肉と健康との関連性を科学的に解説【決定版】

肉はどのように健康に良い/悪いのか、何肉が良いのか。

肉は良いタンパク質源だから食べたほうが良いのか。

実に色々な説があります。

この記事では、肉の健康効果に関する科学的根拠を解説していきます。

最新の「赤肉論争」も解説しました。

肉と健康に関する記事として、決定版です。

*2020/12/21更新しました

 

 

肉と健康との関係:タンパク質の量

肉と健康との関係をはっきりさせる

 

肉は非常に良いタンパク質源です。これは間違いありません。

もちろん、魚や豆など、他にもタンパク質源はありますが。

 

では、

タンパク質の量は重要だから肉を取らなくてはいけない!

この主張は正しいのでしょうか。

 

実によく耳にしますので、まずはタンパク質の量に関する科学的根拠をみてみましょう。

 

 

タンパク質の量は、日本ではほとんど問題にならない

タンパク質が不足してはいけないのは常識です。

日本では、成人男性は1日60g、成人女性は1日50g以上の摂取が推奨されています(厚生労働省資料)。

タンパク質が不足すると、発達遅延や筋喪失、心筋症、死を起こすことが知られており、今でも発展途上国ではこのような状況に瀕している方が多くいます。

 

ですが、先進国でここまでのタンパク質摂取低下はまずみられません。

むしろ、動物性タンパク質の摂取過剰が(ヒトと地球の健康に悪いため)公衆衛生的な問題となっていますPublic Health Nutr. 2016;19(8):1358–1367.)。

タンパク質の量を引き合いにして健康を議論するのは、日本においては的外れです。

量ではなく質が大事なのです(魚や豆から摂取しましょうということ)。

 

・日本人の研究を紹介します。8万人程度のコホート研究です(JAMA Intern Med. 2019;179(11):1509–1518.)。

→結果、タンパク質の総摂取量は、癌や心血管病、死亡率と関係ありませんでした

・これは以前のアメリカ人を対象とした研究結果と一致しています(JAMA Intern Med. 2016;176(10):1453–1463.)。

 両研究とも、動物性の替わりに植物性タンパク質摂取を増やすことで、癌と循環器疾患罹患率を減らすことができる、と結論しています。

・最近のオランダを対象とした研究では、タンパク質の総摂取量は心血管疾患による死亡と相関していました(Eur J Epidemiol. 2020;35(5):411-429.

→これは動物性タンパク質が多いことが原因と考えられました。

 

以上より、日本人において「肉は非常に良いタンパク質源だから健康に良い」とは言えない事が分かりました。

 

*しかし高齢者や基礎疾患がある方を対象に考えると、当然話は異なります。

そのケースは「赤肉を食べるか」以上の問題があることがほとんどですが。

 

 

赤肉・加工肉・白色肉の科学的根拠

それぞれの肉について科学的根拠をみていきましょう。

 

赤肉

赤肉と健康

赤肉とは、牛肉、豚肉、ラム肉などを指します。ミオグロビンにより見た目が赤い肉です。

鶏肉でもモモは赤肉です。しかしどの部位かまで疫学調査は難しく、鶏肉=白色肉と分類されることが多い印象です。

 

今まで一貫して、赤肉摂取量が多いと心血管病や癌の発症・死亡率が高いことが示されてきました。

これは特にハーバードが強く主張しており、おそらく真実です。

 

【2018年のumbrella review(Eur J Clin Nutr. 2018;72(1):18–29.)】

Umbrella reviewはメタ解析のメタ解析です。

この研究は次のようにまとめています。

1日につき65gの赤肉摂取が増える毎に、

・子宮体がんが36%増加

・食道癌が25%増加

・肺がんが22%増加

・心血管病死亡、総死亡、胃癌・大腸がん・糖尿病・脳卒中・乳がんリスクが、10~20%程度増加

 

65gは大した量ではありませんよね。

この研究は非常に膨大な数の文献に基づき、赤肉が健康に悪いことを示しています。

 

※一方、根拠が(ランダム化研究でなく)コホート研究に基づいているので、はっきりとした因果関係(赤肉を食べたことでどうなるか)はどうしても言えません(理由はこちら)。

この点をつくと「赤肉は健康に悪い根拠は少ない」とも言えてしまいます。実際その主張をしたメタ解析が2019年に出版され、論争を巻き起こしました(Ann Intern Med. 2019;10.7326/M19-0655.)。

これは下で解説しています。

 

IARCは赤肉はGroup 2Aの発ガン性物質と定義しています。

繰り返しますが、「赤肉は健康に悪い」ことはおそらく真実です。

 

 

加工肉

加工肉と健康ベーコン、ホットドッグ、ソーセージ、ハム、ビーフジャーキーなどを加工肉と言います。

工肉(特に赤肉の加工肉)は、肉の中でも最も健康に悪いとされ、避けるべき食材です。

 

上述したumbrella review(Eur J Clin Nutr. 2018;72(1):18–29.)にて、以下のように報告されています。

1日につき50gの加工肉摂取が増える毎

・胃癌が71%増加

・心血管病が42%増加

・食道癌が37%増加

・糖尿病が32%増加

・大腸がんが24%増加

・心血管病による死亡率、肺がん、前立腺癌、直腸がん、全死亡、脳卒中、乳がんリスクが10~25%程度増加

 

ホットドッグやソーセージは量をとってしまいがちなので、注意が必要です。

IARCで加工肉はGroup 1の発ガン性物質です。最も癌との関連性がはっきりしているという事です。

 

※勿論、加工方法によっても健康への影響は異なるでしょう。

それを疫学研究で調査することは困難です。

科学的根拠として言えることは、ルーチンに加工肉を消費することは非常に健康を害するリスクが高い、という事。

時々食べるくらいなら、影響はそこまで出ません。習慣化するのが良くない。

 

 

白色肉

白色肉と健康

白色肉は基本的に鶏肉です。

白色肉を摂取することにより健康の悪影響が出る、という強いエビデンスはありません。

 

研究を紹介します。

・2014年のメタ解析では、白色肉と全死亡・心血管病罹患・心血管病死亡に関連はありませんでした(Br J Nutr. 2014;112(5):762–775.)。

・2016年のUmbrella reviewでは、白色肉摂取によるいくつかの癌抑制効果が示唆されています(Crit Rev Oncol Hematol. 2016;97:1–14.)。

・白色肉を食べることにより、食道癌(J Gastroenterol. 2018;53(1):37–51.)や胃癌(Nutrients. 2019;11(4):826.)の予防となる、としたメタ解析も報告されています。

 

※しかしながら、白色肉を取る人は赤肉をあまり取らないこと、そういう人は健康意識が高いこと、赤肉と疾患発症の関連が強いことから、白色肉摂取の健康効果はバイアスの影響を排除できません。

→つまり、白色肉を食べたことによる癌予防効果だ、と因果関係のように言うことは難しいです。

+白色肉より、魚や豆からタンパク質を摂ったほうが健康に良いです。

 

赤肉や加工肉を食べるくらいなら白色肉にしましょう。しかし本当は植物や魚由来のタンパク質摂取が理想的。

と言えそうです。

 

 

「赤肉論争」を解説する【研究者向け】

つらつらと科学的根拠を紹介してきましたが、詳細は知らずとも赤肉が健康に悪いことは、一般的にも常識になりつつあります。

また何より、その製造過程で生じるメタンガス等を原因とした温暖化が重大な問題です。

肉は健康に悪いことは前提。これからは地球の健康=planetary healthを考える時代です(こちら参照)。

しかしそんな中、2019年より論争が勃発しました。

 

2019年、「赤肉が健康に悪いとは言えない」と結論づけたメタ解析が権威ある医学誌に出版されました(Ann Intern Med. 2019;10.7326/M19-0655.)。

これは「赤肉は健康に悪くない!」と様々な一般向け雑誌で報道され、ニュースになりました。

この研究はなんとガイドラインの記述を変えるまで至ました(Ann Intern Med. 2019;10.7326/M19-1621.)。

 

一方、多くの栄養学者は「無責任極まりない」と怒り心頭でした。

彼らが何十年もかけて積み上げてきたエビデンスが、一つのメタ解析によって崩壊させられた印象だったのでしょう。

*実際、この論文だけを基に「赤肉は大丈夫」と受け止められては、公衆衛生上問題がありえます。

 

どちらが正しいのか。

詳細を見ていきましょう。

 

*この論文(Ann Intern Med. 2019;10.7326/M19-0655.)は栄養疫学者が書いたものではありません

メタ解析というのはある意味非常に客観的な解析手法であり、オリジナルデータも必要ないので、誰にでもできます。

栄養疫学はわかりやすそうながら、とても難しい学問です。

背景知識がない状態での客観的な解析、ということを最初に言っておきます。

 

 

メタ解析の結果

このメタ解析の要点は:

・非加工の赤肉の摂取量を1週間に3回減らすごとに、死亡率が7%低下、心血管疾患による死亡率が10%低下、糖尿病リスクが10%低下すると報告しました。

・これらはGRADEという評価法に当てはめると、very log〜low quality of evidenceでした。

・以上から「赤肉摂取量を減らすことで健康効果が少しだけあるかもしれないが、それも信頼度がかなり低い根拠だ」と結論しました。

 

一見正しそうです。この主張にどのような問題点があるのでしょうか?

 

 

GRADEという評価法の問題

GRADEはもともと、薬やデバイスの効果判定を主な対象として作られた指標です。

それらは、ランダム化研究がエビデンスのスタンダードです。

食事は長期間のランダム化研究ができません(ずっと肉食え/食うな、というのは倫理的でないですよね)。

よって食事の研究の信頼性は、GRADEという評価システムでは低くなってしまいます。

 

※観察研究は因果関係がどうしても言えない(ランダム化研究では言える)、というのは正しいです(詳細こちら)。

なので、食事による健康効果という因果関係は「推定する」ことしかできません。

繰り返し繰り返し「推定する」ことで、真実の因果関係を見つけるのです。

 

食事の研究に関しては、 NutriGRADEという異なる評価システムが考案されています(Adv Nutr. 2016;7(6):994–1004.)。

これで評価すると、赤肉の健康への悪影響は質の高いエビデンスとなります。

 

つまりランダム化研究が無いのでエビデンスレベルは低いため、因果関係は言えない、というのが著者の意向です。

これはランダム化研究が無い中で因果関係を繰り返し突き止めようとしてきた栄養疫学者からすると容認できない考えですが、

一方「なぜ栄養疫学だけ観察研究でOKとするのか?」という著者の主張も一理あります。

 

 

あるランダム化研究の解釈を誤解している点

著者らは一つ明らかな間違いを犯しています。

Women's Health Initiativeという有名なランダム化研究があります(JAMA. 2006;295(1):39–49.)。

これは低脂質ダイエットと普通の食事の2群にランダム化して7.5年間フォローした、極めて稀な食事介入の大規模ランダム化研究です。

この研究には非常に高額な資金が投入されました。ランダム化された食事法を守ってもらうことが非常に大変でした。

結果、低脂質ダイエットは少しの体重減少に繋がるということがわかったのでした・・。

 

この研究を、上記の赤肉の健康効果に関するメタ解析にて、ランダム化研究として解析されています。

しかし、この研究は’低脂質ダイエットのランダム化研究’であり、’赤肉摂取量のランダム化’ではありません

GRADEシステムだとランダム化研究=質の高いエビデンスとなるため、この誤解は大きいです。

 

 

’赤肉のかわりに何を食べるか’ を考慮していない点

また、substitute analysisというものに著者らは触れていません。

赤肉を沢山食べる人とあまり食べない人を比較するときに、あまり食べない人が「赤肉のかわりに何を食べているか」は非常に重要です。

かわりに精製穀物や動物性脂肪(飽和脂肪酸)を摂取していれば予後は悪いでしょうし、

かわりに豆、野菜、果物を摂取していれば予後は良いでしょう。

 

最近の研究を紹介します:

✔Health professional follow-up studyというハーバードのコホートにおいては、赤肉摂取を豆類、ナッツ全粒穀物、卵などで置換することにより、心血管疾患リスクが低くなりました(BMJ. 2020 Dec 2;371:m4141.)。

✔European Prospective Investigation into Cancer (EPIC)-InterActというヨーロッパのcase cohort研究では、赤肉をヨーグルト、ナッツ、チーズ、シリアルなどに置換することで、糖尿病リスクが低くなりました(Diabetes Care. 2020 Nov;43(11):2660-2667.)。

*case-cohort研究についてはこちら参照

 

問題のメタ解析ではこれを含めて解析されておらず、最も良いエビデンスとは言えません。

 

*著者らは、「このsubstitute analysisもassumptionがあり、それはほとんど成り立つことがない」ということを理由として挙げていますが、個人的には、それは解析対象としない理由にならないと思います。

※似たような事を原因として「バターは健康に悪くない」と結論した論文が世間を賑わせた事がありました。同じAnnals of Internal Medicineです・・。詳細はこちら

 

 

論争は続いている・・・・

権威ある栄養学者からの批判に屈せず、このメタ解析を発表したグループは戦い続ける姿勢をとっており、論争は続いています。

✔本論文に対するやり取りはこちら(Ann Intern Med. 2020 Apr 7;172(7):510-511.

✔Updateされたガイドラインに対するやり取りはこちら(Ann Intern Med. 2020 May 5;172(9):639-640.

 

他にもBMJに

・植物は良い、肉は悪い、というのは短絡的すぎる(飛行機使うほうがよっぽど悪い)(BMJ. 2020 Mar 4;368:m805.)

というLetterも出たりしており、「赤肉は悪いとは言えないだろ」という科学者が一定数いるのは確かです。

 

 

結論

論争はあり、たしかに観察研究で「赤肉を食べるから健康に悪い」と決定的に言うことはできません。

しかし、非常に多くの観察研究でそれを示唆するエビデンスがあります。

メタ解析はもちろん重要ですが、それが完璧なエビデンスというわけではなく、俯瞰的に考えると:

・タンパク質は量より質。

・赤肉と加工肉は健康に悪い。白色肉はそこまで悪くない。

・できれば魚と豆からタンパク質を摂取しよう。

ということにまとめられそうです。

ではまた。

-食事

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