魚に関しては健康に良いという常識がある一方、肉のほうが良い!と主張する方も時々います。
また、詳しい方は水銀などによる魚の汚染についても言及されます。
結局魚を食べたほうが良いのでしょうか?また、どの程度食べればOKなのでしょうか??
この記事では、魚の健康効果について科学的根拠を紹介します。
*2020/12/24 Updateしました
魚の健康効果に関する議論

よくこのような議論を聞きます。
魚はオメガ3脂肪酸が体に良いが、水質汚濁のせいで、ダイオキシンやPCB汚染されている魚もある。だから食べ過ぎは禁物だ、、。
この議論は正しいのでしょうか。
これに対する科学的な結論は次のようになります。
・食べ過ぎることで、魚のとれた場所によっては汚染物質による悪影響を受けるかもしれないが、魚の良い健康効果はそれにも増して強いだろう。
・現代は魚の推奨摂取量まで食べていない人がほとんど。まず汚染を心配するのでなく、どうやって魚を定期的に摂取できるか考えるべき。
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日本は魚の消費量が多い国です。
日頃から魚をよく食べている人は、その習慣を変える必要はありません。
しかし日本でも、主菜のベースが肉の人がほとんどでしょう。
「魚食べろ!」というメッセージは、強い科学的根拠に基づいており、多くの方に届いてほしいもの。
肉か魚か? – 迷ったら、間違いなく魚です。
魚の健康効果について、最新の研究を紹介していきます。
魚の健康効果についての真実
今まで非常に多くの研究が行われてきました。
魚の摂取と「ある一つの疾患」との関連性を調べた研究がたくさんあり、そのまとめをメタ解析と言います。
そしてたくさんの疾患に対するメタ解析のまとめをUmbrella reviewと言います。
ここでは2つ、重要なUmbrella reviewを紹介します。
慢性疾患
慢性疾患のまとめを抜粋します(Adv Nutr. 2020 Sep 1;11(5):1123-1133.)
・心筋梗塞と心血管疾患による死亡:魚摂取が1日100g多いと相対リスク25%低下
・心不全:魚摂取が1日100g多いと相対リスク20%低下
*ただしfried fish摂取量が多いと相対リスク増加
・脳卒中:魚摂取が1日100g多いと相対リスク14%低下
・冠動脈疾患:魚摂取が1日100g多いと相対リスク12%低下
・全死亡:魚摂取が1日100g多いと相対リスク8%低下
・うつ病:魚摂取が多いと(多い vs 少ないの比較)、相対リスクが12%低下
これらが、それぞれのメタ解析の質が「moderate」と判断された結論です。
まあまあ信頼できます。
アルツハイマー病の低い罹患リスクと関連するかもしれませんが、そのメタ解析の質は「low」です。
糖尿病や高血圧の予防効果はなさそうです。
*これは数個〜十数個の研究をまとめたメタ解析の質の評価だ、ということに注意しましょう。各々の観察研究への評価ではありません。
癌
引き続き癌との関連性をみたumbrella reviewです(Adv Nutr. 2020 Sep 1;11(5):1134-1149.)
・魚摂取が多いと相対リスクが低いとされた癌:肝臓がん、脳腫瘍
・魚に関連する栄養素(主にオメガ3脂肪酸)が多いと相対リスクが低いとされた癌:肝臓がん、脳腫瘍、乳がん、前立腺がん
その他の癌は関連なしとされています。
しかし肝臓がんや脳腫瘍のリスクが低い、ということに関する信頼度は高くありません。
つまり、はっきりと「がん予防効果がある」とは言えません。
*ただ、個別の研究をみれば、それを示唆するものもたくさんある、ということは念頭に置いておきましょう。
その他
その他、大事だと思う研究をいくつか紹介します。
✔糖尿病患者において、魚摂取と心血管疾患や死亡率との関連性を調べた、新しいメタ解析です(Crit Rev Food Sci Nutr. 2020:1-11.)
・全死亡や心血管疾患について、魚摂取が多いと相対リスクが低いという結果だったのですが、
・「総エネルギー摂取量」を調整した研究では、全死亡に関連性はありませんでした
→魚を「足す」効果でなく、赤肉や加工肉と魚を「置換する」効果であることが示唆されました。
*本文にアクセスできてないので正確には不明です。abstract抜粋です
✔fish eater, meat eater, fish and poultry eater, vegetarianという4種類に分けた、ヨーロッパの大規模研究です(Eur Heart J. 2020 Dec 14:ehaa939.)
・95%がmeat eaterだったという問題がありますが、、
・fish eaterが最も予後が良い結果となりました。vegetarianよりも。
*ただ、純粋なfish eaterは少ないかと思います。
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まとめると、(肉の代わりに)魚を定期的に食べることで、生活習慣病の予防効果を見込める、ということでしょう。
はっきりとがん予防効果があるとまでは言えない。
ただ、
✔魚は「地中海式料理」の一部で、地中海式料理こそが最も健康に良い料理だと言われています(詳細こちら)。
✔油に関して理解しようとすると少し複雑ですが、魚の油=オメガ3脂肪酸は、最も健康によい脂肪酸です(詳細こちら)。
✔赤肉や加工肉は、タンパク源としては健康に悪いことが示されています(詳細こちら)
ということで、魚を食べるべき傍証はかなり豊富にあります。
是非「ルーチンに」魚を食べることにしましょう。
*例えば、肉か魚かという選択肢が提示された時、魚を選ぶ、という風に自分の中で決まりを作ってしまうのはgoodです。
汚染された魚に関して科学的に考える

続きまして。
「魚を食べたほうが健康に良いだろうが、汚染されている魚を食べても健康に良いのか」という疑問があります。
これを科学的に検証しましょう。
有名な2006年のハーバードの研究を紹介します(JAMA. 2006;296(15):1885–1899.)。
やや昔のメタ解析ですが、これはそれぞれのコホートの全ての参加者データを集めた、質の高い研究です。
・10万人が週2回サーモンを70年間食べることで、「7000人の心臓病による死亡を予防し、(PCB:ポリ塩化ビフェニルにより)24人の癌による死亡を増やす」と結論しています。
・そして、PCBやダイオキシンの摂取源として魚は10%に過ぎない。肉や乳製品、卵からの摂取が大半なので、魚を避ける理由にならない。
汚染の影響は魚を食べない理由にならないということですね。
そして更に重要なことに、
・PCBやダイオキシンによる健康への悪影響は、疫学研究ではっきりと立証されていません。
・水銀に関しては、成人には問題ありません(FDA ホームページ)。
→議論の余地があるものは、妊婦と子供ですが、魚(オメガ3脂肪酸)摂取による知能などの利益があるので、魚摂取は基本的に推奨されています(Lancet. 2007; 369:578-85.)。
→水銀は害があるかもしれませんが、魚を摂取しないことの方が大きな害がある、というわけです
もちろん、魚のとれた場所によって汚染具合は違います。個別に言及することは困難です。
しかし今の所、日本であれば基本的に心配する必要はないでしょう。
汚染影響を考え、魚摂取を制限した方が良い場合
これは参考までに。
具体的には以下の場合のみ、水銀汚染による健康悪影響を懸念して、魚摂取を制限する方がよいだろう、とされています。
アメリカFDAの声明ですが、ある程度日本でも当てはまるでしょう(FDA ホームページ)。
✔自分で釣った魚を食べる場合
→それぞれの釣り堀の管理者に相談・確認が必要。
→相談相手がいない場合、(水銀の濃度が高い可能性があるので)釣った魚の摂取は1週間に1回程度にしておく。
✔妊婦と小児は、水銀濃度が低い魚を選んで食べたほうが良い。
→水銀濃度が高い魚とは、マケレル、サメ、白いツナ缶(ビンナガ)、メカジキ、甘鯛など。
→これらは、食べるとしても、1週間に1回程度にしておくのが無難。
*ちなみに、これらの推奨はやや質の低い研究・考察からなっています。
・例えば水銀汚染の影響を考える場合、体内の水銀濃度と知性発達の関連を調べるのですが(例えばInt J Hyg Environ Health. 2019;222(1):9–21.)、その水銀濃度が魚摂取を原因としているか評価することは難しいわけです
→この部分はある程度推算となります
→つまり「週1回程度にしておくのが無難」というのもだいたいの推奨です。
どうしたら良いか具体的に考える
全体的に見た時に、現代ではそもそも魚を食べない人が多すぎるのが問題なのです。
日本は世界の中でもたくさん食べる方ですが、皆さんそうでしょうか?
少なくとも週に2回以上が推奨されていますが、食べているでしょうか??
一人暮らしでほぼ外食の方は、中々難しいかもしれません。
これを期に、ルーチンの食習慣として魚の摂取を考えましょう。
一つの目安は、「2日連続で肉ばっかり食べてないか」。
当てはまったら、その日は魚を食べましょう。
特殊な状況を除き、汚染による悪影響は考えるに足りません。
結論
普段から魚を食べましょう。
肉と魚で迷ったら、魚。
ではまた。