バイオマーカーについて、version 2です。
前回の記事ではコレステロールについて考察していきました。
今回は血糖値について。
「高血糖が心血管疾患の原因でない」という話、聞いたことありませんか?
高血糖は心血管病の原因でない?!
前回記事にて、
・LDLは心血管疾患の原因のよう
・HDLと中性脂肪は心血管疾患の原因ではなさそう
・だからLDLを下げる治療こそが心血管疾患のリスクを下げる!
ということを説明しました。
(因果関係か相関関係か、ということが大事:こちら参照)
今回は
血糖値、HbA1c
について語っていきます。
「血糖が心血管疾患の原因でない説」の検証です。
HbA1cは当然低い方がよい
HbA1cといえば、2ヶ月の血糖値の平均を表すものとして、臨床家には有名です。
これが心血管疾患のリスクを示すと言われて···そりゃそうだと思う方が多いでしょう。
Emerging Risk Factors Collaborationによると(JAMA. 2014;311(12):1225-1233 )
✅HbA1cが5-5.5%の人が最も低リスク
✅5.5-6%でハザード比1.2
✅6-6.5%でハザード比1.3
と、ちょっと高いだけでもそれなりにリスクが上がるのです!!!
これは「prediabetes(境界型糖尿病?)」が実は怖いんですよ、という論拠。
なお、一番最新のMeta-analysisでは、最低HbA1cが5.7%でリスク上昇と関連するよ、という驚きの結果に(BMJ. 2016;355:i5953.)。
血糖が高いと悪いのは間違いない。
それって因果関係なの?
さて、一方。
「血糖値が高いことが、本当に心血管疾患の原因か」ということを詰めるのは難しい。
「原因」という意味は
「他の条件が同じとして、血糖をあげればリスクが上がり、下げればリスクが下がる」
ということ。
こういう場合、まず一般的なアプローチはMendelian Randomizationです(手法の詳細こちら)。
✅UK Biobankの研究によると(Diabetes Care. 2018;41(9):1991-1997.)、
・心血管疾患の原因とはいえない(odds ratio [OR] 1.11 per %, 95% CI 0.83-1.48)
・冠動脈疾患の原因とはいえそう(OR 1.50 per %, 95% CI 1.08-2.11)
とのこと。
この2つのargumentは相反するように聞こえますが、要は
血糖は、狭心症と心筋梗塞の原因ではありそう
というニュアンスです。
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続いてRCT。
「糖尿病かどうか」「HbA1cの値」をランダム化することは難しいので、
血糖をどの程度厳密にコントロールするか
でランダム化されます。
*血糖が高いと、心血管病だけでなく色んな疾患の原因になりますね。
これが面白いことに。
✅2019年のRCTのsystematic reviewでは、積極的に血糖コントロールすれば、かなり一貫して非致死的な心筋梗塞リスクを減らす(RR=0.8くらい)ことを示しています。
→しかし、一貫して他の心血管疾患や死亡のリスクは変えないことも示しています。
✅2015年のRCTのMeta-analysisでは、糖尿病薬の使用は心不全を増やすと結論しています(Lancet Diabetes Endocrinol. 2015;3(5):356-366.)。
→当然種類によって異なり、PPARγ作用薬(アクトスなど;RR=1.42)とDPP4阻害薬 (RR=1.25)で有意なリスク増加でした。
→インスリンだと変化なし。
→SGLT2は減らしました。
まとめると、
血糖は狭心症・心筋梗塞の原因になるが、他の心血管疾患の原因にはならない
血糖自体というよりは、降血糖薬の効果次第で心血管病リスクが変わる
といった感じです。
低GI食は?
以上、糖尿病患者を対象とした研究でした。
健常者に関しては、「低GI食の研究」がいくつも行われているのですが、
なんと、脂質や血圧に良い影響があるとは十分にいえないのです!(Cochrane Database Syst Rev. 2017;7(7):CD004467.)
心血管病などの長期フォローを必要とするアウトカムについては、検討されたことがありません。
が、そもそも脂質や血圧に影響を与えなければ、ほぼ確実に心血管病に良い影響は与えません。
まとめ
✅HbA1cが高いと心血管疾患のリスクは高まる。正常と言われている範囲であっても。
→ただしこれは相関関係
✅糖尿病患者においては、血糖をたくさん下げても心臓に良いとは限らない
→これは血糖どうのという話でなく、糖尿病薬の効果いかん、という要素が原因のよう
✅一般的に心血管疾患の中でも狭心症と心筋梗塞だけの原因となりそう
✅低GI食はあまり意味なさそう
という感じ。
「原因でない」というのは言い過ぎですね。
ではまた。