世の中のほとんどの食事に関する健康情報は、「〇〇を豊富に含んでいるから健康に良い、悪い」という論理です。
実は、これはほとんど信用するに足りません。なぜでしょうか。
この記事では、栄養素の観点で語る健康情報を信頼していけない4つの理由を解説します。
Contents
現代の先進国では重篤に栄養素が不足することはほぼ無い

「肉はタンパク質が豊富で吸収しやすいから、魚だけでなく時々は食べたほうが良い」
→日本ではナンセンスです。日本でタンパク質不足を来すことは基本的にありません。
栄養素とは、糖質、脂質、タンパク質(三大栄養素)、ビタミン、ミネラル(五大栄養素)などを指します。これらはエネルギー源、組織を作る土台、体内の生化学反応の酵素(補酵素)と関連する、とても重要な概念です。
摂取が不足すると体の不調、病気に繋がったり、最悪死に至ります。
これが重要だと科学的に解明されてから、食事環境は激変しました。
現代の先進国、特に日本において、栄養素が不足することで深刻な疾病を発症することはほとんどありません。
もちろん、神経因性食思不振症や癌・衰弱により二次的に栄養不足になることは普通にあります。
妊娠などの変化により鉄や葉酸が相対的に欠乏することはありますが、その場合サプリによる補給が指導され、通常なされます。
そうではなく、純粋に食事へのアクセスが無い・もしくは栄養摂取が偏ったために病的な栄養不足になることは、ほとんどないと言ってよい、ということです。
即ち、一般的に「食事の健康効果」について考えるときに、栄養素が不足するという観点で議論することは、先進国の現状に沿っていません。
「〇〇が不足したら□□」というのは真実だとしても。
不足にfocusするのは、先進国ではいたずらに不安を煽っているだけです。
栄養素を単独で摂取する意味はほとんどない

「この食事はポリフェノールが入っているから、健康に良い、血管に良い」
→ポリフェノールのサプリで健康はよくなりません。
食事に対するアクセスが十分である日本などの先進国で問題となっているのは、生活習慣病。
生活習慣病の原因は、栄養素の質です。
具体的には、例えば動物性タンパク質を取りすぎていること、健康に良い植物性タンパク質の摂取量が低いこと、食物繊維の含有量が少ない炭水化物を摂取すること、健康に良い脂肪酸の摂取量が不足していることなどです。
ほとんどの場合、栄養素の量ではありません。
サプリは栄養素の量を補うものです。
必然的に、サプリにて単独の栄養素を補う効果は限定的なのです。
実は非常に多数の疫学研究でサプリの効果が検証されています。
今までの研究をまとめた、サプリに関する包括的な報告(Umbrella review)が2019年に発表されました(Ann Intern Med. 2019;171(3):190–198.)。これは、計277つのランダム化研究を総まとめしたものです。
・弱い信頼度で、オメガ3脂肪酸の心筋梗塞抑制効果、葉酸の脳卒中抑制効果が認められました
・その他全てのサプリメントにて、有意な疾患予防効果はありませんでした
・逆に、カルシウムとビタミンDを一緒にサプリとしてとると脳卒中のリスクが上がることが示唆されました
現代において、追加して摂取したほうが良い栄養素はほとんどないのです。
おそらくポリフェノールも健康には良いのですが、ポリフェノール単独のサプリで強い健康効果は実証されていません。
よって科学的には、単独の栄養素による健康への影響を言及するのは難しい。
ビタミン・ミネラルのサプリに関してはこのブログでまとめていますが、ほとんど摂取する意味はありません(詳細こちら)。
(*日常生活においては、必要があるとしても、食事からの摂取が難しいビタミンDくらいです)
「〇〇(食事の構成物質)は健康に悪い」エビデンスは弱い
「コンビニ弁当は保存料が入っているから健康に悪い」
→保存料による健康への悪影響は立証されていません。
保存料や発ガン性物質が入っているから健康に悪い、というのも、少し的外れな議論です。
例えば、IARCの発ガン性物質という世界的に認められている基準があります。
Group1は疫学研究で有害性が立証されたものですが、アルコールと加工肉(ソーセージやハムなど)はGroup1です。
驚くなかれ、この2つは最も信頼性の高い「発ガン性物質」です。
✔みんなが議論するほとんどの「発ガン性物質」は、Group2b以下の物質です。
Groupの低い発ガン性物質は、動物研究で有害性が示唆されたものであり、疫学研究で有害性が立証されていません。
それを気にするよりも、まずアルコールと加工肉を避けた方がよっぽど確実に健康に良いと言えます。
✔そして発癌性物質が入っているからといって、癌発生を増やすとは限りません。
例えば、焙煎されたコーヒーにはアクリルアミドというGroup2bの発ガン性物質が含まれています。
が、コーヒーを飲むことで癌発生率は抑制されると考えられます(詳細こちら)。
つまり、食事は沢山の栄養素で構成されているということです。
構成物質の一つの健康への影響は小さいです。
「食事の健康効果=一つの栄養素の健康効果」なわけがない
「コーヒーはカフェインを含んでいるから健康に良い」
→コーヒーの健康効果でカフェインを介すものはほんの一部です。
現代の栄養学において、栄養素はどのような意味を持つのでしょうか。
✔栄養素一つ一つは少ないながら健康への影響をもっており、食事により摂取される栄養素にグラディエントが生じ、健康に寄与すると考えられます。
疫学研究でも、食事の健康影響を研究する際には、「含有する栄養素の類似性」で食事をカテゴリー化します。
(もちろん栄養素自体の健康への影響を検証することもあります)
✔栄養素は、食事の健康効果を説明する材料としても用いられます。
例えばコーヒーを摂取することで心血管病発症抑制効果が得られるだろう、と結論したメタ解析があります(Circulation. 2014;129(6):643–659.)。
その機序として、カフェインによる抗炎症作用だったりが言及されるわけです。
が、結局カフェインでは説明しきれない(ほど良い)コーヒーの健康効果があるので、カフェインの抗酸化作用というのは不十分な根拠です。コーヒーが健康に良い理由は、コーヒーが含む様々な良い栄養素が健康効果を呈するからです。
当たり前ですが、食事の健康効果=栄養素の健康効果、なわけはありません。
結論
以上の理由から、「栄養素が〇〇だから・・」というのは食事の健康効果の説明になりにくいのです。
こういう主張を連発する方の情報は、やや信頼性が低いと考えられます。
ではまた。