スポーツドリンクは、日本で「健全な飲料」として普及しています。運動した後、喉が乾いた時、手にとってしまいがちです。
しかし本当は、スポドリは「砂糖入り飲料」を言い換えているに過ぎません。
この記事では、スポドリの効果・健康に対する影響を、科学的根拠を基に解説します。
スポドリを飲むべき状況は、実はかなり限られているのです。
Contents
スポドリ=砂糖入り飲料(清涼飲料水)

ポカリ等の'スポーツドリンク'とコーラ等の'砂糖入り飲料'。
何が違うか知っていますか?
✔スポドリには、砂糖入り飲料に含まれていないミネラルやビタミンが入っている点が異なります。
→具体的には、スポドリにはグルコース(砂糖)、水、電解質(ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム)、ビタミンB、Cなどが含まれます(Pediatrics 2011;127(6):1182–9.)。
✔スポドリにもコーラにも、砂糖が多量に入っています。
→スポドリには、砂糖を源とする炭水化物がだいたい240mlに5g-14g含まれているという報告があります(Food Advertising to Children and Teens Score, 2014:)。500mlのペットボトルに10-30gくらいということです。
*ちなみに、アクエリアスゼロなどは、グルコースが人工甘味料に置換されています。
人工甘味料の健康への影響については、この記事で解説しています。
同じ砂糖入り飲料にも関わらず、その添加物を変えることで、「健康に悪いが美味しい砂糖入り飲料」から、「健康に良くて美味しいスポーツドリンク」というトランジションが行われているのです。
でも実質は砂糖入り飲料なのは、変わりありません。
✔米国の研究ですが、スポドリは青少年の砂糖入り飲料摂取の26%を占めると言われています(Obesity (Silver Spring, Md). 2014;22(10):2238–2243.)。
→感覚ですが、割合は日本も同じくらい高いと思われます。高校生は皆ポカリスエットを飲んでいるイメージがありますね。
砂糖入り飲料としての健康上のリスクと比較し、スポドリにどれほどの利益があるのでしょうか?
科学的根拠を見ていきましょう。
スポドリのアドバンテージ
スポドリを飲んだほうがよいと考えられる状況は、
・運動のパフォーマンス向上
・効率的な水分補給
にあると考えられます。
それぞれについて、科学的根拠を紹介します。
スポドリによる運動パフォーマンス向上
企業からすると、スポドリがスポーツのパフォーマンスを上げることを売りにしたいです。
従ってたくさんの研究が、企業支援のもと行われています。
研究参加者は少数ですが、ランダム化試験を行いやすいため、ある程度信頼性の高い科学的根拠と言えます(企業スポンサーという点を除いて;後述)。
・14名の被検者の‘ドリンク摂取して90分運動後の胃内排泄遅延’を調べた研究があります(Int J Sport Nutr 1999;9(3):263–74.)。
→炭水化物が8%以上(砂糖が100mlあたり8g以上)含まれるスポーツ飲料は、胃内排泄が遅延することが示されました。
*胃内排泄遅延とは、胃の中に飲んだものが停滞しており、ゆっくり水分が吸収される、ということを示します。これは、概してスポーツをする時に良いと考えられます。
*ちなみに、4-8%の炭水化物含有量のもの(ほとんどのスポドリ)は、この胃内排泄遅延効果が認められませんでした。
・炭水化物の摂取は、運動耐容能に重要です(Sports Med. 2011;41(9):773–792.)。
・タンパク質も追加して摂取すると運動耐容能が上がるかもしれませんが、これは摂取カロリーが増えるから(タンパク質固有の作用でない)かもしれません(J Strength Cond Res. 2010;24(8):2192–2202.)。
・マグネシウム補給は、筋肉の機能(握力やベンチプレスなど色々)に効果がありませんでした(Magnes Res. 2017;30(4):120–132.)。ただ、アルコール常飲者やお年寄りなど、Mg欠乏している方には効果があるかもしれません。
・一定の水分摂取をしないと、長時間サイクリングのパフォーマンスが低下します(Sports Med. 2017;47(11):2269–2284.)。が、水分の形態には言及してません。
*ちなみに、スポドリとは関係ありませんが、カフェインとタウリンも重要そうです(エナジードリンクの成分です)。
・カフェイン摂取(3-6mg/kg: 60kgの人で180-360mg)は、アスリートのジャンプの高さ、スプリントのスピード、走行距離などに、パフォーマンスの向上が認められました(Res Sports Med. 2019;27(2):238–256.)。向上具合は少しですが。
・エナジードリンク(スポーツドリンクでありません)に含まれるタウリンが、パフォーマンス向上に関連することが示されています(Eur J Nutr. 2017;56(1):13–27.)。
以上より、砂糖がある程度濃いスポドリは、スポーツのパフォーマンスを向上させる効果があることが示唆されていることがわかります。
その他の添加物は、メタ解析で示されている効能はありませんが、個々のランダム化試験では良いとする報告もあり、スポドリの形態は妥当だと考えられます。
スポドリによる水分補給

一方、水分補給としてスポドリが推奨される状況は、非常に限定的です。
即ち、脱水防止に水よりスポドリがベターな状況は限定的ということです(そもそも運動により脱水を来すことは稀です)。
特に青少年向けですが、「激しい運動を60分以上持続して行う」場合、運動中にスポドリによる水分補給が推奨されています(カナダ小児科学会HP)。
運動後は水による水分補給を十分行うよう推奨されています。
それ以下の運動は、水による水分補給のみで十分です。
*唯一の状況と書きましたが、激しい60分以上の運動は、運動部だったら結構あると思います。
日本の夏はめちゃめちゃ暑いので、水分喪失が激しく、60分以下でも脱水のリスクが高いと考えられます。
よって日本の場合、夏に野外で運動する時・部活動をする時は、スポドリは良いツールだと思います。
スポドリが健康に悪いという根拠は?

スポドリ=砂糖入り飲料(精製飲料水)だ、という認識が重要です(人工甘味料については別記事で解説します)。
砂糖入り飲料は、間違いなく不健康に寄与します。
・今後20年間の心筋梗塞の発症は、1日1本飲む人は飲まない人に比べ、男性は20%、女性は40%リスクが高いです(Circulation. 2012;125(14):1735-41., Am J Clin Nutr. 2009;89(4):1037–1042.)。ハーバードのコホート研究です。
・当たり前ですが、カロリー摂取過多、肥満と関連します(Physiology & behavior. 2010;100(1):47-54.)。2017年のメタ解析では、砂糖入り飲料を飲む人は飲まない人に比べ肥満のリスクが18%上がると報告されています(QJM. 2017;110(8):513–520.)。ちなみにこの研究では、人工甘味料が添加された飲料は59%のリスク上昇に関与していました。
・そして重要なことに、飲料からのカロリーを1日100kcal減らすたび、6ヶ月で0.25kg体重減少が認められる、というランダム化試験があります(Am J Clin Nutr. 2009;89(5):1299–1306.)。
→飲料からのカロリー(砂糖)は、肥満の原因だということを示唆しています。
・2型糖尿病のリスクは、1日1-2杯飲むことで、飲まない人と比較し、26%増加します(Diabetes care. 2010;33(11):2477-83.)。
・痛風の発症は、1日1本飲む人は飲まない人に比べ、男性は45%、女性は75%リスクが高いです(JAMA. 2010;304(20):2270-8., BMJ. 2008;336(7639):309-12.)。
・虫歯が増えます(J Dent Res 2014;93(1):8–18.)。
・横断研究が多く因果関係は言えませんが、喘息との相関関係もありそうです(BMJ Open. 2019;9(10):e029046.)。
健康に良い、とする根拠はありません。
スポドリ=砂糖入り飲料=健康に悪い。
スポドリは特に青少年のissueである
スポドリが問題になるのは、特に青少年です。
青少年の水分摂取のメインがスポドリとなってしまう傾向が一部で見られるからです。
・清涼飲料水でなくスポドリに限定した研究があります。1日1本のスポドリを飲む小学生は、飲まない人と比較し、その後2-3年で0.3のBMI上昇を認めました(Obesity. 2014;22(10):2238–2243.)。その悪影響は特に男の子に強く認められました。
・そして、一般的な青少年の運動による水分補給に、スポドリは不要です(Paediatr Child Health. 2017 Oct;22(7):406-410.)。
運動=スポドリとなってしまっているので、青少年の肥満に寄与していることが、社会的な問題というわけです。
水分補給は、ふつう水でOK。
親がこの認識をし、子供に伝えることが重要です。
さらに残念:企業スポンサーによるバイアス

興味深いことに、「企業がスポンサーしている研究は、砂糖入り飲料について悪い影響を示したものが少ない」というメタ解析が発表されています(Public Health Nutr. 2018;21(12):2345–2350.)。
企業は「この飲料は体に良い(悪くない)」と科学的に言いたいのです。
そしてほとんどのランダム化試験は、企業の支援のもと行われます。
→つまり、上記に紹介したようなメタ解析の結論は、やや悪影響をunderestimateしていると考えられます。
さらに、都合の悪い結果の研究が出版されていない可能性も、当たり前のように考えられます(あなたがその企業にいたらどうしますか?)。
→つまり、スポドリは研究結果よりもっと健康に悪いだろう、ということが示唆されます。
*言わずもがな、企業のWebsiteにあるような、企業主導の研究の信頼性は概して低いと考えられます。
結論
スポドリは「砂糖入り飲料」の一つで、青少年の肥満や糖尿病に寄与するものです。その他色々悪いこともおきえます。
一方、アスリート、部活動する青少年、日本の夏に運動する状況には、推奨される水分補給法と言えます。
健康には水の方がベターという事を意識しつつ、水分喪失により脱水が生じ得る状況には適宜スポドリを使っていきましょう。
ではまた。