大きなエネルギーを必要とする細胞です。
このエネルギーの源はミトコンドリアにあるのですが、高齢化とともにミトコンドリア機能が低下してしまいます。
=エネルギーが足りなくなってしまうということです。
→これも運動により予防することができます。
✔心筋細胞のロス
・実は高齢化とともに心筋細胞が死んでしまいます。17→90歳で30%もの心筋細胞がなくなるという報告から始まり、エビデンスが蓄積されてきました。
→心筋細胞は分裂しないので、心筋細胞が増えることはないと思われていたのですが、、、
→少しずつ、心筋細胞が新しいものに置き換わっている(年に1%未満程度)ということが、その後わかりました。
→そして、運動により心筋細胞が置き換わるスピードが早くなる、ということが(マウスで)証明されているのです!
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以上、
・なぜ運動が良いか
・なぜ高齢化による心機能低下が運動により予防されるか
を簡潔に説明しました。
次回は分子的なメカニズムについてです。
ではまた。