Evidence-based medicineが現代の医学の基本です。
ざっくり「ランダム化比較試験に基づく医療」とも言えますが、これは実は最適ではありません。
また、経験則もあながち悪いと言いきれません。
因果推論の理論の進歩とともに、よりよい形の医療が模索されてきています。
この記事ではEBMを深く理解することを目標に、様々な視点を提示していきます。
Contents
Evidence-based Medicine vs. 経験則【EBMは最適でない】
*エビデンスレベルについてはこちら
EBMとは、ほぼランダム化比較試験=RCTに基づく医療です。
RCTとは、治療Aと治療Bをランダムに割り振り、その有効性を比べるというもの。
治療A>治療Bなら、「そのRCTの参加条件にほぼ当てはまる状態の患者」には治療Aが選択されます。
なお、多くの場合、同じトピックに対し色々なRCTが組まれます。
たとえば
・異なる対象集団での効果をみたい
・同じ薬の異なる用量での反応をみたい
・異なる対照を取りたい
などの理由から。
医者には、(願わくば)それぞれのRCTの細かい情報を把握し、現実の患者がどのRCTに近い性質を持っているか判断、そのRCTで結果のよかった治療をすることが期待されます。
一方、「経験則に基づく医療」はEBMと比較し批判されがちです。
実際当てにならない経験則が非常に多かったのでEBMに移り変わったわけですが、、
臨床やっていれば「当てになる経験則」もあることは自明です。
まずは「EBMの穴」についてみていきます。
「RCTの対象集団」はheterogeneousであるということ
循環器の例で恐縮ですが、例をみていきましょう。
FAME 2 trial
FAME 2 trialとは、
安定狭心症患者のうち、FFRという指標が0.80以下の患者をPCI(カテーテル治療)あり/なしにランダム化
したRCTです。
*FFRは低ければ低いほど、血流制限の強い=悪い狭心症だ、と考えられます
→結果、PCIありの群の予後がよく、FFR≤0.80でPCIが正当化される大きな根拠となりました。
👉でも普通に考えて、FFR≤0.80っていっても色々いますよね。
FFR=0.40の超血流制限の強い人も、FFR=0.80の血流制限がほぼない人も含まれます。
PCIは血管を広げてFFRを増やす手技なので、常識的に特にFFRの低い患者に有効なはず。
これをFFR≤0.80で一般化するのは少し無理があります。
より踏み込んで考えると、0.70<FFR≤0.80の患者集団でRCTしたら結果は変わらないのでは、ということです。
ISCHEMIA Trial
「PCIの有効性」に関する比較的新しいRCTです。
これは、
画像検査である程度しっかりした誘発虚血のある安定狭心症患者を対象に、PCIあり/なしでランダム化した
trialです。
→結果「PCIの有効性なし」でした。
このインパクトは大きく、(EBMにより忠実な)欧米では、安定狭心症患者のPCIへのハードルがより一段と高くなりました(なかなか行われなくなりました)。
👉でも、これも同じです。
単に「中程度以上の誘発虚血あり」といっても、その患者集団はheterogeneousです。
「PCIによる利益が期待できる虚血」のある患者もいれば、
「PCIしても大勢に変わりない虚血」のある患者もいる。
これを一括りにするのは無理があります。
*なお、PCIに関する話題について言えば、色々なRCTが行われ、軒並み利益はあまりなさそうなので、基本的に安定狭心症にPCIを勧めないというスタンスには同意します。
→ISCHEMIA Trialを含めたメタ解析の解説はこちら
現状のEBMには限界がある
「RCTの対象集団での平均因果効果」を一般化して考える
という現状のEBMには大きな限界があります。
上述したとおり、このpracticeでは患者集団が多様であることを、ある程度無視せざるを得ないからです。
当然それはoptimalとは言えません。
では他に何に頼れるか?
「経験則」も、結構大事なのでは、と思っています。
これは医者にしか想像できないと思いますが、「この患者には効く」みたいな感覚、結構あります。
なおこの感覚は相当個人差があるので当然一般化はできませんが、
個人的には、腕の良い医師のこの感覚はある程度真実を捉えていると思っています。
具体的に言うと、
その医師の頭の中で患者の様々な特性のうち関連しそうなものを統合して考え、治療-アウトカムの「有意な」effect modifierとして捉えている
ということになります。
*effect modificationについてはこちら
これはRCTでは捉えられない事象なので、「エビデンスがない」と一蹴されうる知見です。
しかし、それは「エビデンスがない」のではなく、
「現状の研究でエビデンスとして捉えられていない」
だけであり、真実である可能性も当然あるわけです。
*なお当然、専門医として最新のRCTの詳細な内容を知らないのは、その疾患の治療を行う際にそもそも論外です。
経験則をよりエビデンスとして反映できないか
Effect modifierが一つであれば(FAME 2 trialでのFFRなど)、単純なeffect modificationを検定することが簡単に可能です。
ただ、経験則というのは、そういう解釈可能なpracticeでないことが多いです。
→つまり、より多くの情報を統合して考えているということ。
実は、そういった解析方法として、(疫学以外の)因果推論界隈では「heterogeneous treatment effect」として様々な手法が研究されています。
機械学習を用いて、様々な因子のinteractionを踏まえた統計モデルで、effect modificationを考える手法です。
これを「より一般化可能な」RCTの集団に適応させれば、EBMから一歩進んだ医療となると思われます。
*つまり個別化医療ということです。
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ただ、heterogeneous treatment effect がどう医療に組み入れられるかは将来の話。
この記事では
・EBMは最強ではない
・(腕の良い医師の)経験則もあながち誤っているとは言えない
と言いたかっただけです。
もちろん、不確定な「医療」の領域で、はっきりと道を示すEBMはとても重要で、医療の質をあげてきました。
これ以上医療がどう進歩するか考えた時には、新しい治療法の開発だけでなく、EBMそのものを見直すことも大事かと思っています。
また、
「エビデンス」を振りかざして論破するのは見っともないのでやめましょう。
結論
EBMは最強でない。
経験則も、現状エビデンスとして捉えられていないだけで、一部は真実を捉えているかもしれない。
ではまた。