卵は健康に良いのでしょうか?
2019年に「卵は1日1個でも健康に悪い」と結論した論文が出たのは割と有名かもしれません。その解釈は正しいのでしょうか?
この記事では過去の卵に関する科学的根拠を検証し、卵は健康に良いのか悪いのか、食べるなら1日何個までにすべきか、考えました。
特にルーチンに卵を食べている方は、卵の科学的根拠を知っておきましょう。
Contents
「卵を1日1個でも食べると健康に悪い」と結論した論文
2019年、有名医学誌に「卵を食えば食うほど心血管疾患のリスクが上がる!」と結論した論文が発表されました(JAMA. 2019;321(11):1081–1095.)。この研究から、卵=健康に悪いもの、という認識が一般社会に広まった気がします。
しかしその解釈は正しいのでしょうか。
✔論文の概要をみてみましょう。
・3万人のアメリカ人を中央値17.5年(最長31年)追跡した研究です
・1日に食べる卵が1/2個増えるたび、心血管疾患が6%、死亡リスクが8%上昇しました
・1日に摂取するコレステロールの量が300mg増えるたび、心血管疾患が17%、死亡リスクが18%上昇しました
・コレステロール摂取量で調整した時(摂取量が等しいと仮定したとき)、卵と心血管疾患・死亡率には関連性がありませんでした
→よって、卵摂取、特にそれによるコレステロール摂取量が増えることで、心血管疾患・死亡リスクが上がることが示唆されました
一見一貫した主張ですが、この解釈はいくつか気をつける必要があるポイントがあります。
✔この論文に対するLetterを参考にしましょう(J Thorac Dis. 2019;11(6):2185–2187.)。
・そこまで規模の大きくない観察研究である:因果関係(死亡したのは卵のせいなのか)は言及できないでしょう。
・ある一時点の卵の摂取量が、18年後の予後をどれくらい反映するか?
→10年以上の期間で卵の摂取量があまり変化しないだろう、という事が推定された上での解釈となります
→でも1週間に食べる卵の量って、数年経てば変わりそうです
→よってワンポイントの卵摂取量はどれほど大事なのか、かなり疑問です
・血中コレステロール値への影響が調べられていません。
→血中コレステロールは心血管疾患リスクと強力に関連しますが、実は食事のコレステロール摂取量は心血管疾患リスクとは関連しないだろうことが支持されています(後述)
・仮に心血管疾患リスクが上がる事が事実だとしても、心血管疾患以外の死亡リスクが上がる説明がつきません。
よって、この論文一つで「卵が健康に悪い」と結論してしまうのは安易そうです。
過去の文献もみていきましょう。
卵は健康に良いのか悪いのか
卵が健康に悪いとしたら、この因果関係によるでしょう:
卵→コレステロール摂取増加(→血中コレステロール増加)→心血管疾患リスク増加
このそれぞれについて、科学的根拠をみてみましょう。
卵→コレステロール摂取増加
これは言うまでもなく真実です。
卵1個につき200mgのコレステロールを含みます。
日本人の1日平均摂取量は300mg前後であることを考えると、卵のコレステロール量はすごいですね。
コレステロール摂取増加→血中コレステロール増加
これが予想に反して一概に真実と言えないのです。
コレステロール摂取量は、血中コレステロール値と少ししか関連しないことが示されてきました(Handb Exp Pharmacol. 2005;(170):195–213.)

Am J Clin Nutr. 2019;109(1):7–16.より改変
このグラフ(コレステロール摂取量と血中LDLコレステロール値の関連性)は2019年のメタ解析の結果です(Am J Clin Nutr. 2019;109(1):7–16.)。
関連性がないとは言えませんが、おそらく300mg摂取量が増えると10mg/dl弱LDLコレステロールが増え、それ以上はあまり関連性がなさそうですね。
つまり、「巷で思われているほど強い関連性ではないが少しは関連する」というのが現在の見解でしょう。
*ちなみに一番最近の質の高い論文は、21カ国、14.6万人を対象としたレジストリー研究でしょう(Am J Clin Nutr. 2020;111(4):795-803)。
この研究でも、卵の消費量と血中の脂質には関係が認められませんでした。
血中コレステロール増加→心血管疾患リスク増加
これは固いです。脂質異常症という病気を指しますね。
最近では脂質異常症まで至らずとも、ややLDLコレステロールが高い状態は心血管疾患リスクと関連することが言われています。
卵→心血管疾患リスク増加
コレステロールへの影響を考えない時に、卵摂取は心血管疾患リスクと関連するのでしょうか。
・2013年までに行われた22研究のメタ解析では、卵摂取と心血管疾患・死亡率に関連性はありませんでした(Am J Clin Nutr. 2013;98(1):146–159.)。
・2019年に中国で3万人程度、10年フォローの研究が行われましたが、この研究でも関連性はありませんでした(Eur J Nutr. 2019;58(2):785–796.)。
★2020年に21カ国、14.5万人を対象に行われた研究でも関連性が認められませんでした(Am J Clin Nutr. 2020;111(4):795-803)。
・冒頭で紹介した研究では関連していましたね(JAMA. 2019;321(11):1081–1095.)。
こうみてみると、JAMAの研究結果がどれほど信憑性が高いか疑問に思われると思います。
おそらく、卵摂取と心血管疾患発症はそこまで強い関連性はないと思われます。
心血管疾患のリスクが高い人は注意が必要かも
上に紹介したメタ解析にて、糖尿病患者には卵摂取と心血管疾患の関連性が認められています(Am J Clin Nutr. 2013;98(1):146–159.)。
2020年の研究ではtotal/心血管病リスクが低い人に関連性が認められず、むしろ卵をたくさん消費する群(1日1個以上)の方が心筋梗塞の発症リスクが少ないという結果になっていますが、これはreverse causationの可能性が高いとみています(Am J Clin Nutr. 2020;111(4):795-803)。
※2020年の研究では、リスクが高い人に限定した解析は行われていません。
※reverse causationとは、「卵摂取を控えている人は、心血管病リスクが高いから控えている人」という意味です(BMIの記事を参照)。
健康な集団では大丈夫そうですが、心血管疾患の既往や糖尿病がある人は卵摂取量を少なくしたほうが良いか、すごくはっきりはしていません。
おそらく大丈夫ですが。
ただ、卵は健康に良いわけでもないので、タンパク質は植物から取るほうがよいのは間違いなさそうです(後述)。
他の疾患との関連
・血圧との関連性もなさそうです(Curr Hypertens Rep. 2020;22(3):24.)
・糖尿病発症との関連はなさそうですが、あるとした研究もあり、結論がでていません(Public Health Nutr. 2019;1–21.)。
・心不全発症との関連性は示唆されています(Public Health Nutr. 2019;1–21.)。
卵より健康に良いオプションはある
今まで見てきたように、健康な集団では卵はそこまですごく健康に悪いものではなさそうです。
ただ、健康に良くもなさそう。
栄養素的にはこんな解釈もできます。
・実は卵の脂肪は不飽和脂肪酸がメインなのです(脂肪酸の詳細はこちら)。
→だから赤肉などの飽和脂肪酸と比較すると良いです。
・しかし卵のタンパク質は動物由来であり、ナッツや菜種のような植物性タンパク質と比較すると健康に悪い(死亡率増加に繋がる)ことが言われています(JAMA Intern Med. 2016;176(10):1453–1463.)。
「卵=健康に悪い」とか「卵=健康によい」といったラベリングは正しくないと思われます。
心血管疾患のリスクが高くなければ1日1個の卵摂取はおそらく健康に大きくは影響しませんが、もし可能なら植物性タンパク質への置換を考えたほうが良いでしょう。
*タンパク質が足りない!ということは、現代の日本社会ではほとんどありえません。
タンパク質で健康に重要なのは、量よりも質です(詳細こちら)。
一日何個までならOKか。
科学的に結論を出すのは難しいです。
食べないに越したことはありませんが、食べても1日1個くらいにしとくと良いかもしれません。
結論
卵はそこまで健康に悪くありませんが、よくもなさそうです。
健康な方なら1日1個くらいなら食べても大丈夫そうです。
可能ならタンパク質源として、植物由来のものへ置換できないか考えましょう。
ではまた。