「赤肉は健康に悪くない」という主張について【論争】

2019年、「赤肉が健康に悪いとは言えない」と結論づけたメタ解析が出版されました。

赤肉は健康に悪いというのが数多の研究に基づいた見解ですが、それをたった1本の論文で否定したのです。

当然、大きな議論を巻き起こしました。

 

この出来事は、赤肉が本当に健康に悪いのかというだけでなく、メタ解析は信用できるかという根本的な問いに触れるものです。

大変重要なので、この記事で解説しました。

 

 

「赤肉は健康に悪くない」という主張は正しいか

「赤肉は健康に悪くない」という主張は正しいか

2019年、「赤肉が健康に悪いとは言えない」と結論づけたメタ解析が権威ある医学誌に出版されました(Ann Intern Med. 2019;10.7326/M19-0655.)。

これは「赤肉は健康に悪くない!」と様々な一般向け雑誌で報道され、ニュースになりました。

この研究はなんとガイドラインの記述を変えるまで至ました(Ann Intern Med. 2019;10.7326/M19-1621.)。

 

一方、ハーバードの栄養学教授陣は「無責任極まりない」と怒り心頭でした。彼らが何十年もかけて積み上げてきたエビデンスが、一つのメタ解析によって崩壊させられた印象だったのでしょう。

実際、この論文だけを基に「赤肉は大丈夫」と受け止められては、公衆衛生上問題がありえます。

最近、このメタ解析への反論を出版しました(Diabetes Care. 2020;43(2):265–271.)。

 

どちらが正しいのか。詳細を見ていきましょう。

 

 

論文のわかりやすい解説

この論文(Ann Intern Med. 2019;10.7326/M19-0655.)は栄養疫学者が書いたものではありません

メタ解析というのはある意味非常に客観的な解析手法であり、オリジナルデータも必要ないので、誰にでもできます。

栄養疫学はわかりやすそうながら、とても難しい学問です。

背景知識がない状態での客観的な解析、ということを最初に言っておきます。

 

メタ解析の結果

・非加工の赤肉の摂取量を1週間に3回減らすごとに、死亡率が7%低下、心血管疾患による死亡率が10%低下、糖尿病リスクが10%低下すると報告しました。

・これらはGRADEという評価法に当てはめると、very log〜low quality of evidenceでした。

・以上から「赤肉摂取量を減らすことで健康効果が少しだけあるかもしれないが、それも信頼度がかなり低い根拠だ」と結論しました。

 

一見正しそうです。この主張にどのような問題点があるのでしょうか?

 

 

GRADEという評価法の問題

GRADEはもともと、薬やデバイスの効果判定を主な対象として作られた指標です。

それらは、ランダム化研究がエビデンスのスタンダードです。

食事は長期間のランダム化研究ができません(ずっと肉食え/食うな、というのは倫理的でないですよね)。

よって食事の研究の信頼性は、GRADEという評価システムでは低くなってしまいます。

 

※観察研究は因果関係がどうしても言えない(ランダム化研究では言える)、というのは正しいです(詳細こちら)。

なので、食事による健康効果という因果関係は「推定する」ことしかできません。

繰り返し繰り返し「推定する」ことで、真実の因果関係を見つけるのです。

 

食事の研究に関しては、 NutriGRADEという異なる評価システムが考案されています(Adv Nutr. 2016;7(6):994–1004.)。

これで評価すると、赤肉の健康への悪影響は質の高いエビデンスとなります。

 

 

あるランダム化研究の解釈を誤解している点

Women's Health Initiativeという有名なランダム化研究があります(JAMA. 2006;295(1):39–49.)。

これは低脂質ダイエットと普通の食事の2群にランダム化して7.5年間フォローした、極めて稀な食事介入の大規模ランダム化研究です。

この研究には非常に高額な資金が投入されました。ランダム化された食事法を守ってもらうことが非常に大変でした。

結果、低脂質ダイエットは少しの体重減少に繋がるということがわかったのでした・・。

 

この研究を、上記の赤肉の健康効果に関するメタ解析にて、ランダム化研究として解析されています。

しかし、この研究は’低脂質ダイエットのランダム化研究’であり、’赤肉摂取量のランダム化’ではありません

GRADEシステムだとランダム化研究=質の高いエビデンスとなるため、この誤解は大きいです。

 

 

’赤肉のかわりに何を食べるか’ を考慮していない点

赤肉を沢山食べる人とあまり食べない人を比較するときに、あまり食べない人が「赤肉のかわりに何を食べているか」は非常に重要です。

かわりに精製穀物や動物性脂肪(飽和脂肪酸)を摂取していれば予後は悪いでしょうし、

かわりに豆、野菜、果物を摂取していれば予後は良いでしょう。

 

最近のコホート研究ではこれを考慮することが多いですが、メタ解析ではここまでの情報を入れることは難しいかもしれません。

 

※似たような事を原因として「バターは健康に悪くない」と結論した論文が世間を賑わせた事がありました。同じAnnals of Internal Medicineです・・。詳細はこちら

 

 

真実は・・?

真実は、赤肉は健康に悪いということでしょう

ランダム化研究がないためはっきりした因果関係は言えませんが、非常に多くのコホート研究で示されています。

上記のようなメタ解析が出版されると、論文の解釈ができない非専門家は誤解してしまい、公衆衛生上問題となりえます。Annals of Internal Medicineという権威高い雑誌に出版されたことも注目を集めたポイントです。

 

この論文に対し、ハーバード側は次のように主張しています(Diabetes Care. 2020;43(2):265–271.)。

✔信頼性が低いからといって、害がないとは言えない

✔肉が好きだという事が、肉を食べ続ける理由にはなりえない(健康への影響を配慮すべき)

✔肉による環境問題を考えるべき

 

赤肉は健康にも地球にも悪いから規制されるべきだ、と暗に言っているように聞こえます。

 

実際赤肉を食べても長生きの人はいますし、食べないで早く亡くなる方もいます。

疫学研究でわかることは、その母集団を平均したときへの影響です。

メタ解析では対象はさらに大きくなり、究極的には人類への影響を示唆します。

そのような研究の意味合いは、個人というよりは政策レベルの話です。

 

 

結論

赤肉は、平均して健康に悪いのでしょう。

メタ解析は専門家が行うべき。

ではまた。

-疫学・臨床研究, 食事と健康

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