ビタミンDの効果と摂取の注意点【科学的根拠まとめ】

ビタミン・ミネラルシリーズ第2段、ビタミンDです。あまりメジャーなビタミンではないかもしれませんが、実はカルシウムと同じくらい骨の健康に大事です。他にも様々な健康効果をもっています。

この記事では、ビタミンD摂取と健康の関連性、摂取における注意点を、科学的根拠を基に解説します。この記事を読むことで、ビタミンDについて正しい理解ができ、サプリを飲むべきタイミング(あります!)を判断できるようになります。

ビタミンDの効果

ビタミンDの効果

摂取不足による害、推奨範囲内で多めに摂る健康効果、過剰摂取による害、と3つに分けて考えましょう。

ちなみに、単位はIUかμg。1IU=0.025μgです。

摂取不足による害

ビタミンDはカルシウムと共に骨の代謝に関わるので、摂取不足となると骨の健康に関わります。

・ビタミンDが足りないと、カルシウムも足りなくなってしまいます(吸収できないため)。そのため骨からカルシウムが血中にリリースされてしまい、長期的に骨粗鬆症のリスクが高まります(二次性副甲状腺機能亢進症)。

・更にビタミンDの不足が顕著となると、もっと骨が悪くなります。小児ではくる病、成人では骨軟化症と言われます。骨粗鬆症による骨折リスク増加だけでなく、骨痛や筋肉痛も認められます。

過剰摂取による害

そこまで心配いらなそうです。

・ビタミンD中毒は高カルシウム血症に準じた症状がでます(食思不振、倦怠感、多尿、重症だと心室性不整脈)。

※カルシウムとビタミンDのサプリを一緒に飲むと、脳梗塞の(Ann Intern Med. 2019;171(3):190–198.)や腎結石(N Engl J Med. 2006;354(7):669–683.)のリスクを上げることが示唆されています。ビタミンDサプリ単独では、あまり報告されていません。

推奨範囲内で多めに摂る健康効果

様々な健康効果がたくさんの研究で検証されています。まず、2014年のUmbrella review(エビデンスの総まとめ)を紹介します(BMJ. 2014;348:g2035.)。

Umbrella reviewでは、「あるメタ解析で〇〇と結論された」情報がどれくらい信頼できるか、評価するものです。つまり、現時点で最も信頼できる情報となります。

この論文では信頼度合いを「Convincing – Probable – Suggestive – No conclusion – Substantial effect unlikely」と格付けしています。No conclusion以下のものはたくさんあるので、上3つだけ紹介します。血中ビタミンDが高い or ビタミンDのサプリを飲んでいることによる、健康への効果についてのまとめです。

<良い影響>

Convincing:なし

Probable:子供の虫歯(減る)、新生児の出生体重(増える)

Suggestive:大腸癌、脊椎骨以外の骨折、心血管疾患、高血圧、脳梗塞、脳卒中(=脳梗塞と脳出血)、認知機能、うつ病、BMI、メタボリック症候群、2型糖尿病、低出生体重児、妊娠糖尿病、骨密度、筋肉量

<悪い影響>

Convincing:なし

Probable:なし

Suggestive:転倒、慢性腎臓病患者の高カルシウム血症

わかりやすいですね。ビタミンDを摂ることで良い健康効果が色々期待されます(後述しますが、最新のエビデンスでは心血管疾患は予防できなそうです)。

この中で、特に重要な骨と筋肉、癌、心血管疾患、あとインフルエンザを取り上げてみます。

ビタミンD摂取と骨・筋肉

これが問題になるのは高齢者、特に閉経後の女性です。なぜなら骨粗鬆症の頻度が多いから。

彼らはビタミンDを欠乏している可能性がとても高く、ビタミンDのサプリによる骨折予防効果がある程度立証されています(Arch Intern Med. 2009;169(6):551–561.)。800IUのサプリ摂取により、骨折のリスクが20%減りました。ただし、400IUのサプリでは効果がありませんでした。ある程度高濃度のビタミンDでないと効果が期待されないのです。

ビタミンDのサプリによる転倒予防効果もあります。健康な高齢者にとって転倒の主要な原因は筋肉量低下が原因と考えるので、ビタミンDは筋肉にも作用するということです。700-1000IUのサプリにより20%程度転倒リスクが減りました。この効果も、低用量では認められませんでした。

上記のUmbrella reviewではSuggestiveのカテゴリーですが、専門家にはビタミンDサプリの効果は間違いなくあるだろうと思われています。そのため、骨折リスクの高い人にビタミンDサプリを処方することは、様々なガイドラインで定められています。

ちなみに、「1年1回高濃度のビタミンDのサプリを摂る」方法だと、逆に骨折と転倒リスクが増えると報告されています(JAMA. 2010;303(18):1815–1822.)。急に血中濃度を上げると、逆に悪いようです。

ビタミンD摂取と癌

日照時間の少ない場所=ビタミンDが合成されにくい場所では、くる病と同様大腸癌も多いという発見から(Ann N Y Acad Sci. 1999;889:107–119.)、様々な疫学研究が行われてきました。

が、質の高いランダム化試験は2019年にはじめて出版されました(N Engl J Med 2019;380:33-44.)。これは25000人に2000IUのビタミンDかプラセボを投与する試験(VITAL試験)で、5.3年フォローされています。癌による死亡のハザード比は0.83 (95%CI: 0.67-1.02)でした。有意ではありませんが、この試験を含めた最新のメタ解析では、ビタミンDのサプリによりがん死亡率が16%低下すると報告しています(BMJ. 2019;366:l4673.)。

このトピックではcontroversialですが、ビタミンDが不足しがちなpopulationでは、サプリにより癌予防効果があるだろうと言えるでしょう。

ビタミンD摂取と心血管疾患

上述のVITAL試験(N Engl J Med 2019;380:33-44.)では、明らかな心血管疾患予防効果はみとめられませんでした。VITAL試験を含めたメタ解析でも結果は同様でした(BMJ. 2019;366:l4673.)。上述のUmbrella reviewは2014年のものなので、最新の科学的根拠では、おそらくビタミンDの摂取により心血管疾患の予防はできないと言えそうです。

ビタミンD摂取とインフルエンザ

日本で興味深い研究が行われました(Am J Clin Nutr. 2010;91(5):1255–1260.)。350人くらいの子供に1200IUのビタミンDかプラセボを投与し、冬の4ヶ月でのインフルエンザ発症を比較するというものです。結果、ビタミンD投与群ではインフルエンザ罹患リスクが60%以上減りました。この研究は小規模ですが、参考になる部分もあります。

というのは、冬にインフルエンザが流行する一つの理由に、日照時間が少ないからビタミンDを血中濃度が下がることが言われてきたからです(Epidemiol Infect. 2006;134(6):1129–1140.)。

まだ確定的ではないし、インフルエンザ予防にはインフルエンザワクチンが最も有効ですが、冬にビタミンDを摂取することで感染症を予防する効果があるかもしれません。

ビタミンD、どれくらいどうやって摂取する?

ビタミンDは、1歳以上は600IU以上、70歳以上は800IU以上の摂取が推奨されています。

日光(に含まれる紫外線)による自分の皮膚での合成、もしくはサプリからの補給がメインです。

食事からの摂取は、なかなか難しいです。

逆に言うと、普通に外出して日の光を浴びれば、それだけで十分なビタミンDが合成されます。なので、日の光を浴びないデスクワークの人、皮膚でのビタミンD合成力が低下している高齢者や黒人、日照時間の短い場所(北緯40度より北など)に住む人は、ビタミンD欠乏の大きなリスクです。

<日光>

・日光でどれくらいのビタミンDが合成されるのでしょうか?日の光が強い場所で15分くらい全身に日光を浴びると、1000IUのビタミンD摂取くらいの意味合いがあるかもしれません(J Am Acad Dermatol. 2010;62(6):929.e1–929.e9299.)。

日光をいくら浴びても、ビタミンD過剰症となることはありません。浴びすぎるとビタミンD合成を抑制する物質が合成されます(J Am Acad Dermatol. 2006;54(2):301–317.)。

・ただ、ビタミンDとは全く別の観点ですが、紫外線を浴びすぎると皮膚がんの原因となります(J Am Acad Dermatol. 2006;54(2):301–317.)。

・ちなみにSPF10の日焼け止めを塗ると、90%くらいビタミンD合成が低下するといいます(Pediatrics. 2011;127(3):e791–e817.)。

<食事>

きのこ、魚介(かつお、いわし、さば、さけ、あんこうなど)、ビタミンD添加食品に含まれます。一概には言えませんが、一食50-150IU程度のビタミンDを含有していると思われます。

なかなか1日600IU摂取することは困難です。

最初に言ったとおり、摂取源は日光とサプリがメインなのです。

例えば国民健康栄養調査にて、日本人成人の平均摂取量は7.3μg = 292IUと低めです。が、これは食事からの摂取量。よく日光を浴びていれば問題ありません。実際、日本でくる病や骨軟化症をみることはほとんどありません。

実際どうする?

食事による摂取は難しいので、あまり考える必要ないです。

まずは定期的な日光浴、それができない人はサプリによる摂取をおすすめします。

ビタミンDは脂溶性ビタミンだから副作用が心配で。。」という方は多いと思います。が、そもそも不足している人が多く、過剰摂取による問題はほとんど起きません。しかも、サプリの効果は、高用量(800IU以上)のビタミンDサプリを使わないと認められなかったとする報告が多いのです。

晴れが少ない場所や季節、ずっと屋内で作業している方、高齢者は、ビタミンDのサプリにより健康効果が期待できます。

日本では1000IUのサプリがたくさん販売されています。上記のような方は、これを定期的に摂取することで、上記様々な健康効果が期待できます。

結論

ビタミンDは日光かサプリから。

現代、不足している人が多いので、リスクが高いと自己判断したらサプリを飲みましょう。

ではまた。

ビタミンAの効果と摂取の注意点【科学的根拠まとめ】

今日からビタミン・ミネラルシリーズが開始です。最初はビタミンA。あまり意識している人はいないのではないでしょうか。結論から言えば、日本人はそんなに意識する必要はなさそうです(それだけわかれば良い方は、この記事を読む必要ありません)。サプリから摂取する必要も、当然なし。

この記事では、ビタミンAの効果、摂取の注意点について、科学的見地から重要な点に絞って解説します。この記事を読むことで、ビタミンAにまつわる様々な疑問がとけ、食事やサプリに関して自分で判断できるようになると思います。

ビタミンAの効果

ビタミンAの効果

摂取不足による害、推奨範囲内で多めに摂る健康効果、過剰摂取による害、と3つに分けて考えましょう。

ビタミンAが欠乏すると・・

夜盲症が有名です。が、日本ではまず見ません

早産児と嚢胞性線維症患者では注意が必要ですが、ふつう医療機関の介入があります。

発展途上国ではビタミンA欠乏症が問題となっています。

ビタミンAを過剰摂取すると・・

ビタミンA=脂溶性レチノイド(レチノールなど)です。脂溶性なので体内に蓄積するため、過剰症による副作用がでやすいです。

実際、欠乏症より過剰摂取による害の方が多いです。

・吐き気、皮膚乾燥、光線過敏、骨痛など、具合が悪くなります。

喫煙者は、サプリによる過剰摂取により肺癌のリスクが増えるとされます(Cochrane Database Syst Rev. 2012;10:CD002141.

ビタミンAを推奨範囲内で多めに摂る健康効果

結論から言うと、ビタミンA摂取による病気の予防効果は、あまりありません

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・ビタミンAは細胞の色々な活動に必要です(どのビタミンも同じですが)

・ビタミンA摂取量と死亡率・心血管疾患の関連性はありません(Ann Intern Med. 2019;171(3):190–198.

・ビタミンAによる癌予防効果も立証されていません(US preventive service)。例えば、前立腺癌発症を予防すると報告したランダム化試験もありますが(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009;18(8):2202–2206.)、前立腺癌による死亡を予防しない(むしろ増やす)と報告したランダム化試験もあり(Cancer Res. 2009;69(9):3833–3841.)、一貫していません。

加齢黄斑変性(50歳以上の急激な視力低下)の予防に、ビタミンA前駆体であるルテインとゼアキサンチンは効果があるかもしれません(Arch Ophthalmol. 2001;119(10):1417–1436., JAMA. 2013;309(19):2005–2015.)。βカロテンは効果が認められませんでした。この目的でビタミンA(前駆体)の摂取を検討する場合は、医者の指示の下行います

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つまり現在の所、自主的に健康のためにビタミンAやβカロテンを+αで摂取する意味はないだろう、ということです。

ビタミンAの摂取量の目安

ビタミンAの摂取量の目安

単位は、‘レチノール活性当量(μg RAE)’です。

全米アカデミー医学研究所が定める1日の推奨摂取量は以下のとおりです(14歳以上)。

男性:900μg RAE

女性:700μg RAE

妊娠期・授乳期は、これよりやや高いです。

摂取上限(これ以上で害を及ぼしうる量)は、男女とも3000μg RAEです。割と幅が狭く設定されています。

ただこんなことを知らなくても、日本ではほとんど問題になっていないわけだから、別に知る必要すらないとも言えます。

日本人は平均摂取量が推奨摂取量より低いですが、そんなの関係なし。欠乏症はほぼ(全く)起きていないのだから。

βカロテンからのビタミンAは過剰にならない

βカロテンからビタミンAは体内で必要な分だけ合成されるので、βカロテンのとりすぎは注意する必要ありませんJ Nutr. 2010;140(12):2268S–2285S.)。過剰摂取の問題となるのは、ビタミンAを含むサプリです

ちなみに、マルチビタミンのサプリが含有するビタミンAの量は減らされているそうです。じゃあなんでビタミンAのサプリ売ってるんだって感じですね。

どうやって食事から摂るか

ビタミンAに関しては、過剰摂取が問題なわけです。なので、その心配のないβカロテンを摂るのが一番よいです。

βカロテンは、人参、かぼちゃ、のり、しそ等に含まれています。100gに10〜40μgRAEくらいです。これらはいくら食べても大丈夫。

ちなみに、レチノールは豚肉、魚介、レバー、うなぎなどに含まれます。だいたい100gに5〜15μgRAEくらいです。他、野菜・果物・赤肉・乳製品・豆など、何でもビタミンAを含みます。たいした量でないので、食事だけで過剰摂取は基本的に心配いりません。

結論

健康な方はビタミンA摂取を意識する必要なし。

気になる方は人参、かぼちゃ、のり、しそを食べればOK。

サプリは飲まないほうが良い。

ではまた。

食物繊維、なぜ健康に良いか【科学的根拠】

1日どれくらいの食物繊維を摂っていますか?食物繊維が大事だとはよく言われますが、何故大事なのか知っていますか?

食物繊維は、食事がもつ健康効果のかなり大事な部分といえます(栄養素はサプリで摂取できます)。この記事では、食物繊維がなぜ健康によいか、効率よく摂取する方法について科学的根拠を基にわかりやすく解説します。

食物繊維の効果とは

Lancet. 2019;393(10170):434–445.

食物繊維とは何かというと、体内で分解されない炭水化物です。分解されないので、そのまま排泄されます。これが何故良いのかと言うと、腸内に停滞することで砂糖やコレステロール、塩分を吸着し体内に取り込まれる量を減らす/ 吸収をゆっくりにするからです。つまり、糖尿病、脂質異常症、高血圧といった生活習慣病を予防する効果が考えられます。他、水分を腸内に引き込んで便を柔らかくする(=便秘を予防する)効果もあります。以上が生理的な役割です。

これらが機序ですが、より重要なのは疫学研究です。良い機序があっても疫学研究で証明されなければ、健康効果があるとは言えません。そして実際、多くの研究で食物繊維の様々な健康効果が証明されています。

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・かなり信頼できる研究が2019年のLancetに出版されました(Lancet. 2019;393(10170):434–445.)。世界中の185のコホート研究と58のランダム化試験のメタ解析です。なんとサプリメントデータが100ページ以上ある大作です。一番信頼できるので、少し細かくみます。

・コホート研究の結果ですが、食物繊維を取れば摂るほど、死亡率・心血管疾患・2型糖尿病の発症・大腸癌の発症が抑制されることがわかりました。1日25-29gとれば最大の健康効果が期待されます。この図の○はそれぞれのコホート研究の結果、○の大きさはその影響度合いを示しています。縦軸がリスク比、横軸が食物繊維の1日摂取量です。死亡率・糖尿病・大腸癌は面白い程はっきりした予防効果が認められました。心血管疾患については変な曲線になっていますが、よくみると大きい○だけを集めたら直線的な関係になりそうです(予防効果は少ないですが)。グレーの幅は95%信頼区間を示しており、食物繊維の摂取量が多い部分は信頼区間が広い=効果がはっきり推定できていないといえます。結論、食物繊維を1日25-29gとれば、死亡率・心血管疾患・2型糖尿病の発症・大腸癌の発症を20-30%程度も予防できるということです。

・ランダム化試験のメタ解析結果ですが、食物繊維の摂取により体重・血中コレステロール・収縮期血圧の低下が認められました。ランダム化試験はフォローアップ期間が少ないため、死亡率などを比較することはできません。一方ランダム化試験のメタ解析は、より信頼性の高い因果関係を示唆します。なぜコホート研究だけでなくランダム化試験のメタ解析も行ったかというと、それぞれ矛盾しない食物繊維の健康効果があることを確認するためです。つまり、食物繊維を食べることで死亡率や心血管疾患の予防につながるという因果関係を(限りなく信頼性高く)示した、というわけです。

・他、大腸憩室・憩室炎Nutrients. 2018;10(2):137.)や機能性便秘=何かの病気が原因でない便秘(Nutrients. 2019;11(1):91., J Pediatr (Rio J). 2018;94(5):460–470.)、乳癌Ann Oncol. 2012;23(6):1394–1402.)の予防にも効果があることが示唆されています。

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一番大事なことは、食物繊維を1日25g以上とれば死亡率が下がるということです。生活習慣病や大腸癌の予防など、様々な効果があるわけです。

食物繊維、どれくらい摂ってる?

厚生労働省の報告によると、日本人成人は平均1日15gしか摂取していないようです。推奨摂取量は20g程度と低いですが、これは「1日24g以上が理想だが、実際の1日15gとの間をとって20g」と定めたそうです。摂りすぎても悪いことはないです。が、意識しないと食物繊維20gは摂れません。

違う視点の一つの問題は、自分がどれだけ食物繊維を摂っているか計算が難しいということです。アプリもいくつか出てきていますが、何らかの方法で「普段どれだけ食物繊維を摂っているか」わかれば、行動変容に繋げられる気がします。特に、健康意識の高い方は。

食物繊維の効果的な摂取法

バナナはとても良い食物繊維源

食物繊維をたくさん含む食物は、野菜果物全粒穀物豆類きのこです。

このブログで何度も書いていますが、ルーチンとして定期的に摂取しないと、健康効果は得られません。一時期鬼のように食べても、その後食べなくなってしまっては駄目です。

定期的に摂取するためどうすればよいか、いくつかTipsを提示したいと思います。

<Tips>

主食を全粒穀物にする。白米しか食べない方は、50%玄米入れる。白い食パンを茶色い食パンにする。パスタやシリアルも同様。これは毎日食べるので、効果が大きい。

フルーツジュースの代わりにフルーツを食べる。100%でもジュースにしてしまうと、食物繊維としての炭水化物が代謝される炭水化物(=砂糖)となってしまうので、砂糖入り飲料となり、その悪影響が現れる(=肥満・糖尿病)

スナックや甘いお菓子をやめて、豆菓子(できれば甘くないもの)を食べる。

・ちなみにあんこは、こしあんの方が粒あんより食物繊維が多い。

・自炊するときは、切り干し大根やほうれん草、かぼちゃ、納豆などの小皿を必ずつける

・おかずにきのこ類を加える。しいたけ、えのき、まいたけ、ぶなしめじ、何でも良い。

最後に注意

腸の器質的な狭窄(=病気が原因で内腔が狭くなっていること)がある場合、食物繊維の摂取はイレウスの原因となってしまうので、避けるよう指示されます。原因疾患は機械性イレウス、大腸癌、クローン病、潰瘍性大腸炎など。いつか消化器内科の先生に詳細を聞いてみようと思います。

結論

野菜・果物・全粒穀物・豆類・きのこを食べて、1日25-29gの食物繊維を摂れば、20-30%の死亡率・糖尿病罹患・大腸癌罹患リスクの低減につながります。

ではまた。

Intermittent fasting (間欠的断食)の科学的解説【2020年流行る】

2019年の年末、New England Journal of Medicineという最も権威の高い医学誌に、Intermittent fasting (間欠的断食)のreview articleが掲載されました(N Engl J Med. 2019;381(26):2541–2551.)。Intermittent fastingは近年非常に注目されている食事法で、体重減少や長期的な健康に寄与するものと期待されています。そして、よくある癌患者に対するインチキ医療で、時々癌サイズが縮小したという報告は、一部Intermittent fastingで説明がつきます

この雑誌に掲載されたということは、医学界で最も注目されている方法だということを意味します。学問的にも商業的にも、2020年間違いなく流行ることが見込まれます。

この記事では、Intermittent fastingとは何か、Intermittent fastingの方法と効果について、この論文内容から概説します。この記事を読むことで、Intermittent fastingの基本と最新の知見が得られます。

Intermittent fastingとは何か?

Intermittent fastingとは何か?

間欠的に断食をすることで、細胞のエネルギー源を糖や脂質からケトン体に変えることです。総摂取カロリーを少なくするだけでなく、代謝経路が変わること(metabolic switching)自体が健康に寄与するというのです。背景としては、人間は8-12時間絶食にすると血中ケトン体濃度が上昇し、metabolic switchingが起こることにあります(N Engl J Med. 1970;282(12):668–675.)。定期的にそれくらい長く断食すると、人間の健康状態によい影響をもたらすだろう、ということです。

具体的には、インスリン抵抗性の改善、血圧低下、脂肪減少、運動の健康効果増加などが報告されています。人で試されている方法は3種類あります。

・1日ごとの断食(alternate-day fasting)

・1週間に2日の断食(5:2 intermittent fasting)

・1日の中で時間を決めた断食(daily time-restricted feeding)

これらをどう実践するかは後述します。

Intermittent fastingは、人間本来のあるべき形

今でこそ1日3食が主流ですが、昔はそうでありませんでした。ヒトは狩猟民族で、安定して食物を確保できていませんでした。多くの臓器は、断食に耐えてホメオスタシスを保つことのできるよう設計されているのです。細胞はintermittent fastingに対し、抗酸化作用の発言、DNA復元、蛋白のquality control、オートファジー、炎症反応の沈静化などで反応します。これによりストレスにうまく順応するわけです。

より細かいメカニズムもありますが、大事なのは人間での疫学研究です。いくら良いメカニズムがあっても、疫学研究で証明されなければ意味がありません。人間にはどういう効果があるのでしょうか。

Intermittent fastingの効果

ここに疫学研究による科学的な根拠を紹介します。

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・50人の健康な成人を対象にした研究です(Cell Metab. 2018;27(4):805–815.e4.)。2年間のIntermittent fastingにより、肥満・インスリン抵抗性・脂質異常・高血圧・炎症が改善されました。

・肥満女性100人で単なるカロリー制限とintermittent fastingを比較した試験です。6ヶ月後、体重減少は同程度でしたが、intermittent fasting群でより大きなインスリン抵抗性の改善と胴囲の減少(=腹部脂肪の減少)が得られました(Br J Nutr. 2013;110(8):1534–1547.

・4:3 intermittent fasting(1日断食を1週間に3日)により、境界糖尿病・糖尿病患者のインスリン抵抗性が改善した(=糖尿病のレベルでなくなった)という報告もあります(Cell Metab. 2018;27(6):1212–1221.e3.)。一方、1年のalternate-day fastingでインスリン抵抗性が改善しなかったという報告もあり、さらなる研究が必要です(JAMA Intern Med. 2017;177(7):930–938.)。

高血圧・脂質異常症・糖尿病に対し良い影響が認められることは、その他多くの研究で確かめられています。

・Case seriesでエビデンスレベルは低いですが、神経膠芽腫の患者がintermittent fastingにより癌進展が遅くなり生存率が上昇したという報告があります(Nat Rev Cancer. 2018;18(11):707–719.)。現在、多くのトライアルが進行中です。胡散臭い「代替医療」が一部の癌患者に効果があった理由となるかもしれません。

・高齢者で言語記憶能力、作業記憶が改善しました(Proc Natl Acad Sci U S A. 2009;106(4):1255–1260., CNS Spectr. 2019;1–7.

・その他、認知症、喘息、多発性硬化症、関節リウマチ、外傷による組織破壊を予防・改善させることが期待されています。これらはまだコホート研究では確認されておらず、case seriesや動物実験で示唆されています。

心血管疾患の頻度をみる程、大規模かつ長期間フォローされたランダム化研究は、今の所ありません。が、このNew England Journal of Medicineの論文こそが、「Intermittent fastingの大規模ランダム化試験やりますよ〜〜!」と言っているようなもの(だと思います)。

Intermittent fastingの対象・方法

本質的には、8-12時間以上断食し、metabolic switchingを生じさせることにあります。

今の所、医療としてのIntermittent fastingの対象は、肥満・糖尿病。心血管疾患・癌患者だそうです(N Engl J Med. 1970;282(12):668–675.)。そして、しっかり必要な栄養を食事から摂ることが前提にあります。

本論文では、5:2 intermittent fastingとtime-restricted feedingの具体的な方法が解説されています。

<5:2 intermittent fasting>

1ヶ月目:1週間に1日、カロリー摂取を1000kcalとする

2ヶ月目:1週間に2日、カロリー摂取を1000kcalとする

3ヶ月目:1週間に2日、カロリー摂取を750kcalとする

4ヶ月目:1週間に2日、カロリー摂取を500kcalとする(これがゴール)

<time-restricted feeding>

1ヶ月目:1週間に5日、1日14時間の断食を行う

2ヶ月目:1週間に5日、1日16時間の断食を行う

3ヶ月目:1週間に5日、1日18時間の断食を行う

4ヶ月目:毎日、1日18時間の断食を行う(これがゴール)

※断食のときには、お茶やコーヒーは飲んで良いですが、牛乳はだめです。

論文では医師が行う処方としてのintermittent fastingを念頭に置いていますが、これにならって自分で実践するのもよいと思います。食べるときはしっかり食べて、栄養素不足にならないよう注意しましょう。食事が1日1回か2回になるので、十分な栄養素を自分で摂取できることが前提です。

Intermittent fastingの問題

Intermittent fastingは健康に良いだろうと考えられていますが、実際行うにあたり、いくつか問題点があります。

・先進国においては、どこでも食事が手に入り、しかも企業のマーケティングが激しい為、食べたくなってしまう。fastingを継続することが難しい。

医師がintermittent fastingの効用を知らない。知らないから勧められない。

最初の1ヶ月間は、断食期間がつらい。おなかすいたり集中できなかったりイライラしたりする。ただ、1ヶ月過ぎると問題なくなる(Br J Nutr. 2013;110(8):1534–1547.など)

栄養バランスを考えないと、特定の栄養素不足となるかもしれない。

一人でやるのは、なかなか精神的に難しく、長続きしません。まさに、ビジネス的にも今後の発展が見込まれる領域です。

結論

今後必ず、さらなる(良い)エビデンスが出て来ます。そして最終的にはintermittent fastingが肥満・心血管疾患・癌にとどまらず、全ての生活習慣病に対する一つの治療戦略となるでしょう。

更には、intermittent fastingを補助するデバイス・方法の開発は、企業にとってかなり期待できるものとなるでしょう。

ではまた。

「食べ残しをしない=アルコールを飲みすぎない」の説明【STOP食料廃棄物】

食べ物が食べられずに捨てられることで、どれだけ地球に被害が及んでいるか知っていますか?半端でありません。ヒトの食事と地球のsustainabilityは密接に関係しているのです。

この記事では、食料廃棄物によるplanetary healthへの影響を、科学的根拠を基に紹介します。そして、食べ残しをしない事は、アルコールを飲みすぎない事と同じレベルの事だ、ということを説明します。やや哲学的ですが、とても大事なことです。

食料廃棄物のヤバい影響【数字で見る】

食料廃棄物のヤバい影響【数字で見る】

世界で1/3の食料、年間13億トンが食べられないで廃棄されています(Waste Manag. 2017;59:442–450.

・アメリカでは40%の食料が食べられないで廃棄されています(PLoS One. 2009;4(11):e7940.)。17兆円に匹敵

・日本の食料廃棄物は年間643億トン(環境省・平成28年度推計

・アメリカだけでも、食料廃棄物を15%減らせば、毎年2500万人の人に食料を供給できます(PLoS One. 2009;4(11):e7940.

数字が大きすぎてあまりイメージわきませんね。

食料廃棄物が地球環境に悪い理由

無駄なコスト(労力、土地、原材料、水)が食糧生産に使われます

・食料販売段階でも無駄なコストが生じます

・食料生産〜購買に至る過程でエネルギーが無駄に使われ、大気汚染の原因となります

・食料廃棄物が分解される時にメタンガスが生じ、これが地球温暖化の大きな原因となります(Waste Manag. 2017;59:442–450.

・うまく使えば、世界中の飢餓を解決する手段となります(米国環境保護団体

そんなこと知ってるよ、という感じでしょうか。

食料廃棄物の対処

食料廃棄物の対処

事は単純でありません。減らすには、各セクターの連携が必須です。

・国や市:様々な啓蒙や、フードバンクの活用(余剰食物を寄付すると税を一部還付するなど)

・ビジネス:効率化の徹底。buy-one-get-one freeでなく半額セールとすること(特にアメリカ)

・農家:形の悪い食料も売るようにする

・消費者:食べ残しをしない

どうしても出てしまう食料廃棄物は、人に配る→動物に与える→工業で使う→土壌の開発に用いる→捨てる、という優先順位で対応します(米国環境保護団体)。上の図(Food recovery hierarchy)はそれを示しています。

私達にできることは、食べ残しをしないこと。子供には食べ残しをしないよう教育するのに、大人がしていては。。。私達が、普段から食べ残しをしないよう意識しなくてはなりません。これが地球温暖化の防止を始めとする、planetary healthにつながっていきます。

何故この記事を書いたか

これが言いたいことです。「ヒトへの健康」の科学的根拠も「planetary health」への配慮も、大まかには変わらないということです。どういうことでしょうか?

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疫学研究での「ある食事の健康への効果」は、平均因果効果(average causal effect)として推定されます。これは例えば、「地球人がアルコールを飲んだことによりどれくらい癌のリスクが上がるか」の程度を意味します。最も質の高いエビデンスは、たくさんの人種を全て対象にした大規模研究(メタ解析)です。アルコールだと、2018年の195カ国のメタ解析でしょう(Lancet. 2018;392(10152):1015–1035.)。この記事にも書きましたが、この結果が日本人に当てはまるものだとは到底思えないので、個々の行動や国の政策はその集団ベースの疫学研究結果に基づくべきです(日本人とロシア人で効果が違うことは容易に想像できます)。が、繰り返しますが、最もエビデンスレベルの高い=最も普遍的真理に近い因果関係とは、このような大規模研究の結果から推論されます。

裏を返せば、「あなた個人が酒をたくさん飲んでいるからといって、癌になるとは限らない」ということです。これは「あなた」という個人での因果関係を言及しており、平均因果効果のアプローチでは推察できませんお酒を飲むのはあなたですが、癌になるのは「あなたを含む地球人という母集団(での確率)」なわけです。これが平均因果効果の理論の根幹かつlimitationです。

つまり、planetary healthを考えることと何ら変わりがないということです。planetary healthはどう意味を持つかと言うと、地球人という種を温存するために、個人がどう行動すればよいかという指針です(Lancet. 2019;393(10170):447–492.)。食料廃棄物を減らすのはあなたですが、それによる恩恵を受けるのは「あなたを含む地球人という母集団」です

平均因果効果だけでなく、中心極限定理に代表される統計学がこのフレームワークに基づいています。なので、現代主流の臨床研究や疫学のアプローチは全て、planetary healthを考えることに収束していく、と私は考えています。これと異なる考え方が、individual treatment effectだったり、precision medicine, personalized medicineなわけです。

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ここまで意識している研究者は少ないかもしれませんが、これが本質だと思います。ちょっと難しかったでしょうか?また他の記事でも説明していこうと思います。

結論

食べ残しをしない事は、アルコールを飲みすぎない事と同じレベルの事を言っている。だから食べ残しをしないようにしよう。

ではまた。

近いうちに牛肉と豚肉が世界中で規制されると予想します【Planetary health】

大胆に予想します。今から5年以内くらいに、牛肉・豚肉税が導入され赤肉が世界中で規制されていくと思います。これは、最近のpublic healthの動向から推察されます。

この記事では、私がなぜ赤肉が今後規制されると思うか、その背景にある ‘Planetary health’という概念とは何か、そしてどのようなビジネスが流行ると思うか、説明します。近い将来、私達の生活に密接に関係する、とても大事なことです。

Planetary healthを考える時代に入った

Planetary healthを考える時代に入った

2019年、ハーバードからLancet誌に重要な論文が出版されました(Lancet. 2019;393(10170):447–492.)。不健康な食事が、人間だけでなく地球にも害を及ぼしていることの警告です。このままでは地球はもたない(sustainabilityがない)と指摘しています。

特に欧米式食事が問題です。カロリー過多+加工食品(砂糖や塩や不健康な油など)+動物由来の食べ物。これらは、人間の健康を害する、人間にとって必要のない食事なのです(美味しいものもありますが)。更に悪いことに、欧米式食事は地球温暖化、大気汚染、様々な生物の絶滅、土地と水の浪費に寄与しています(J Nutr. 2003;133(11 Suppl 2):3907S–3910S.)。そして、2050年までに地球の人口は更に10億人増えることが予測されています。。

食事はhuman healthだけでなく、planetary healthにも関わることなのです。アクションを起こさねば、地球の存続(sustainability)が危ぶまれます。

何を食えばいいの?

この記事でまとめていますが、一言で言えば地中海式食事です。

少し細かく言えば、野菜果物ナッツ全粒穀物・砂糖なし飲料を摂取し、赤肉加工食品精製穀物砂糖入り飲料は避ける、ということです。

この食事パターンに変えると、なんと地球規模で死亡率が19〜23.6%減ることが示唆されています(Lancet. 2019;393(10170):447–492.)。ヒトの健康には最も良い食事スタイルです。

このLancet論文では、「赤肉や砂糖の消費を50%削減し、野菜・果物・豆の消費を2倍にする必要がある」と言及しています。この論文には全世界の主要な疫学者が名を連ねており、これが、今後世界が向かっていく方向です。

具体的にどうなっていくの?

具体的にどうなっていくの?

「牛肉を食うな」と言われても、安くて美味しいから食べたいわけです。砂糖も同じで、安くて美味しいからクッキーを食べるわけです。それが自分や地球の健康に悪いことがわかっていても。

じゃあどうすれば地球は良くなっていくんでしょうか?一つはっきりしている方法が、政府の規制です。例えばsugar taxは既に導入されている所もあります(フィラデルフィアでは1オンス1.5セント)。タバコのように、税を課せば消費は減ります。だから、赤肉(牛肉や豚肉)に税が課される動きが出てくると予想します。

様々なステークホルダーが抵抗することは目に見えています。が、科学的根拠に裏付けられているだけでなく、世界中が地球のsustainabilityを重視する雰囲気になってきているので(グレタさんも一役かっています)、間違いなく進むと思います。特にアメリカでは、公衆衛生のアカデミアによる影響力が大きいので、かなり早めに(きっと5年以内くらいに)赤肉税が導入される動きになっていくと思います。勘ですが。

日本はかなり保守的なので、中々変わらないかもしれません。そもそもトランス脂肪酸が規制されていないくらいなので。。。日本の政治家も、牛肉を規制するリーダーシップをとることなんて、なかなかできないでしょう。きっと、あまりに変化が遅く、他の国からかなり避難を浴び、それから変わっていくと思います。

こういうビジネスが流行る(予想)

大事なので繰り返しますが、「赤肉や砂糖の消費を50%削減し、野菜・果物・豆の消費を2倍にする必要がある。」これは間違いない方向です。すると、どういうビジネスが主流になっていくか、なんとなく予想できます。

赤肉をつかわずに赤肉の味を出す:Impossible Foods, Beyond Meat

美味しい(日本の)野菜果物を世界に届ける:Oishii Farm

美味しい(日本の)寿司を世界に届ける:スシロー

人工甘味料を使った飲み物:〇〇ゼロ、ダイエット〇〇(これが本当に砂糖入り飲料より健康的かは、結論が出ていませんが)

・他、美味しい豆腐料理、美味しい豆料理のビジネスは、絶対流行ります

実際に赤肉が規制される前がスタートアップの勝負だと思います。個人的に投資するのも、こういう趣旨のビジネスが良いかもしれません(投資素人ですので参考までに)。

結論

ヒトの健康と地球のsustainabilityのために、今後赤肉と砂糖が世界中で規制されていく(税が導入されていく)理由について紹介しました。

規制される前から、それを前提とした生活習慣・行動を考えていきましょう。

ではまた。

塩分摂取を減らすには―4つの戦略

塩分摂りすぎた・・・。そう思うことありませんか?塩分は健康に悪いことは広く知られていますよね(科学的根拠はこちら)。具体的な「塩分を減らす戦略」を考えて実行したことがあるでしょうか。

この記事では、塩分摂取量を減らす具体的な戦略について解説します。この記事を読むことで、理想的な塩分摂取量に近づくことが期待されます。

この記事はこのハーバード公衆衛生大学院の記事を参考にしています。

塩分摂取を減らすための基本

塩分摂取を減らすための基本

まず基本事項を確認しておきましょう。

・塩(塩分)とは、だいたい40%がナトリウム、60%がクロライドです。ナトリウム100mgは、塩250mgに相当します。

・1日に必要な量は、ナトリウムで500mg(食塩1.25g)です。

・日本人が推奨されている1日量は、男性が食塩8g以下、女性7g以下です。高血圧患者は6g以下(欧米では4g以下)です。

・日本では、年々一人あたりの食塩消費量は減少してきています。今だいたい平均食塩摂取量は1日10gくらいです。しかし、これは世界的にかなり多いレベルです。

・小さい頃からしょっぱい食事に慣れてしまうと、それを変えるのはかなり難しくなってしまいます。小さい頃から、高血圧への道が始まっています。

戦略1:加工食品を避ける

加工食品とは、加工肉(ハムやソーセージ)、ピザ、クラッカー、チーズ、缶詰め、シリアル、パン、サンドイッチ、お菓子、レストランでの食事などを指します。ソースやドレッシングにも多量に含まれます。そしてこれらは、しょっぱくなくても塩分がたくさん含まれています。

特に、食パンに注意しましょう。私が普段食べる全粒穀物の食パンは、一枚190mgのナトリウム(0.5g弱の食塩)が含まれています。3枚食べれば、それだけで1日に必要な食塩量に達してしまいます。

加工肉を避けることは非常に理にかなっています。不健康との関連がかなりはっきりしており、発がん性物質Group1(最も確実)です。食塩の量も半端ないです。

コンビニで弁当を買うときは、少し塩分量を気にしてみましょう。ポテチを控えましょう。

戦略2:しょっぱいものは、習慣的に食べる量を減らす

つけものや味噌汁や寿司醤油のことです。これらを習慣的に食べる方は、量を減らすことはできないか、考えてみましょう。

味噌汁は1杯1.5-2.2gの塩分が含まれます。醤油の小皿にはだいたい5-10mlの醤油が入ります。醤油は15-18%の塩分濃度です(10ml中1.5-1.8gの塩分が入っています)。

例えば、お通し出でてくる漬物を食べないようにする。味噌汁は1日1-2回にしておく、寿司につける醤油の量を少なめにする。

習慣的に食べるしょっぱいものの絶対量を減らすことができれば、非常に効果的に塩分含有量を減らすことができます。

戦略3:減塩醤油、減塩味噌を使う

めちゃ重要です。塩分が30%減っても、人間の舌は味の変化を完治できないとも言われています。個人的にも、減塩醤油を使っても全然問題を感じたことはありません。

減塩醤油は、9%以下(100ml中9g以下)の塩分濃度の醤油に表記されるようです。味噌の食塩濃度は10-13%で、減塩味噌は8-10%程度のようです。

子供にとっても、幼少期から減塩食に慣れたほうが良いです。高血圧になってから減塩するのは遅いし、大変です。

戦略4:自炊する

結局自炊に落ち着きます。できる方は、自分で塩分摂取量をコントロールするのがよいです。自炊に慣れると、レストランでの食事がしょっぱく感じるようになります。それほど多量な塩が使われています。

具体的なレシピを紹介できるほど料理がうまいわけではないですが、例えばトマト缶と野菜で作るトマトスープは、no saltで美味しいです。煮込むと野菜の旨味がでているのかな。トマト缶は食塩非添加の缶詰を選びます。

結論

加工食品を避け、しょっぱいものの絶対摂取量を減らし、減塩〇〇を使い、自炊する。できることからやっていきましょう。

ただ、塩分だけに気を取られて、基本を見過ごしてはいけません。他に、より重要な事がたくさんあります。

ではまた。

本当に塩分制限したほうが健康に良いのか?

「塩分摂りすぎてはいけません。」知っていますが、どこまで気をつけていますか?実際どの程度病気と関係しているのか知っていますか?高血圧と関連することは知っていても、降圧薬を飲めばよいのではないの?

この記事では、塩分摂取過多が原因と考えられている病気を網羅的に紹介し、塩分制限の意義を考察します。降圧薬が普通に手に入る現代、塩分摂取による健康への影響は、実際少なくなってきています。この記事を読むことで、どの程度の本気で塩分摂取を控えたほうが良いか、判断できるようになります。

塩分摂取を原因とする病気一覧

塩分摂取を原因とする病気一覧

一番有名なのは高血圧ですが、高血圧というのは心血管疾患のサロゲートマーカーに過ぎません。一番重要なのは死亡率、次に心血管疾患や癌の発症です。

ちなみに、ナトリウム100mgは、塩250mgに相当します

死亡・心血管疾患

・高血圧は間違いのない心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)の原因です。

・しかしメタ解析では、食塩摂取が高い群と低い群を比べると、死亡・心筋梗塞等のリスクに有意差は認められませんでしたBMJ. 2013;346:f1326.)。脳卒中は、食塩摂取により24%程度リスクが増加しました。これは、高血圧患者には降圧薬が投与されるため、それにより著名なリスク低下が得られたことを示唆します。

・少し細かいことですが、食塩摂取量を減らすことで血圧が下がっても、心血管疾患を予防できるかは、実はcontroversialです(Dietary Reference Intakes for Sodium and Potassium 2019)。背景には、食塩による悪影響の感受性の高い人と低い人がいることが示唆されています。

・2015年のメタ解析ですが、食塩摂取を5g増やすごとに12%胃癌のリスクが上がるとされています(Eur J Cancer. 2015;51(18):2820–2832.)。

・大豆製品は概して健康によいのですが、味噌汁だけは1日3回飲むと胃癌の発生率が増えてしまうという日本の報告があります(Sci Rep. 2017;7(1):4048.)。理由は、大豆製品の中でも味噌は高い塩分濃度をもつからと考えられます。これの解釈は注意すべきですが(ここ参照)。

血圧

・食塩摂取は高血圧の間違いない原因です。例えば2013年のメタ解析では、食塩1日5g未満は5g以上と比較して収縮期血圧3.4mmHg低い結果となりました(BMJ. 2013;346:f1326.)。

・2019年のメタ解析では、2.3gのナトリウム(5.75gの食塩、ティースプーン1杯)を減らすことで、収縮期血圧131mmHg以上の人は7.7mmHgの血圧低下、131mmHg以下の人は1.5mmHgの血圧低下が見込まれました(Am J Clin Nutr. 2019;109(5):1273–1278.)。

その他

慢性腎臓病:2014年のメタ解析ですが、食塩11.5g以上とたくさん摂取すると、それ以下と比べ慢性腎臓病のリスクが増加します(Am J Hypertens. 2014;27(10):1277–1284.)。しかし、それ以下に関しては明らかな関連性は認められませんでした。これも上記同様、食塩への感受性が人によって違うだろうと示唆されています。

骨粗鬆症:おそらく食事からの塩分摂取量が多いと骨粗鬆症のリスクが上昇します(J Am Coll Nutr. 2018;37(6):522–532.)。

意外に病気と関連していない!?

意外に病気と関連していない!?

砂糖赤肉と比較して、塩分と病気の関連性は弱いように思えませんか?そう、弱いのです。そして、これはひとえに降圧薬のおかげです。

世界中で高血圧のスクリーニングがなされるようになり、ふつうに降圧薬が処方されます。降圧薬には、ARBやACE阻害薬といって腎保護作用をもつものもあります。これが著明に心血管疾患や腎疾患罹患リスクを下げているのです。だから、現代において、‘世界中の人を平均すると食塩摂取がやや多いくらいだと、深刻な病気のリスクが著明に上がる可能性は少ないと言えます(しっかり降圧薬を飲めば)。

では塩分をとっても大丈夫?

大丈夫、とはならないです、残念ながら。次のような理由です。

・まず、人によって塩分への感受性が異なります。心血管疾患のような重要なアウトカムと食塩摂取量の関係は、コホート研究でしか証明できないのですが、コホート研究ではその‘感受性’という因子で調整できません(感受性が何かわかっていないから)。もっと簡単に言うと、塩分を摂取する人で健康に悪い効果がかなり出やすい人がおそらくいるということです。

・塩分摂取量に応じて、心臓への負荷は間違いなく変わります。心不全患者の診療をすればわかりますが、経験上、いくら薬を飲んでいても塩分摂取量が増えると心不全で入院するリスクが増えます。2019年のliterature reviewではcontroversialとなっていますが(Am J Med. 2020;133(1):32–38.)。経験上因果関係がはっきりしていても、コホート研究で因果関係を言うにはある程度限界があるのです(もちろん私の経験が一般的でないのかもしれません)。話が逸れました。健常者にとっては、心臓に少し負荷がかかっても全然影響はないです。

・降圧薬を一生飲みたいですか、という話があります。お金もかかるし(自分も国も)、飲みたい人はいません。

胃癌については、血圧とは関係ない食塩の効果だと考えられます。日本人は胃癌が多いですが、これは食塩摂取量が多いことが主要な原因だと考えられます。

塩分摂取量を減らす具体的な戦略に関しては、この記事を参照下さい。

結論

降圧薬が非常に優秀なので、高血圧による心血管疾患や死亡のリスクは抑えられます。しっかり飲めば。

が、それでも減塩は健康のために必須です。日本人は食塩摂取量が多すぎます。

ではまた。

なぜ日本でトランス脂肪酸が禁止されないか

先進国で(日本で)トランス脂肪酸が禁止されていないのは、とても不名誉なことです。色んな言い訳があるにしても、それは国民の健康に配慮していないことを意味します。例えば、スーパーに売っているクッキー。日本ではショートニングが使われていますが、他の先進国では使われていません(健康に悪すぎるため)。

この記事では、アメリカでトランス脂肪酸が禁止されるに至った歴史を振り返り、なぜ日本で禁止されないかを考察します。

油と健康の関連性についてはここでまとめています。

トランス脂肪酸が禁止されるまでの経緯(アメリカ)

トランス脂肪酸が禁止されるまでの経緯(アメリカ)

そもそもトランス脂肪酸とは、不飽和脂肪酸の一部を水素化し、油なのに個体で安定化させたものです。これは19世紀後半に化学者がはじめて合成し、安価かつ個体で輸送が簡便となったため、またたく間に商用利用されていきました(Annu Rev Nutr. 1995;15:473–493.)。具体的には、マーガリン、ショートニング(として)、レストランでの揚げ物、ドーナッツ、クッキーなどに使用されてきました。

その当時、トランス脂肪酸は健康なものと考えられていました。なぜなら植物性油から合成されているからです。それまでは、動物性油に代表される飽和脂肪酸が主流だったので、一気にトランス脂肪酸の消費が増え、アメリカ人の全カロリーのうち2-3%をトランス脂肪酸が占めるようになりました。ちなみに現在WHOは1%以下の摂取とするよう推奨しています。

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それから100年弱経ち、1981年にある症例対照研究が出版されました(Am J Clin Nutr. 1981;34(5):877–886.)。心筋梗塞 or 他疾患で死亡した患者の脂肪組織を調べると、心筋梗塞患者において、トランス脂肪酸由来の脂肪が不飽和脂肪酸由来の脂肪より多い傾向にあった、という報告です。

その約10年後、New England Journal of MedicineとLancetという最も権威の高い医学誌に、「トランス脂肪酸はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を上昇させる(N Engl J Med. 1990;323(7):439–445.)」、「トランス脂肪酸は心血管疾患の発症に関わる(Lancet. 1993;341(8845):581–585.)」、という重要な報告がなされました。

2003年、イリノイ大学のFred Kummerow教授主導の下、ハーバードや他機関が政府に働きかけました(The New York Times)。そして2006年、FDAが「食品ラベルにトランス脂肪酸の量を表示しなくてはならない」と定めました。

これがものすごいインパクトでした。そのころ、ほぼ全てのクッキー、シリアル、クラッカーにトランス脂肪酸が使われていたのですが、消費者がトランス脂肪酸を避け始めたため、企業は他の調理法を必至で模索しました。結果、2010年にはほとんどの製品が飽和脂肪酸を使って作られるようになりました。100年前の調理法に戻ったのです。ちなみに、このラベルのお陰で、アメリカ人の血中トランス脂肪酸が58%も低下したとの報告があります(JAMA. 2012;307(6):562–563.)。ラベリングだけで。

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更に研究が進み、2015年にFDAは「トランス脂肪酸は一般的に安全と考えられていない(no longer generally recognized as safe)」と発表。来る3年間でトランス脂肪酸の全廃を指示しました。いくつかの細かい例外はありますが、それも2021年までには認められなくなります。

決定的なエビデンスが出た1990年から、約30年で完全廃止まで至ったのです。科学的根拠が国の政策を動かし、public healthに寄与した非常に良い例なのでした。

日本ではトランス脂肪酸が禁止されていない。。

日本ではトランス脂肪酸が禁止されていない。。

もちろん日本でも問題となりました。2005-2007年に農林水産省が調査を行い、2012年に食品安全委員会が報告書を公表しました(参考資料)。この発表にて、「日本人の大多数がエネルギー比1%未満(約0.3%)であり、また、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられる(ため規制は必要なし)」と結論されました。

結果、販売が制限されるどころが、ラベリングの義務も課されず、現在に至るわけです。

つまり日本人の平均摂取量が少ないことが、トランス脂肪酸販売を許可する理由になっています。これは妥当なのでしょうか?

日本の政策決定は科学的・倫理的でない

本来であれば、米国の運動のきっかけになった報告(Lancet. 1993;341(8845):581–585.)のように、「日本人において、トランス脂肪酸がどの程度心血管疾患の発症や死亡に寄与しているか」というのが科学的な根拠なわけです。しかし日本の根拠は、「今、日本人は平均してどのくらいトランス脂肪酸を摂取しているか。」これに基づいた政策決定が妥当でなわけありません。理由は例えば以下のとおりです。

・平均で摂取量が低くても、中にはたくさん摂取して、そのせいで心血管疾患となる人がいる

・WHOの基準の1%というのは日本人を基準にしていない。地球人を一律の対象としており、特に発展途上国の目安(国民の健康にかけるお金が少ないから)

・そもそも1%未満ならよいというわけでない。トランス脂肪酸摂取と心血管疾患の因果関係は用量依存的にほぼ間違いない

・トランス脂肪酸の平均摂取量が少ないから規制が必要ない、というのは論理的に正しそうだが、倫理的に正しくない。ふつう倫理的には、健康に悪いもので代替があるものは禁止されるべき

まあこんな事は、科学者なら誰でも理解できます。日本でトランス脂肪酸が禁止されていない原因は、他のところにあるでしょう。

日本での政策決定が科学に基づいていない原因を考察

日本での政策決定が科学に基づいていない原因を考察

ここからは私の妄想ですが、お付き合い頂ければ嬉しいです。

日本経済との関わりは、とても重要な要素です。マーガリンとショートニングは国内産業保護のため高い関税が設けられており、国内生産量は極めて多いのです(マーガリンで15.3万トン、参照)。マーガリンやショートニングを作るメーカーの団体、日本マーガリン工業会には、多くの有名企業が名を連ねています;花王、日清オイリオグループ、明治、雪印など(日本マーガリン工業会HP)。よくテレビ番組にスポンサーしている企業です。だから、トランス脂肪酸が悪いという世論が形成されにくく、政策に反映されにくいのかもしれません。

そして、日本の公衆衛生領域の学者が政策に及ぼす力が弱いかもしれません。健康に関する政策決定については、日本では医師会(開業医)が多大な影響力をもっています。米国では医師が公衆衛生学の教授になるのはよくあるキャリアパスですが(特に外国籍の医師)、日本ではマイナーです。そもそも医師は体系だって疫学のトレーニングをうけていないので、こういうトピックは医師にはあまりメジャーでありません。臨床医が問題意識を持ちづらい所です。

2012年以降政策変更されていないので、おそらく今後も日本でトランス脂肪酸が禁止されることはないでしょう。

ただ、日本マーガリン工業会によると、マーガリンやショートニングに含まれるトランス脂肪酸の量は低減される傾向にあるようです。良いニュースですね。

結論

結局、自分の身は自分で守ればよいわけです。少しトランス脂肪酸を摂った所で健康にはあまり関係無ので、習慣的に摂取しないよう気をつければOKです。

国の政策には科学以外のところも多分に関わってくるので(特に日本)、なかなか変わりません。私達が正しいヘルスリテラシーを身につけ、自分や自分の周りの行動を変えていくことが大事です。

ではまた。

「飽和脂肪酸は健康に悪くない」と結論された事件

(シス)不飽和脂肪酸は心血管疾患を予防する根拠があり、摂取が推奨されている油です。一方、バターに代表される飽和脂肪酸は、相対的に健康に悪いといわれています。しかし2014年、Annual of Internal Medicineという有名医学誌に「飽和脂肪酸は健康に悪い根拠は乏しい」と結論した論文が出版され、激震が走りました。Time誌の表紙は「Eat Butter」となりました・・。

実際はどうなのか、なぜこのようなことが起きたか、この記事で説明します。この記事を読むことで、メタ解析といっても信頼性が担保されているわけでなく、(このブログでやっているように)その解釈が重要だということがわかります。

飽和脂肪酸は健康に良くないということだけ確認したい方は、この記事を読む必要ありません。

「飽和脂肪酸は健康に悪くない」と結論された事件

「飽和脂肪酸は健康に悪くない」と結論された事件

栄養疫学界隈では有名なエピソードです。

2014年、Annual of Internal Medicineという雑誌に「飽和脂肪酸は健康に悪い根拠は乏しい」と結論した論文が出版されました(Ann Intern Med. 2014;160(6):398–406.)。これは32のコホート研究を対象としたメタ解析で、50万人以上を総合したデータです。結果、飽和脂肪酸をたくさん摂取している人とそうでない人を比較し、心筋梗塞の発症に差はなかった、と結論しています。(実は、(シス)不飽和脂肪酸をたくさん摂取している人とそうでない人を比較し、心筋梗塞の発症に差はなかったとも報告されていたのですが、それは誤りだったことが判明し、訂正されています)

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飽和脂肪酸とは、バターに代表される動物性油です。バターを摂取しまくっても心筋梗塞にならない!? というある意味センセーショナルな結論だったので、Times誌を含む一般メディアが取り上げ、話題となりました。

が、実は著者らは栄養疫学の専門家でなかったのです。データだけをみてメタ解析すればそうなったんですが、そこには致命的なエラーがありました。なんとこの記事に対し、速やかに10論文以上の反論・手厳しい批判が出版されました(後述)。

結論として、飽和脂肪酸は避けたほうがよい、(シス)不飽和脂肪酸を替わりに摂ったほうが良い、という常識的な結論にはかわりありません。ちなみに、ここでトランス脂肪酸については触れていません(当然すぎる害なので。日本では禁止されていませんが)。

このエピソードを聞いて、2019年の赤肉事件を思い出された方もいるかもしれません。本質は非常に似ています。そしてなんと、同じAnnals of Internal Medicine誌です・・。詳細はこちら

全世界からの痛烈な批判

全世界からの痛烈な批判

通常、常識に反することを発表しても、科学界で袋叩きにあうことはありません。それがinnovationにつながることがあるから。しかしこの論文は「メタ解析という、過去の論文データを基にした解析であったこと(著者らのオリジナルデータでなかったこと)」と「大衆に誤った認識を与え、公衆衛生を著しく害する可能性があったこと」から、痛烈に批判されました。次のようなものです・・

相対的な他の脂肪酸の摂取量、という観点が欠落している(Ann Intern Med. 2014;161(6):453.)。例えば、飽和脂肪酸の摂取が多い人は、不飽和脂肪酸の摂取が少ない。そのどちらが、健康効果に影響しているかは、このメタ解析ではわからない。

・相対的な他の脂肪酸の摂取量、という観点が欠落しているから、特段何のメッセージもない(Ann Intern Med. 2014;161(6):456–457.)。ただ誤解されやすい報告をしただけ。

・「全体のカロリーのうち○%」という、(栄養学領域で)常識的な比較がなされておらず、信用ならない解析だ(Ann Intern Med. 2014;161(6):457–458.)。

・2010年のメタ解析(PLoS Med 2010;7:e1000252)と結論が違うのは、全体のトランス脂肪酸の摂取が高いコホート研究を1つ追加した結果に過ぎない(Ann Intern Med. 2014;161(6):454–455.)。

・2つのコホート研究の解釈が誤っている。除いて解析されるべきだ(Ann Intern Med. 2014;161(6):453–454.

・結論はEcological fallacy(飽和脂肪酸の影響が全体に一律だとする、不条理な推定)から免れない(Ann Intern Med. 2014;161(6):454..)

・不飽和脂肪酸の種類という観点がない(Ann Intern Med. 2014;161(6):456.)。

・そもそも、一つの栄養素で健康を語るのに限界がある(Ann Intern Med. 2014;161(6):458.)。

何度も言いますが、おそらく真実は「(シス)不飽和脂肪酸は健康によく、飽和脂肪酸は健康にちょっと悪い」ということです。だから、飽和脂肪酸の替わりに(シス)不飽和脂肪酸を摂るべきです。

※マーガリンなどのトランス脂肪酸は健康に悪すぎるので、論外です(詳細こちら)。

研究者人生終わった・・、と思ったであろうに

研究者人生終わった・・、と思ったであろうに

筆頭著者のRajiv Chowdhuryは、イギリスの名門ケンブリッジ大学の疫学者です。この論文が袋叩きにあって、研究者人生終わった・・、と思ったと勝手に想像しましたが、今でも現役で准教授をやっています。メタ解析が専門のようで、引き続き色々なメタ解析をpublishしまくっています。筆頭著者としては、例えば2018年に「大気の金属による汚染と心血管疾患の関連」をメタ解析してBritish Medical Journalに出版しています(BMJ. 2018;362:k3310.)。

彼がやったような、「専門知識がなかったための過ち」は不正ではないので、科学界で厳しく追求されることはありません。栄養学領域での論文が通りにくくなるくらいでしょう。そもそも彼はメタ解析が専門のようなので、トピックはそれほど問題でないでしょう。

一方、特に日本でよく摘発されるいわゆる研究不正は厳しく罰されるべきで、実際研究者人生終わります。研究不正とは、簡単に言えばデータの改ざんです(ディオバン事件とか)。米国で研究すればわかりますが、データが非常に厳重に管理されます。一流誌への論文出版は(アメリカ人との)コネが重要なので、日本での研究はなかなか日の目をみないですが、だからといって研究不正してよい理由にはなりません。今後日本人の研究不正がでないことを祈っています。

結論

メタ解析は誰にでもできて、質が高いエビデンスと評価されるので有名な医学誌に出版できるかもしれません。が、やはり専門家でないと、細かいことはわかりません。栄養学は一見誰にでもわかりそうですが、複雑で難しい学問です。

ではまた。