金銭的な報酬があると人は運動するか?【最新メタ解析】

お金もらえたら運動しますか?

する。と多くの方が答えるでしょう。

本当?ではどのくらい?

実は世の中には既に、歩くと報酬が与えられるシステムが存在します。

それらの効果をまとめた論文を紹介し、どういう原理で人は習慣を変えるか、考えてみます。

 

 

金銭的な報酬があると人は運動するか?

金銭的な報酬があると人は運動するか?

運動すればいいんです。

1週間で150分の中等度の運動、もしくは75分の激しい運動。

たった2時間ちょっとです。

でもしないですよね。色々言い訳して。

 

今や運動しないことは、世界中の深刻な問題です。

どれくらいの問題か。

控えめに見積もって、運動しないことで年間5.4兆円の医療コストが生じています(The Lancet 2016;388:1311–24.)。

皆が運動すれば、この分コストが減るんですよ。

運動すればいいんです。

 

なぜ運動しないか。

これは行動経済学という学問にてよく研究されています。

詳細は後述しますが、例えば「present bias」

「今」の利益に動かされがちだということ

→運動する事による将来の健康(ベネフィット)より、今運動する面倒臭さ(コスト)が上回りやすいのです

 

例えば、この論理に従った一つの解決策は、運動することによる「今」の利益を作り出すこと。

一番わかり易いのがお金です。

実はこういうシステムは、既に世の中に存在しています。

Carrot reward(主にカナダ)

Sweatcoin(主にUK)

聞いたことないでしょうか。歩くだけでお金がもらえるアプリです。

*この2つは既にかなり世の中に広まっておりますが、実はランダム化試験によりその効果は確かめられていません(観察研究では検証されています)。

 

今回紹介する報告は、「金銭的な報酬によりどれくらい運動するようになるか」検討したランダム化試験のメタ解析です(Br J Sports Med. 2019;bjsports-2019-100633.)。

あまり知られてないかも知れませんが、Br J Sports Medは運動関連でのトップジャーナルです。

この論文では、「どういう原理で行動が促されるか」行動経済学による分析も行われています。

では、みてみましょう。

 

 

どういう研究?

「お金、もしくはお金に準じるもの(ポイントなど)を報酬として、運動量がどれくらい上がるか」検討したランダム化試験が対象です。

(詳細をバッサリ省略します)

 

結果、2つの研究を除く、ほとんどの研究では運動量増加に効果ありでした。

 

12の研究、2631人が「歩数増加量」のメタ解析の対象となりました:

・介入期間中(だいたい12-23週間):平均して1日607歩の増加

・介入期間後:平均して1日514歩の増加

*ただしかなりのheterogeneityが認められました(それぞれI2>80%)

→heterogeneityについてはこちら

 

どういう介入がより効果的であったか、検証しました。

介入による歩数の変化の平均の差は:

・ウェアラブルデバイス>スマホ:834歩

・報酬が$1.4USDより多い>少ない:354歩

・運動していない人を対象>運動している人を対象:474歩

・高齢者が対象>対象に指定なし:358歩

 

また、介入期間が長い(23週間以上)方が、介入後の歩数増加量が多い結果となりました:+467歩

 

 

なぜ報酬によって人は運動するか【行動経済学】

なぜ報酬によって人は運動するか【行動経済学】

このメタ解析から、インセンティブを与えることで、少なからず人の運動活動に変化が見られることがわかりました。

しかし、単に報酬を与えれば良い、というのが結論ではありません。

行動経済学に基づく、効果の期待できるアプローチを取る必要があります。

*アプローチ法が異なることが、上記のheterogeneityの原因です

 

なぜ人は報酬による動かされるか。

行動経済学によると、 ”cognitive bias” が関わっていると考えられています(Am J Health Promot 2019;33.)。

いくつか、種類を紹介します。

・Present bias

「今」の利益の方が「将来」の利益より価値が高く感じる

→目標達成してすぐ報酬を貰える仕組み

・Loss aversion

同じ価値でも、何かを得るより何かを失う方が嫌だ

→継続しないともらっている報酬が無くなる、という仕組み

・Over optimism

良いイベントに当たる確率は、実際より高いと感じる

→絶対1ドルもらえるより、1/5の確率で5ドルもらえる方が嬉しい

・Salience   

目立つ、新しい、関連している情報に、より惹きつけられやすい

→報酬がその都度変わる(ミステリアス)、など

・Herd behavior

他の人がやっていることをやりたい

→チームの全員が目標を達した時のみ、全員に報酬が与えられる、など

・Commitment

一貫した自己イメージを保ちたいという信念

→自分が目標達成できなかったら預け金が没収される、という状況をつくる、など

・Fresh start

きりの良い日からスタートしやすい

→一週間の合計達成度で報酬が決まり、月曜にはリセットされる

・Numerosity

大きな数字が好き

→1000ポイント=1円、とかにする

 

運動に対し報酬を与えるというシステムは、基本的にPresent biasにより行動変容を促すものです。

しかしそれだけではない。

アプローチによっては、どの行動原理も取り入れることができますが、この論文で解析対象となったものではSalience, Loss aversion, Fresh start, Over optimismを取り入れたものが多かったです。

 

このように分解してみると面白いですね。世の中の大半のプロダクトが、これらのどれかに基づいています。

 

 

解釈は?

報酬を与える介入によって、1日数百歩程度の運動量増加につながる、という因果関係が言えそうでした。

いちばん重要なlimitationは、それぞれが全く異なるアプローチを取っていることで、かなり有効だったものもあれば、全く有効でなかったものもあった。

結局アプローチ法に依存する、というのがポイントです。

 

✔実は歴史的には、報酬によって、自分の中から湧き出るモチベーション(intrinsic motivation)を下げてしまう、と考えられていました(self-determination theory)。

→この理論では、運動するようになる主要なモチベーションは、「面白いことをやる」という事にある、というものでした。

✔しかし最近、アプローチ法によっては、報酬によって逆に自己肯定感が高まり、行動変容につながることが示唆されています(Health Psychology 2013;32:950–7)。

→アプローチ法によるというのは、例えば大きな報酬があると、それにより行動をコントロールされている感じがしてintrinsic motivationは下がってしまいます。

→要はやりようだ、ということですね。

 

本研究ではモチベーションについて解析されていませんが、介入後も運動量増加が続いている所を考えると、少なからず介入はintrinsic motivationに作用していた事が推察されます。

 

 

理論を知らないと、「報酬→運動するようになる」というRCTの結果だけに目がいってしまいます。それだと浅いですね。

行動経済学、面白いです。

 

 

結論

RCTをメタ解析した所、報酬を与えることで、1日数百歩程度の運動量増加につながる結果となった。

しかしそのアプローチ法が大事。

ではまた。

-論文解説, 運動etc

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