何の食べ物が健康に良くて、何が悪いのか、
今までの栄養疫学は、概ねこれを明らかにする事を目標としていました。
そして、だいたいわかってきた。
今後10年で栄養学はどこを目指すのか?
これをまとめた論文を解説し、これからどんな研究が重要になるか、具体的に考えました。
Contents
栄養学が今後10年で目指す将来:Precision Nutrition
野菜果物は健康に良い。
赤肉は概して悪い。
精製穀物より全粒穀物が良い。
こういう栄養学のエビデンスは、「人類を平均したときの効果」です。
つまり、あなたが野菜を食べることでどれほど健康効果を享受できるかはわからないのです。
実際、食べ物の健康への影響は、
・遺伝的背景
・腸内細菌
・代謝
・運動
・社会や経済的要因
・その食べ物が作られた環境
など、非常に多様な要因で決まります。
そこで、NIHは、「2020-2030年の栄養学研究の戦略」として
Precision Nutrition
を掲げました(JAMA 2020 10.1001/jama.2020.13601)。
Precision Nutrition
解決すべき具体的な課題は、以下の通りです:
1: 「何を食えばよいか。それはどのように健康に影響するか」
2: 「何を、いつ食えばよいか」
3: 「人生を通して、食べるものがどう健康に影響するか」
4: 「食事を医療として用いるために、どうすればよいか」
それぞれ見ていきましょう。
1: 「何を食えばよいか。それはどのように健康に影響するか」
基礎的な研究です。今までの研究の延長とも言えます。
ウェアラブルデバイスやmobile technologyによって、より効果的にデータ収集できるよう目指します。
食事、遺伝、腸内細菌の相互関係は特に重要です。
2: 「何を、いつ食えばよいか」
新しいテクノロジーで、今までのアンケート形式での食事データ収集のlimitationを乗り越える事を目標とします。
特にreal-timeでデータ収集し、機械学習で解析するのがポイントです。
少し1とかぶってます
3: 「人生を通して、食べるものがどう健康に影響するか」
赤ちゃんの時期でのexposureによる、大人になってからの健康への影響です。
・母乳の影響(特に腸内細菌を介して)
・認知症、フレイル、精神疾患に対して食事はどのように影響するか
これらを長いスパンで考えます。
4: 「食事を医療として用いるために、どうすればよいか」
如何に臨床現場で活用していくか。
日本では「栄養指導」止まりですが、栄養は健康にとってかなり重要です。
より実践的に生活習慣の変容を促すプラクティスを目指します。
この方針から推察する具体的な研究課題
この戦略に基づくと、具体的にどんな研究が注目されるか。
いくつか考えました。
✔アプリで食事の写真をとってdeep learningで栄養素を解析する手法
すでにいくつもありますが、この種のアプリからの情報が、今までのアンケート形式の栄養調査を基としてvalidationするのがポイントです。
具体的には、7-day dietary recordという「1週間の食事を事細かに記録する手法」をコントロールとして、アプリのvalidationができれば素晴らしい研究となります。
誰でも参入できる、これからの領域です。
✔遺伝子、腸内細菌、食事のinteractionの解析
すでに多くの大学で精力的に取り組まれています。これらを機械学習を使って解析する研究です。これはもともと大きなデータベースのある大学が有利で、例えばハーバードが持つNurses Health Study, Health Professional Follow-up Studyにかなうコホートは中々無く、これに対抗するのは難しいです。
✔非常に長いフォローアップのコホート研究
幼少期から壮年期までフォローしたコホートです。これも今から作るのは難しいですが、幼少期の暴露因子による将来の病気への影響を調べるに欠かせません。
✔臨床現場での食事評価、介入の研究
臨床現場で食事のスコア化、それに基づく介入ができればプラクティスが変わります。
スコア化、カウンセリングまではできますが、課題は実際の行動変容でしょう。
永遠の課題ですが、ここ10年でかなり進歩するはずです。
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以上、研究者の視点でお話しましたが、
消費者の視点では、今までに健康だと証明されてきた食材を取り、健康に悪いものを避ければOKです。
簡単なガイドはこちら参照下さい。
結論
Precision Nutritionが今後のキーワードになる。
ではまた。