ケトジェニックダイエットは、低炭水化物ダイエットの種類の一つです。
炭水化物の摂取量をかなり削り、人為的にケトーシスを起こすことを目的としています。
ケトジェニックダイエットはダイエット法として割とポピュラーですが、実際にどれほどの健康効果が見込まれるのでしょうか?
この記事ではケトジェニックダイエットとはなにかを概説し、期待される健康効果について科学的な根拠を紹介します。
Contents
ケトジェニックダイエットとは
低炭水化物ダイエットの種類です。炭水化物をカットする代わりに、脂肪をめちゃくちゃ摂ります。
タンパク質摂取量もやや少なくなるという、非常に特殊な食事方法です。
しっかり定まった定義はありませんが、典型的に炭水化物50g1/日以下、脂質が総カロリーの70%以上とされます(J Nutr. 2019;nxz308.)。
だいたい、食べて良い/良くない食べ物は以下のとおりです。
食べていけない:穀物(精製も全粒も)、砂糖が添加されている食品、じゃがいも、コーンはだめです。
食べて良い:植物油(オリーブオイル、パーム油など)、ラード、ナッツ、アボガド、ココナッツ、ごま、かぼちゃ等は、積極的に食べます。乳製品は、バターや硬いチーズなど一部だけ許可されます(炭水化物であるラクトースの含有量が少ないもの)。肉、魚、卵、豆腐などはタンパク質源としてほどほど。野菜、フルーツは少し、ダークチョコレート、コーヒー、お茶などもOK。
ケトジェニックダイエットのポイントは、体内から貯蔵されるグルコースをなくし、エネルギー源として脂肪に含まれるケトンを使用することにあります。ケトン自体は、少し絶食をしたり激しい運動したりすると血中濃度が上がりますが、この状態(ケトーシス)を常に作り出すというわけです。
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歴史的には1920年頃、てんかんの治療法として使われてきた経緯があります。一般的なダイエット法としては、1970年代にアトキンスダイエットが注目を浴び(詳細こちら)、その後ケトジェニックダイエットも認知されてきました。
現代においては、糖尿病、癌、呼吸器疾患への良い影響も実験室レベルで明らかになってきており、熱心に研究している人もいます。
ただし、一般的には「続けることが難しく」、有効な治療としては広まっていません(てんかんを除いて)。
生活習慣病については、エビデンスもそれほどありません。
ですので一言で表すと、
てんかんの治療として始まり、そのあと色々な良い効果が(実験レベルで)認知されつつある食事法だが、生活習慣病予防のエビデンスには乏しい(それがそもそもの目的ではない)
という理解でOKかと思われます。
では詳細をみてみましょう。
【なお】ケトジェニックダイエットの種類
有名な分け方として4種類のケトジェニックダイエット(KD)があります。
1: Long-chain triglyceride KD
脂肪:蛋白質+炭水化物=4:1、というOriginalかつ究極の方法。食事を用意するのも、続けるのも困難。
2: Medium-chain triglyceride KD
1を少しゆるくしたもの。
3: Modified Atkins diet
アトキンスダイエット参照。
4: Low glycemic index treatment
GI<50である程度自由にする方法。
どれがよいか、と言われると難しいです。そもそもケトジェニックダイエットが良いかもわかってませんから。
でも万が一めちゃくちゃやりたくて仕方がないなら、ゆるいものを選んだ方がよいと思います。
ケトジェニックダイエットの代謝への影響【実験室レベル】
これはかなり複雑なのでかなり割愛です。
✅脂質:炭水化物量を減らして異化亢進させることで、血中/肝臓コレステロールを減少させる効果が期待されます
*高蛋白高脂質はコレステロールを逆に上げるのでバツです
✅血糖:controversialです。
✅炎症:NF-kBやNLRP3の抑制を介して、炎症や酸化ストレスを減弱します
✅腸内細菌への影響:かなり複雑です
*マウスレベルの実験結果はものすごい量の論文があります。興味ある方は⇒(Signal Transduct Target Ther. 2022;7(1):11. )
ケトジェニックダイエットの効果
ケトジェニックダイエットとしての疫学研究のエビデンスは限定的です。
どの研究も概して質が低く、決定的なことは言えません。
【重要】そもそも・・・
ケトジェニックダイエットのエビデンスは主にランダム化比較試験(RCT)に基づきます。
ここで、そもそも「コントロール群をどうするか」、という根源的な問題があります。
研究では当然のように「コントロール食」だったり「普通の西洋的な食事」だったり記述がありますが、、
それで良いのでしょうか?
目的は「あえて」ケトジェニックダイエットをやったときの〇〇への効果、を知ることですよね。
でも世の中には、例えば「地中海式食事」という、かなり良い食事方法があることが知られている(詳細こちら)
ケトを取り入れるときを検討している状況で、「あえて」地中海式食事を検討しない場面なんてあるのか???
ないですよね。
ですので、積極的にケトをpromoteしたいなら、地中海式食事に対する優位性を証明する必要がある、と思います。
そしてそんな研究はないです。
なぜなら地中海式食事の効果はかなり強いから、そもそも比較とされない。
総論
・ケトジェニックダイエットは低炭水化物ダイエットの一部なので、低炭水化物ダイエットの科学的根拠は当てはまります(詳細こちら)。
→ おそらく脂質制限と比較すると体重減少効果が大きそうです。
・脂質制限と比較し飢えを感じにくいかも、という研究があります(J Am Diet Assoc. 1952;28(2):113–116., Am J Clin Nutr. 2008;87(1):44–55.)。
・なお、結局、炭水化物の代わりに摂取する脂肪の質が重要です。量ではありません。植物性の良い脂質であれば、体重減少だけでなく死亡率低下に寄与することが示唆されています(Lancet Public Health. 2018;3(9):e419–e428.)。
糖・脂質
・糖尿病患者を対象とした、8つのRCTのメタ解析です(Nutr Rev. 2022;80(3):488-502.)
・HbA1cが3ヶ月後には2.8%も減ったが、6ヶ月後には少し戻りました。
・1年間は概して糖や脂質に良い影響はありました。
・しかしそれぞれの研究の質は低く、治療として推奨できるエビデンスとは言えません。
・なおadherenceはかなり悪いです。
肥満
おそらく短期的には体重は減ります。
・糖尿病患者を対象とした上述のメタ解析では、半年で3kg程度の体重減少を認めました(Nutr Rev. 2022;80(3):488-502.)
・健常人を対象とした13 RCTのメタ解析では3.6kgの減少を認めました(Crit Rev Food Sci Nutr. 2021;1-16.)。脂肪量が特に減ったのは、トレーニングを併用した群でした。
・やはりどの研究も質が低いです。
他
・てんかんについてはエビデンスがあります。
・NAFLDやPCOSに良いという研究がありますが、質が低いです(Signal Transduct Target Ther. 2022;7(1):11. )
・認知症、うつ、パーキンソンなど様々な神経疾患によいかも、という間接的な研究はありますが、直接示した信頼性の高いものはありません。否定的なものも多いです。
・心血管病、がんについても、効果を直接的に示した研究はありません。
ケトジェニックダイエットのリスク・不明点
・短期的には、頭痛、いらいら、疲労感、脱水など様々生じますが、まあ対応可能なマイナーなリスクと言えます。
・重要なリスクは栄養素の欠乏です。穀物を食べないため、特に食物繊維、ビタミンB、ミネラル(鉄、マグネシウム、亜鉛)などをしっかり摂ることが重要です。栄養士の指導・監視の下行うべきです。
・その他、腎結石、骨粗鬆症、高尿酸血症などのリスクが増加することが示唆されています。が、結局食事の質が重要です。
⇒2019年のliterature reviewでは、しっかりと健康的に設計されたケトジェニックダイエットであれば、そんなに心配する合併症はなさそうとのことです(J Nutr. 2019;nxz308.)。ただ短期的にしかデータがありません。
★一つ本質的な点は、ケトジェニックダイエットを継続することが極めて難しいことにあります。継続しなければ意味ありません。
そして継続することが難しいからこそ、長期的に行ったケトジェニックダイエットのしっかりしたエビデンスがありません(例えば1年以上の継続)。
つまり、長期的に続けると、今まで指摘されていなかった合併症が生じる可能性は否定できない、ということです。
例えば・・・ケトアシドーシス
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ケトーシスとケトアシドーシス
ケトーシスは、血中ケトン濃度が上がった状態を言います。上述のように健常者でもみられます。ケトジェニックダイエットとは、人工的にケトーシスを作り出し、維持するという方法です。
ケトアシドーシスとは、血中ケトン濃度が高すぎて生じる病気です。ケトンは酸性なので、体内の酸塩基平衡が崩れ、命に関わる状況となります。一般的には1型糖尿病患者にみられます。
ざっくりいうと、ケトーシスは正常範囲内、ケトアシドーシスは重篤な疾患です。
しかし、健常者でもケトジェニックダイエットを長期間継続してケトアシドーシスを発症した症例報告が複数報告されています(N Engl J Med. 2006;354(1):97–98., Am J Case Rep. 2019;20:1728–1731.)。
case reportレベルですので、頻度も不明ですが、そのような副作用があることは認識しておきましょう。
筆者のおすすめ
てんかんの治療などでない限り、基本的には勧められる食事方法ではありません。
特に、生活習慣病予防としてケトを選択するのは勧めません。
短期的には体重減少や脂質の改善は期待できそうですが。
なぜなら
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そもそも継続できない+継続した時の副作用が未知数+他の良い食事法がある(地中海式食事など)
「抗炎症」「抗酸化」に飛びつく人も多いですが、イメージと異なり、それらの健康効果はなかなか直接的に示されてきていません。
なぜなら「炎症」「酸化」と一言にいっても、中身はとんでもなく複雑だからです。
また、「抗炎症」「抗酸化」は他のいろんな方法で得られます。
人によっては、この食事方法が禁忌にもなり得ます。
例えば1型糖尿病。糖代謝の改善を狙ってケトダイエットをやると、ケトアシドーシスとなり致命的になります。
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今後ケトに関して目を見開くようなエビデンスが現れることは、あまり期待できないのかな、と思っています。
なぜならコンプライアンスが低いから。
食事療法として、コストが高すぎてベネフィットが低いです。
もしどうしてもケトじゃなきゃ嫌な人がいたら、長期的な安全性は不透明+長期的な利益も不明(短期的には期待できても)であることを知り、栄養素が欠乏しないよう、できれば栄養士指導の下やってください。
繰り返しですが、基本的には勧めません。
結論
ケトジェニックダイエットは、短期的に体重減少、脂質改善などの効果は得られそうです。
しかし長期的なエビデンスはなく、そもそも続けることが難しいです。
長期的な安全性も不明。
あえてこの食事法を選ぶ理由は、てんかんの治療などでない限りなさそう。
ではまた。