コーヒーを栄養素の観点で語ると「発ガン性物質」となる【真実】

2018年、カリフォルニア州が、全てのコーヒー製品に「癌や先天異常、またはその他の生殖障害を引き起こす恐れがあるとされる化学物質が含まれています」という文章を表示することを義務化しました。コーヒーは健康に良いのではないのでしょうか?そして、なんでこんなことが起こるのでしょう?それは、「発ガン性物質」というキラーワード、そして食事と健康に関する科学の理解が低いせいです(カリフォルニア州の裁判官であっても)。

これはコーヒーに限った話ではありません。私達全員が正しい医療情報を手に入れ、自分の身は自分で守れるようにならねばなりません。

この記事では、健康に良いコーヒーを栄養素の観点で語ると発がん性物質となる事に関して、科学的に説明します。なぜこういうことが起きたか理解し、教訓を得て、ヘルスリテラシーを向上させましょう。

コーヒーを栄養素の観点で議論すると「発ガン性物質」となる

コーヒーを栄養素の観点で議論すると「発ガン性物質」となる

2018年3月、カリフォルニア州の裁判所にて、スタバを含む全てのコーヒー製品に、発ガン性の可能性を明記するよう義務付ける判断を下しました。なんで?と思うかもしれません。が、実際にIARC(国際癌研究所)の定める「発ガン性物質」が、コーヒーに含まれているのです。

その名はアクリルアミド。アクリルアミドは、コーヒーの焙煎過程で生じる物質です。IARCは、アクリルアミドをGroup 2Aの発ガン性物質と定義しています(参照)。Group 2Aとは、「おそらく発ガン性物質だろう」というカテゴリーで、Group 1「間違いない発ガン性物質」の次に癌との関連性が強いと考えられているものです。Group 2Aには他に、クロラムフェニコール(重篤な副作用がありほとんど使用されない抗菌薬)、肝吸虫感染(癌を引き起こす寄生虫)、ヒトパピローマウイルス31型と33型、紫外線、赤肉などが含まれます。Group 2Aとは、「動物実験で、ほぼ間違いなく発がん性を有するエビデンス」があると判断されたものです。

そう、間違いなくコーヒーは「発ガン性物質」を含んでいるのです。コーヒーは飲み過ぎたら癌になりますよ。。。こう言ったら、怖くなってコーヒーを飲む量を減らす人は、結構いるのではないでしょうか?

コーヒーは健康に良いの!

でも実際は、コーヒーは健康に良いんです。コーヒーが健康に良いことは、数多くの研究で立証されています(詳細こちら)。癌に限って言っても、例えば肝臓がん発症抑制(Curr Nutr Rep. 2019;8(3):182–186.)、子宮体がん発症抑制(Nutr Cancer. 2018;70(4):513–528.)、大腸癌発症抑制(Nutrients. 2019;11(3):694)などがメタ解析で示されています。こういう研究は、「コーヒーをたくさん飲んでいる人と飲んでいない人を比較し、癌発症率を比較する」というコホート研究のまとめです(コホート等の研究手法については、ここで解説します)。つまり、コーヒーは発ガン性物質を含んでいるけど、飲めば癌を予防するんです

「発ガン性物質を含んでいるのに癌を予防するなんて、矛盾してない?」と聞く方は、残念ながらヘルスリテラシーが低いと言わざるを得ません。が、大丈夫です。この記事で是非学んでください(下記にも説明します)。

栄養素の観点で、食事を語ってはいけない

栄養素の観点で、食事を語ってはいけない

全てはこれに尽きます。栄養素や構成物質で、食事の健康効果を語ってはいけません。「コーヒーは発ガン性物質を含んでいるから健康に悪い。」だめです。「コーヒーはポリフェノールを含んでいるから健康に良い」だめです。「保存料は体に悪い」だめです。「肉はタンパク質が効率よくとれるから体に良い」だめです。全部、全く信頼に値しない情報です。

なぜ?  たくさん理由がありますが(詳細こちら)、決定的なのは「食事=特定の栄養素」でないからです。食事の健康効果は、それが含むたくさんの栄養素や物質から、総合的に決まります。その特定の栄養素がめちゃめちゃ強力な場合(ふぐの毒など)、それを理由として食事を語るのは悪くないですが、そういう状況はほとんど(全く)ありません。

アクリルアミドの発がん効果は、正しいかもしれません。動物実験でほぼ確実に関連性があるとされています。が、人で確かめることはできません。栄養素の影響を人で確かめるには、一番確実な方法はランダム化試験ですが、アクリルアミドを摂取したい人はいないので、倫理的に確かめられません。あとはコホート研究で、様々な食事からどの程度アクリルアミドを摂取しているかを計算し、それと将来の癌発症率を比較する方法もあります。が、概して栄養素の影響力は「癌との関連がはっきりするほど」強くないし、食事から摂取される量は動物実験の量と比較しごく微量です。ですので、IARCのGroup 2Aなのです。Group 1は、少なくとも1つのコホート研究で、癌との関連が示されているものです(タバコ、加工肉など)。

一方、「コーヒーは癌と関連がない(発症率を減らす)」ということは、数百本以上のコホート研究、数十本のランダム化試験で確かめられているのです。アクリルアミドと比較し、コーヒーの健康効果がどれだけ確からしい情報か、わかると思います。だから、コーヒーがアクリルアミドを含むからと言って、「コーヒーは発がん性だ」と結論付けるのは、非常にナンセンスなのです。

こういう基本的なヘルスリテラシーが欠如していることが、世の中の大問題

このブログでは、こういうことを何度も何度も繰り返し言っています。ですので、読んでいただいている方は、「食事の健康効果をその構成物質の観点で語ること」がナンセンスだと理解頂いていると思います。が、かのカリフォルニアの裁判官は、これが分かっていなかったわけです。

ちなみに、この判決は非営利団体「Council for Education and Research on Toxics」がカリフォルニア州に訴訟を起こした事に起因します。何度も言いますが、アクリルアミドはおそらく発がん性物質です。が、だからといってコーヒーは発がん性物質とは言えません。この単純な事が、この訴訟に関わるほとんどの方に分かって頂いていなかったわけです。

「コーヒーは癌を引き起こす可能性があります」というラベルが貼られていたからと言って、気にしないでコーヒーを飲む人もいます。実際、「タバコは肺癌や肺気腫を引き起こします」というラベルがあっても、タバコを吸う人はたくさんいますよね。結局、研究で健康に関するエビデンスを作っても、人に行動変容を起こさせるのは極めて難しいわけです。でも一方、気になって行動変容する人も、勿論います。国や州がラベルを義務化させるということは、実際「人に行動変容を促すアプローチ」としてとても効果的です。なので、そういう決定を下す人には、ヘルスリテラシーが無いと行けません。

結局、ハーバードが大々的に抗議したりして、2019年にはFDA(アメリカ食品医療局)が、そういうラベルは適切でないと勧告、例の判決は無効となりました。良かったですね。

日本はもっと残念・・

子宮頸がんワクチンの義務化について、様々議論されていると思います。動物実験で副反応があったことを理由に、人でのランダム化試験の結果を批判しているのです。状況は似ていると思いませんか?ヘルスリテラシーが低いことが、根底にある原因です。

そもそも、しっかりしたエビデンスのあることは議論の対象とならないわけです。議論になるのはこういう場合です:片方がエビデンスを知らないか、知っていても解釈できないか、他の利益相反があるか。日本の残念な状況に関しては、また追って書きます。

結論

コーヒーを栄養素の観点で議論すると「発ガン性物質」となります。が、コーヒーは発ガン性物質でなく、むしろ癌を予防します。これが理解できることが、重要なヘルスリテラシーと言えます。

ではまた。

-食事と健康

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