エビデンスって聞くと寒気がする人も多いと思います。エビデンスレベルなんて知りたくも無いでしょう。
でも医療・健康情報を正しく解釈するためには必要なのです。
この記事では、エビデンスレベルについて、できるだけわかりやすく書きました。エビデンスレベルという考え方には批判も多いですが、それも含めて理解できるとヘルスリテラシーが上がります。
エビデンスレベルとは?

最初に結論を書きます。
「エビデンス」とは、その因果関係(コーヒーが心血管病を予防するか、など)がどれくらい信頼できるかです。
「エビデンスレベル」とは、その因果関係の信頼性のレベルです。
わかったでしょうか。
少し細かく説明します。
エビデンスは研究をもとに決まります。
よって、研究の信頼性=エビデンス、ということになります。
実は研究のデザインによって、信頼性が大きく異なります。
・患者一人だけを対象にした症例研究は、その人にしか当てはまらないかもしれないので、信頼性は低い
・10万人のコホート研究(10万人の生活習慣や病気罹患を追跡調査した研究)は、それなりに信頼できる
・ランダム化研究はもっと信頼できる
・10個のランダム化研究を併せて解析したもの(メタ解析)は更に信頼できる
大抵こんな感じになります(国や学会毎にエビデンスレベルの定義は異なります)
メタ解析>ランダム化研究>コホート研究>症例対照研究>症例報告>エキスパートオピニオン
ここまで分かればOKです。
研究デザインって、なに?
コホート研究やエキスパートオピニオンと言われて想像できない方のために、具体例を作ってみました。
予後への影響を調べた研究と治療の効果を調べた研究に分けて、より詳細なエビデンスレベルの説明とともにどうぞ(Plast Reconstr Surg. 2011; 128(1): 305–310.)。
<予後への影響を調べた研究>
Level 1: 高品質かつ大規模な前向きコホート研究、またはそれらのメタ解析
👉例えば、コーヒーと心血管病の関係を調べた、日本とアメリカとスペインと、、の大規模コホート研究を総合して解析した研究。もしくは、数十万人規模のアメリカのコホート研究。
Level 2: やや質の劣る前向きコホート、後ろ向きコホート、ランダム化研究の非治療群、それらのメタ解析
👉5万人程度の日本のコホート研究。
Level 3: 症例対照研究、そのメタ解析
👉その日本のコホート研究の中で行った500人規模の症例対照研究。症例対照研究とは、心筋梗塞250人とコントロール250人を特定して、彼らがどれくらいコーヒーを飲んでいたかさかのぼって調査する方法。
Level 4: ケースシリーズ
👉コーヒーの飲みすぎで心筋梗塞を発症した5人の報告。
Level 5: エキスパートオピニオン
👉「コーヒーは抗酸化作用があるから健康に良い」という教授の意見。
<治療の効果について調べた研究>
Level 1A: ランダム化研究のメタ解析(で研究間の均質性が保たれている場合)
👉例えば、心血管病に対するビタミンCとプラセボの大規模二重盲検試験(ランダム化研究)の20研究を総合して解析した研究。
Level 1B: 質の良いランダム化研究
👉20万人規模で20年間ほとんど全員をフォローアップした、心血管病に対するビタミンCとプラセボの大規模二重盲検試験。
Level 1C: All or none study
👉ビタミンCという治療法が開発され、その後劇的に心血管病が減ったという報告(ほとんどない研究法です)。
Level 2A: コホート研究のメタ解析(で研究間の均質性が保たれている場合)
👉ビタミンCと心血管病の関係を調べた、日本とアメリカとスペインと、、の大規模コホート研究を総合して解析した研究。
Level 2B: ランダム化研究
👉1万人規模で5年間フォローアップした、心血管病に対するビタミンCとプラセボの大規模二重盲検試験。
Level 2C: アウトカム研究、エコロジカル研究
👉ビタミンCサプリをたくさん使用するマサチューセッツ州の方が、ほとんど使用しないミネソタ州よりも、心血管病発生率が少ない、という研究。
Level 3A: 症例対照研究のメタ解析
👉上述した2万人規模のコホートの一部で行った500人規模の症例対照研究、のような研究をまとめた解析。
Level 3B: 症例対照研究
👉2万人規模のコホートの一部で行った500人規模の症例対照研究。
Level 4: ケースシリーズ、質の低いコホート研究や症例対照研究
👉明らかにビタミンCサプリによる心血管病抑制効果が認められたであろう5人の報告。
Level 5: エキスパートオピニオン
👉「ビタミンCは抗酸化作用があるから健康に良い」という医者の意見。
上に行くほど、信頼できる情報ということです。
ここまで分かれば完璧です。
※ネットにあり簡単に入手できる情報は、ほぼ全てがエキスパートオピニオンのレベルで、信頼性が低いです。
著者が匿名の場合、エキスパートかも分かりません。
※それぞれの研究についても簡単に説明しておきます。
メタ解析:今まで全ての研究結果をまとめて解析する手法
ランダム化研究:ランダムにある治療法を使う人と使わない人を決め、その効果を比較する研究
コホート研究:治療法の使用はランダムに決まっていないが、その他の因子(年齢、性別など)を調整することで、同じような集団でのその治療法の比較をする手法
症例対照研究:コホート研究の一部を使い行う研究(詳細略)
All or none study:それまで致死的だった疾患が、ある治療薬により劇的に生存率が向上した事象を示す研究。知らなくて良いです。
エコロジカル研究:人でなく’地域’などをサンプルとした研究。知らなくて良いです。
ケースシリーズ:特徴的な症例のまとめ
エキスパートオピニオン:権威の高い人の意見
→研究手法についてもっと気になる方は、この記事を御覧ください。
エビデンスヒエラルキー

このように階層をビジュアル化したものを「エビデンスヒエラルキー」といいます。
繰り返しになりますが、「メタ解析>ランダム化研究>コホート研究>症例対照研究>ケースシリーズ>症例研究」、という階層です。
上から順にエビデンスレベル(信頼性)が高い、ということを図示しています。
これが分かった上で。
これがそうとは言えない、ということは研究者の中では常識になっているのです。。
エビデンスレベルへの批判
エビデンス=情報の信頼度というものはそんなに単純でなく、エビデンスレベルのように単純化して「研究手法=情報の質」とまとめてしまっては、色々なものが失われます。
例えば、悪いメタ解析もあるし、良いコホート研究もあります。
特にメタ解析=最強のエビデンス、と短絡的に考えるのは良くないと考える専門家が多いです。
例えば次のような理由です。
✔エビデンスヒエラルキーでなく、研究手法のヒエラルキーだ。メタ解析は、大規模な研究にウェイトを置き、個々の人に適用できる結果でなくなってしまう(Perspect Biol Med. 2005;48(4):535–547.)。
→コホート研究はその集団への影響を前提としていますが、メタ解析では人類を母集団として想定しています。
✔質の高いコホート研究が十分に評価されない(Eval Health Prof. 2013;36(1):3–43.)。
→コホート研究の方がメタ解析より細かな解析が可能です。
✔メタ解析は手法によって結論が変わりうるから、メタ解析=信頼できる、というのは短絡的過ぎる(Stud Hist Philos Biol Biomed Sci. 2011;42(4):497–507.)。
他にも色々あります。
「メタ解析だから信頼できる」と言っちゃうのは危ないよ、ということです。
私達はどのように情報収集すべきか
理想的なのは、最新のメタ解析の結果を踏まえた上で、個々のコホート研究やランダム化研究の結果を確認する方法でしょう。
でも相当論文を読み慣れていない限り難しいですよね。
最新のメタ解析は情報が豊富なので、まずメタ解析に注目して情報収集するのは間違った方法ではないと思います。メタ解析の論文を一つ読めば、だいたい今までの研究の流れがわかります。
※メタ解析を検索したい方へ
Pubmedというサイトで「coffee cardiovascular disease meta-analysis」と検索します。
フィルターを「Most recent」にして、上から関連がありそうな文献を探していきます。
良さそうなものがあったらクリック、abstractが出てきます。abstractの情報で、大抵OKです。
ただ、メタ解析を検索するのも読むのも時間がかかるので、やりたくない方が多いと思います。
そんな時は、メタ解析を始めとした色々な文献を紹介しているソースを持っておくことが大事です。
このブログでは、生活習慣病や予防医療に関する科学的根拠をまとめています。癌や小児科、産婦人科疾患については他のブログや書籍を参照下さい。
文献を紹介しないで医学や健康の事を説明するネット上の文章は、信頼性が低く、危険です。
Googleもこの問題を重要視しており、健康に関するトピックについてはE-A-T (Expertise-Authoritativeness-Trustworthiness)が重視されています。
でも未だに信頼性が低い文章が検索のトップに出てきます。
検索のトップ=信頼性が高い、というわけでありません。検索のトップ=SEO対策が上手、です。
間違えないようにしましょう。
結論
エビデンスレベルには様々な批判があるものの、情報の信頼度として参考にはなります。
常に「その情報はエビデンスがあるのか」批判的になれるようになりましょう。
ではまた。