昨日に引き続き、「何故運動が健康に良いのか」の解説です。
今回は分子的なメカニズムの解説。
実際はかなり複雑ですが、わかりやすく説明していきます。
突き詰めれば、創薬に関連する内容です。
運動がなぜ健康に良いか【分子的メカニズムを解説】
前回記事に引き続き、review論文の解説の続きです(Nat Metab 2020 10.1038/s42255-020-0262-1)。
運動による心機能への影響、心臓の「高齢化」についてはこの記事で解説しています。
今回は分子的なメカニズムについてのお話。
**********
運動により、10万以上の遺伝子、蛋白発現が変わることが言われています。
しかしその多くがassociational change. 原因でないということです。
ここでは、大元の変化だ(主要な原因だ)と考えられているメカニズムを紹介します。
より有効にエネルギー産生できるようになる
・運動
→転写調節因子PGC-1αの活性化(心筋、骨格筋)
→ミトコンドリア生合成を活性化
→ミトコンドリアのエネルギー代謝に関わる遺伝子を活性化
(酸化的リン酸化、脂肪酸酸化(FAO)酵素など)
→運動により増えるATPの需要に対応できるようになる(ATPをより多く産生できるようになる)
*これに加え、PRODHという酵素やMOXIという蛋白が、運動中にエネルギーのホメオスタシスを保つために必要で、最近注目されています。
シグナルカスケード
運動によりIGF1-PI3K-Akt経路が活性化
…PI3Kサブユニットp110が、運動による生理的な心筋肥大に必要
…Aktという蛋白も、生理的な心臓の発育に必要
*かなり省略しています。
基礎研究でかなり重要な領域です。例えば炎症にも関わっています。
Non-coding RNA
運動によりマイクロRNAの心臓での発現量が変化します。
いくつか主要な例だと:
✔miR-17-3pの活性化:心臓発育、虚血への抵抗性に関与
→PTEN(PI3K-Aktのnegative regulator)を抑制
✔miR-222発現の増加、miR-133発現量の低下
→前者は生理的な心筋肥大に関与、後者は病的な心筋肥大にも関与
*miR-222を抑制すると心筋細胞増殖に関わる遺伝子発現が抑制されることから、心筋再生への応用が期待されています。
→詳細には、CITED4 と C/EBPβ という転写因子に関わります
ストレス抵抗性
運動により、次のような変化が起きます
・heat shock protein 72 (HSP72) 蛋白の発現
・HIF-1αという転写因子の発現
・KATP-channelを開く
→これらはischemia-reperfusion (IR) injuryを抑えることが示されています
*IR injuryとは、心筋梗塞で血管が閉塞した後、血管を開いたことで生じる傷害です。
当然血管を開かないとどんどん心筋は死んでいってしまうのですが、開くことで急に血流が流れてくることで、例えば活性酸素が発生して心筋障害に繋がります。
IR injuryを抑える=ストレス抵抗性、という大雑把な認識です。
色々複雑である
このように、運動という単純なexposureに対して、心臓は複雑な分子的なメカニズムで反応します。
信じられないくらい簡略化したのが上の説明なので、実際はとても複雑です。
こういう研究のimplicationとしては、これらがより明確になることで、「運動による良い効果」が得られる創薬に結びつくかも、ということでしょう。
このブログ記事の意味は、、、あまりないかもしれない笑
ではまた。