予防医学における「バイオマーカー」について考えてみた【コレステロール編】

バイオマーカーといえば健康診断ですね。

最近では、もとの健康診断の項目に加え、色々追加項目ができる所も増えてきてると聞きます(有料で)。

でも、ちょっと待って。

それ測る意味、あるんでしょうか??

この記事では、予防医学領域におけるバイオマーカーについて、つっこんで考えてみました。

<前編です>

 

予防医学における「バイオマーカー」

予防医学における「バイオマーカー」

バイオマーカーとは何か、はっきり言えるでしょうか?

1998年にNIHのBiomarker Definition Working Groupが、次のように定義しています:

·正常な生理プロセス、病的なプロセス、治療への反応性を示す、定量的に計測できるもの

そりゃそうですね。

 

バイオマーカーには主に2つの役割があります。

·診断の補助

·リスクの層別化

*重複することもよくあります

→腫瘍マーカーは診断にも予後予測にも使われますね

 

予防医学領域においては、特に「リスクの層別化」が重要なポイントになります。

「このバイオマーカーは予後を層別化した」と、何万もの論文で示されてきました。

でも、それってどんな意味があるんでしょう?

つっこんで考えていきましょう。

 

 

心血管病のリスクとなるバイオマーカー、知ってますか?

「これが高い(or 低い)と、将来心筋梗塞になるリスクが高い」

というバイオマーカー、どんなものを知っていますか?

 

たくさんありますが、エビデンスが豊富なのは:

・総コレステロール

・LDLコレステロール

・HDLコレステロール

・CRP

・HbA1c

・高感度トロポニン

こんな所かと思います。

 

この記事では、コレステロールに注目してみていきます!!

 

*特にコレステロールのエビデンスは豊富で、多くの「リスク計算式」に取り入れられています。

Framingham Total CVD score(古い)

Reynolds Risk Score(やや古い)

ASCVD risk score

 

 

コレステロールのエビデンス

最初は総コレステロールが注目されていました。

金字塔的なエビデンスは1986年のLancetに発表されたMRFIT studyです(Lancet. 1986;2(8513):933-936.)。

これは36万人の男性において、総コレステロールと6年間の心筋梗塞リスクの非常に強い相関関係を示したもの。

これで「コレステロールが高いとやばい」ことが知れ渡りました。

 

ただ、コレステロールにもいろんな種類があることが知られていました。

LDLやHDLだけでなく、中性脂肪やVLDLなどたくさんあるわけで、

引き続きコレステロールの中身に対する研究がたくさん行われました。

 

決定的だったのが2009年にJAMAに発表された研究(Emerging Risk Factors Collaboration: JAMA. 2009;302(18):1993-2000)です。

これは68のコホートをもとに30万人のデータにおいて、

・LDLもしくはApoB(HDL以外のコレステロール)が高いと予後が悪い

・HDLもしくはApoA1(ほぼHDLコレステロール)が高いと予後が良い

とはっきりさせたものです。

今では当たり前ですね。

 

リスク層別化に使えるのはわかった、と。

で?

 

 

原因なのか、それが問題だ

原因なのか、それが問題だ

結局「あの人は心筋梗塞のリスクが高い」とわかった所で、介入する術がなければ意味ないのです。

 

別にバイオマーカーなんてわからずとも、

·60代男性

·事務員

·運動習慣なし

·ずっとタバコ吸っている

·ラーメンが好きでBMI35

の人が、心筋梗塞リスクが高いなんて、誰にでもわかる。

 

だから実際は、

・LDLが高いことが心筋梗塞の原因なのか

・HDLが低いことが心筋梗塞の原因なのか

ということを知りたいのです。

 

なぜなら!

もしそれらが「原因」であれば、

·LDLを下げれば心筋梗塞リスクが下がる

·HDLを上げれば心筋梗塞リスクが下がる

という「予防」につながるから!!

 

これが「予防」におけるバイオマーカーの究極的な意義なのです。

 

よってリサーチは、

・LDL, HDLなどと心筋梗塞の因果関係をはっきりさせる

・LDLを下げる/HDLを上げる治療法の確立

という2軸が重要となります。

 

 

因果関係はいかに?

「バイオマーカーの値」をランダム化できない以上、RCTは組めません

アプローチは2通り:

・交絡因子を調整する(通常の疫学手法)

・Mendelian Randomizationを使う

バイオマーカー界隈だとMendelian Randomizationの研究がちょくちょく有名です。

Mendelian Randomizationの詳細はこちら

 

さて、現時点での結論は、

・LDLは心筋梗塞の「原因」である

・HDLは心筋梗塞の「原因」でない

というもの(有名なメタ解析:Lancet. 2012;380(9841):572-580.)。

 

すなわち、

・LDLを下げれば心筋梗塞リスクが下がる

・HDLを上げても心筋梗塞は変わらない

と、一般的に考えられています。

 

 

LDLを下げる/HDLを上げる治療法とは?

ぱっと思いつくのはスタチンです。

スタチンは主にLDLを下げる作用があり、非常に多くの研究で心筋梗塞予防効果が立証されていますCell Metabolism 2014: 387-389 )。

しかし重要なポイントは、スタチンは抗炎症効果もあるということ。

つまりスタチンの効果=LDL低下効果、なわけではないのです!!!

 

純粋なLDL効果作用がある薬(分子標的薬)といえば、PCSK9阻害薬

これは最近の薬ですが、半端ないLDL低下効果があります。

長期的な心筋梗塞への効果も十分期待されます(N Engl J Med 2017; 376:1713-1722)。

 

一方、HDLを上げる薬と言えば、フィブラートナイアシンが有名。

しかし、どちらも現在ほとんど臨床では使われていません

副作用が強いこともありますが、あまり心筋梗塞リスク低下効果がない+スタチンがある、というのが大きな理由。

 

実はHDLを上げる薬(分子標的薬)、いくつも開発されていました

実際、Merck社のanacetrapibという薬、3万人のスタチン等内服患者を対象にしたRCTが発表されています(N Engl J Med 2017; 377:1217-1227)。

4.1年のフォローアップの結果、

・HDLを104%も増やした

・心臓死+心筋梗塞+血行再建のcomposite endpointを9%減らした (p=0.004)

というものでした。

→効いたじゃん!と思われるかもしれませんが、

 血行再建を抜いたイベント(CVD)では有意差なく、薬事承認に至りませんでした。。(この記事など

 

****

このあたりの効き目の差に、原因か原因でないかははっきり出てきています。

 

 

HDL、ほんとに意味ないの?

しかし、病態整理を考えたときに、HDLが本当に「全く心血管疾患の原因ではない」とはちょっと考えづらい

そこに注目して、いくつか新しい「心血管疾患の原因となる」HDL-related biomarkerを探す動きが活発です。

 

✅HDLのfunctionの指標

HDL cholesterol efflux capacityというHDLの機能の指標が、交絡因子調整後も心筋梗塞発症と関連したという研究があります(10.1016/S2213-8587(15)00126-6

 

✅Apolipoprotein C-III

炎症性蛋白の一つですが、HDLやLDLなどの15-20%に存在します。

→このApo C-IIIがないHDLこそが心筋梗塞リスクと逆相関し、Apo C-IIIがあるHDLは関連しない(もしくは正の相関をする)ということを示した面白い研究があります(29162611

 

どちらも臨床応用の段階にありませんが、「心筋梗塞の原因となるバイオマーカーを見つけよう」というactivityの例です。

結局、原因でないと意味ないのです。

 

 

まとめ

バイオマーカー、リスクを層別化できても、疾患の原因でないとほとんど意味がない。

原因であれば、その値に介入することで疾患リスクを下げることができる。

コレステロールでいえば、LDLは原因だがHDLは原因でなさそう。

ではまた。

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