「お酒は少量でも健康に悪い」は誤解【科学的に推奨される酒の飲み方】

酒は百薬の長(少量のお酒は健康に良い)、とずっと言われてきました。が、2018年にLancetという医学誌に発表された論文で「お酒は少量でも健康に悪い」と結論され、世界に激震が走りました。日本でも知識人達がこの結果を紹介したため、聞いたことがある人もいるかもしれません。が、この論文の結論はかなりミスリーディングです。日本ではほとんどない「結核による死亡」がアルコールにより著増し、それが「少量の酒が健康に悪い」理由となっています。

酒の飲み方については、量の他、様々な疑問や噂があります。「休肝日を作ったほうが良いのか」議論。毎日1杯か、金曜だけ7杯、どちらが健康に良いのでしょう。「ビールとワイン、ワインを飲むべき。」本当ですか?こういう疑問は疫学研究により検討され、現時点での答えが出ています。

この記事では、お酒に関する様々な噂を検証し、現時点で科学的に推奨される「健康的なお酒の飲み方」を紹介します。この記事を読むことで、お酒の健康効果に関する正しい知識が身につき、普段の飲酒習慣を見直すきっかけになると思います。

ちなみに、「飲みすぎは健康に悪い」ということは当たり前すぎるので、この記事では解説しません。

「お酒は少量でも健康に悪い」はミスリーディング

「お酒は少量でも健康に悪い」はミスリーディング

少しだけ、歴史の話をします。

「酒は百薬の長」は、単なる噂ではなく、それを支持する科学論文がたくさんあります。2001年にアメリカ心臓病学会が声明を発表、「1日1-2杯のお酒は心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)を予防することが、一貫して報告されている。が、因果関係ははっきりしないので、具体的なお酒の量は患者と医師が相談して決定すべき」としました(Circulation. 2001;103(3):472-5.)。因果関係とは、「お酒を飲んだから心血管疾患が少なくなった」という方向性のことです。「お酒を飲む人は心血管疾患が少ないこと」(関連性)は言えても、因果関係を言うことは難しいのです(詳細後述)。

一方、「お酒は癌発生に関わる(発がん性がある)」ということも、繰り返し言われてきました。特に、飲めば飲むほど口腔癌、喉頭癌、咽頭癌、食道癌、大腸癌、肝細胞癌、乳癌が発生する可能性が高まることが一貫して示され(Cancer Epidemiol. 2016;45:181–188.)、アルコールはIARC(国際がん研究機関)の定めるGroup 1(最も確かな)の発ガン性物質と分類されました。今もアルコールはこのカテゴリーです(IARC 発ガン性物質リスト)。

このような経緯から、少量飲酒の健康効果は、「心血管疾患を予防するが癌発症を増やす可能性がある」ことが、研究者の中で常識となっていました。そのバランスで飲酒するかどうかは、個別に決めるべき。だから「お酒は飲まないほうが良い」とは一概に言えないし、「少量飲んだほうが良い」とも一概には言えない、と。

2018年、Lancetという非常に権威のある医学誌に、「お酒は少量でも健康に悪い」と発表されました(Lancet 2018; 392: 1015–35)。これは195カ国、592研究の結果をまとめたもので、非常に信頼性の高いメタ解析です。この結論だけみた多くの人は、「お酒は少量でも害だ!!」と解釈し、ビッグニュースになりました。が、この解釈は、概して間違っています。そういう結論は、「論文の中身を読んでいない場合、解釈が誤っている場合、もしくはこういう表現をして注目を集めたい場合」に導かれます。

ポイントは、195カ国(ほぼ世界中)のデータを使った研究だ、ということです。アフリカ諸国と、日本では状況は全く異なります。諸国を全て平均すると、少量のアルコール摂取は全く飲まない場合と比較し、「結核を始めとし、交通事故や乳癌など23疾患による死亡率が増え、総合して10万人中4人の死亡に寄与する」というのが正しい解釈です。日本において、「結核による死亡」は重要でありません。なぜなら、発症する確率が非常に低いし、発症して死亡する確率も非常に低いからです(医療へのアクセスが世界一だから)。乳癌による死亡率は上がりますが、これは過去の研究結果と一致しています。なので、この論文が出たから、何か新しい発見があった、ということは、日本(やアメリカ)においてありません。この論文の結論(アルコールは少量でも死亡率を上げる)だけみて議論することに、Time誌でハーバードの栄養学教授が警報を鳴らしています

日本人が少量アルコールを摂取することに関して科学的に正しい事は、「心血管疾患の罹患リスク・死亡リスクを下げる」「特定の癌発症・死亡リスク、交通事故の危険性を少し上げる」ということです。だから、人によって飲酒に関するrecommendationが異なります。例えば、、

・妊婦、子供、肝疾患ある人、アルコール依存になりやすい人は、少量でもアルコールは摂取しないべき

・若年男性は、アルコールによる健康効果(心血管疾患リスク低下)の恩恵は受けづらく、逆に交通事故のリスクが上がるため、飲まないほうが健康に良いだろう

・中年男性など心血管疾患のリスクが高い人は、アルコールを少量摂取することによる利益を最大限享受しうるため、少量のアルコール摂取は推奨される

・中年女性は心血管疾患リスクも乳癌のリスクも高いため、なんとも言えない

ということです。

これらの議論をすっ飛ばして、「アルコールは飲まないほうが良い」「少量飲んだほうが良い」というのは、科学に基づいた議論とは到底言えません。

休肝日を作ったほうが良いのか

休肝日を作ったほうが良いのか

そりゃ作ったほうが良いでしょ、というのは当然の感覚です。が、これは単なる意見です。これも研究されています。

2003年にNew England Journal of Medicineに発表されたハーバードからの論文です(NEJM. 2003;348(2):109-18.)。同じ飲酒量で揃えた時に、週1-2回しか飲まない場合と比較し、週3-7回飲む場合の方が、心筋梗塞発症リスクが30%以上低かったのです。週3-4回と週5-7回は、ほとんど同じリスクでした。よって、一概に「休肝日を作ったほうが良い」というのは間違いなのです。正しくは、「週1回でもがぶ飲みするのは健康に良くない(心血管疾患リスク低下の利益が享受できない)

もちろん、夕食で毎日コンスタントに3本のビールを飲む方は、休肝日を作って週5回の飲酒に減らせば、健康効果(心血管疾患リスク低下、がんリスク低下)は高まることが予測されます。というのは、1日3本のビールという量が多すぎるからです。休肝日は、「アルコール摂取量が多すぎる人が摂取量をへらすきっかけとなる」場合、健康効果が期待できます

ビールかワイン、ワインを飲むべき?

これも、様々な疫学研究で検討されてきています(例えばBMJ. 1996;312(7033):731-6.)。結論は、「何を飲んでも一緒。」ヒトでの疫学研究から、こういう結論が得られています。

栄養素的に、例えば「赤ワインはポリフェノールが多く含まれているから健康に良い」と言う人はたくさんいます。そもそもビールにもポリフェノールが含まれているのですが(Nutrients. 2012;4(7):759-81.)、それを置いておいても、栄養素の観点で語る健康情報は信頼できません。何度もこのブログで繰り返し言っています。赤ワインの効果=ポリフェノールの効果でありません。

結論、ビールでもワインでも、アルコールによる健康効果に変わりありません。好きな方を飲んで下さい。ただ、甘い酒は、健康に良くないと考えられます。コーヒーでも紅茶でも何でも、甘くしてしまっては健康に悪いのです。詳細は追って解説します。

日本人でも同じ事が言える?

2019年、ハーバードより日本人でのアルコールリスクについて重要な論文が発表されました(Cancer. 2019;10.1002/cncr.32590.)。この研究は、6万人のがん患者と6万人の健常人をマッチさせた症例対照研究です。全くお酒を飲まない人に比べ、少しでも飲む人は、少しだけがんのリスクが高いという結果となりました。具体的には、10 drink-year(1日1杯を10年もしくは1日10杯を1年)の人は癌発症リスクが5%高い結果となりました。

日本人はアルコール分解酵素を持っていない人が多く、欧米の研究結果をそのまま当てはめることは難しいかもしれません。が、アルコールの癌リスクについては、この研究と上に紹介した研究で結論に違いはありません。この研究では心血管疾患との関連性は調べていません。

よって、2019年現在では、アルコールに関する健康効果で、日本人が特別に注意することはなさそうです。

結局、アルコールと健康の因果関係は一生わからない

結局、アルコールと健康の因果関係は一生わからない

元も子もない話ですが、現実です。「アルコールを飲んだから、癌を発症した」と本当に言うためには、コホート研究でなくランダム化試験が必要です。実際、アルコール飲料とノンアルコール飲料をランダム化して参加者に飲ませる試験がアメリカでありました。MACH trialというものです。が、結局NIHに倫理規定違反とされ試験中止に至りました。よって、アルコールと健康の因果関係は、今後はっきりと証明されることは無いでしょう。今までのように、コホート研究で、因果関係を推測されていくのでしょう(コホート研究の結果はあくまで‘因果関係の推測’です)。

ただ、ほとんどの食事の健康効果は、コホート研究の結果をベースにしています。そういう意味で、本当の因果関係は、どの食事も証明されていません。が、様々な研究で一貫して同じような結果がでているので、おそらく因果関係だろう、と信じられているのです。

結論

アルコールは少量でもがんのリスクを高めますが、少量なら心血管疾患のリスクを下げそうです。休肝日が良いというエビデンスはなく、がぶ飲みは悪いというエビデンスがあります。また、飲むのはビールでもワインでも健康効果は変わらないとされています。

こういう正しい情報をもとに、どの程度飲むか、自分で決めましょう。

ではまた。

-食事と健康

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