「健康」とは何か?定義しよう。

コーヒーは健康に良い」「運動は健康に良い」「喫煙は健康に悪い」。私達はよく「健康に良い/悪い」という表現を頻用します。が、健康の定義は人によって異なります。風邪を引かないのが健康かもしれないし、体重が減るのが健康かもしれないし、内臓脂肪が下がることが健康かもしれません。定義がバラバラだと、「健康に良い」という記述は非常に主観的で、信頼できません

この記事では、どういう「健康」の定義が信頼にあたるのか、わかりやすく解説します。この記事を読むことで、〇〇の健康効果について、より科学的に(客観的に)議論できるようになります。逆に、これを知らずして健康を語ることは、何となくの感想や主張の域を越えません(情報を疑うポイントはこちら)。

健康の定義(WHO

健康の定義(WHO)

"Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity."

“健康とは、身体的・精神的・社会的に良い状態であることをいい、単に病気や虚弱でないことをいうわけではない”

WHO憲章です。その後一度改定案が出ましたが、大きくは意味が変わらないので、世界的には健康はこのように考えられています。

これが目指すべき健康です。が、疫学研究ではどうしても「病気や虚弱となること」がアウトカム(不健康の定義)となってしまいます。なぜなら、精神的・社会的に良い状態であるということが、なかなか定量化できないからです。最近となってようやく「幸福度と健康の関係」などが研究されるようになってきました(ハーバードハピネスセンター)。が、今までの科学論文での健康の定義は、基本的に「病気や虚弱となること」です。これをどうはっきり定義するのか、がポイントです。

例えば、「赤ワインを毎日飲むと幸福度が上がる」ことは、本当かもしれませんが、それに関して調べることは容易でなく、そういう信頼できる研究は今の所ありません(私の知る限り。もしあったら教えて下さい)。あくまで2019年時点で。今後、「幸福」をより数値化して定義できるようになれば、はっきりと論じられるようになるでしょう。現時点で最も強力な健康の定義は、「病気や虚弱となること」なのです。

以下に紹介する順に、重要な「(不)健康の定義」です。より重要な定義についてはっきりしている原因(食事、運動など)が、避ける(or 摂取する)べきもの、と言うことができます。「赤肉摂取と死亡についてはかなりはっきりしている。だから赤肉を取るべきでない」というのが、科学的な議論です。

最も強力な健康の定義

👉全死亡率、心血管疾患による死亡率、癌による死亡率。

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「病気や虚弱となること」を最も密接に示す定義が「死亡率」です。では、死亡率が下がる、とはどういうことなのでしょうか。例えば、私は一生に一回しか死なないですが、その死亡の原因が〇〇だったと(例えば野菜をほとんど食べなかったことだと)、どのように証明できるのでしょうか

詳細は追って説明しますが、例えば「年齢、性別など様々な条件が同じと仮定した時に、平均で今後30年間で死亡する確率」が、いわゆる死亡率の定義となるわけです。野菜を食べることで死亡率が下がるとは、「その他条件が同じと仮定したときに、野菜をたくさん食べているか食べていないかという違いしかない2人を比較すると、野菜をたくさん食べている人が食べていない人より、平均して今後30年間の死亡率が2%低い」という意味です。

死亡が最も強力ですが、心筋梗塞で死亡した場合と癌で死亡した場合は全然コンテクストが異なります。なので、心血管疾患(心筋梗塞か脳梗塞)による死亡率癌による死亡率、をわけて評価することもよくあります。例えば、運動を毎日30分以上行うことは、今後30年間の全死亡、心血管疾患による死亡率を下げるが、癌死亡率は下げなかった、という言い方となります。

死亡率について語るときに、「今後〇〇年間の」という表現は極めて重要です。というのも、「今後100年間で」の死亡率は、運動しているかしていないかに関わらず、ほとんどみんなが100%となってしまうからです。一方、「今後1年間で」の死亡率は、野菜を食べたことで下がるとは到底思えません。大体の疫学研究は5年〜10年程度のフォローアップ期間で比較するものが多く、20〜30年程度フォローアップしたものはとても質が良い疫学研究とされています。

 

まあまあ強力な健康の定義

👉心筋梗塞の発症、心血管疾患の発症、〇〇癌の発症

糖尿病、認知症など、その他重要な疾患の発症(これらは少し弱い)

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死亡に関わらない場合、すごく強力な定義とはいえません。が、心筋梗塞の発症、〇〇癌の発症、というものは、ものすごく死亡に関わるものです。よってこれらは、まあまあ強力な(不)健康の定義となります。「禁煙による肺癌予防効果」「赤肉摂取と心筋梗塞の関係」などが、この定義を使った研究の例です。

少し専門的な話ですが(詳細は別記事で解説します)、心筋梗塞の発症を考える時、「死亡した人はそれ以降心筋梗塞を発症し得ないこと」を考える必要が出てきます(competing risk)。このCompeting riskは選択バイアスにつながるため、適切に対処する必要がありますが、ほとんどの研究では十分な対応がとられていません(Epidemiology. 2008;19(3):448–450.)。

例えば、「今後10年間の癌発症率」が(不)健康の定義となり得ます。また、「今後10年間の心筋梗塞発症又は心臓病による死亡率」というのが、coronary heart disease (CHD)としてよく用いられる定義です。

糖尿病やうつ病、認知症の発症というのはどうでしょうか。これらも、きちんとしたエンドポイントと考えられます。ただし、発症時期がはっきりしないことも多いため、解析の際には注意が必要です。

健康のサロゲートマーカーは少し弱い定義

健康のサロゲートマーカーは少し弱い定義

👉血液検査の結果、血圧、BMIなどの数値

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BMI、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、血圧、HbA1cなどは、サロゲートマーカー(例えば心血管疾患のリスク因子)として使えます。これらはいつでも計測することができるので、ランダム化試験のエンドポイントとしてよく用いられます(長期間フォローするランダム化試験は莫大なコストがかかるため)。具体的には、「赤肉を摂取することで、心血管疾患のリスク因子が、短期的にどう変化するか」という研究があります(Am J Clin Nutr. 2017;105(1):57–69.)。これは24個のランダム化試験のメタ解析で、ランダムに肉をたくさん食べる人と食べない人にわけ、血圧やコレステロールの変化をみたものです。もしコレステロール値が上がれば、心血管疾患のリスクも上がるだろうという推定の下、こういう研究が実施されます。

食事のランダム化研究は大変難しいので、長期間のフォローアップはできません(赤肉を食うな、と言われて10年間食わないことは難しいし、それを強要することは倫理的でない)。よって、ランダム化研究により、「赤肉と心筋梗塞の因果関係」は調べることができません。強力な健康定義に関する食事の影響はの全てのエビデンスは、コホート研究から示されてきています。ただし、コホート研究で因果関係を言うことはかなり難しいのです(赤肉を食べたせいで死亡率が上がった、ということは非常に難しい)。サロゲートマーカーはランダム化研究で調べることができるので、因果関係を言うことができます(赤肉を食べたせいで、LDLコレステロールが上がった、ということはできる)。サロゲートマーカーは健康の定義としては弱いですが、そういう点で有用なのです。

ここ注意!! 例えばランダム化研究により赤肉摂取によりLDLコレステロールが上昇したからといって、それ自体は健康に悪いことを示唆するものの、実際にそのLDLコレステロール上昇が心筋梗塞や脳卒中の原因となるかは不明です。めちゃめちゃLDLコレステロールが上昇したらおそらく今後悪影響をきたすだろうと考えられますが、そんなに顕著に悪くなることは、そうそうありません。なので、「ランダム化研究によって血圧上昇効果が立証された」と聞くと「かなり悪いんだろうな」と印象を持つかもしれませんが、どれくらい上がったのか、どの程度疾患発症に寄与するのか、自分で確かめる必要があります。

よく企業が行うランダム化研究のアウトカムは、この「健康のサロゲートマーカー」です。信頼度としては低いエンドポイントですが、企業は大々的に宣伝します。解釈に気をつけましょう。

弱い健康の定義

👉発症がやや主観的な病気、症状

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主観的な要素が入ってしまうエンドポイントは、健康の定義として弱いと考えられます。例えば「かぜの発症」。ランダム化研究でしっかりと参加者に定義を説明してやらないと、信頼できるアウトカムとはなりえません。つまり、コホート研究で風邪の予防法を調べることは、非常に信頼性が弱い研究となります。ただ、ランダム化研究は、様々な方法で信頼性の高いデータを集めるよう頑張るので、研究になります(エビデンスの質は高くないですが)。実際、例えばビタミンDによる風邪の予防効果について多くの研究が行われ、2019年のメタ解析にて有効性が示唆されています(Health Technol Assess. 2019;23(2):1–44.)。これは25個のランダム化試験のメタ解析です。

弱い健康の定義の他の例は、症状です。例えば「頭痛」「腹痛」「吐き気」。これらは主観的なものなので、様々な外的要因に影響を受けえます。疫学研究の際は半定量的に評価する方法を用いますが、それでも定義としては弱いです。上記と同じように、コホート研究では信頼できるエビデンスを作ることはかなり難しく、ランダム化研究が必須です。そしてランダム化試験でも、結果の信頼性は強くないのです。

あまり信頼できない健康の定義

👉血管年齢、腸内細菌フローラ、血がサラサラ、などたくさん

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巷には信頼できない健康情報がはこびっています。もし、「〇〇は血管年齢を若くする」「〇〇は腸内細菌フローラを良くする」のような記述をみつけたら、ほぼ信頼できません。なぜかと言うと、血管年齢や腸内細菌フローラは、健康のサロゲートマーカー(上述)として確立していないからです。確立していなければ、それが良くなっても健康がよくなるかはわかりませんよね。

「血がサラサラになる」もそうです。そもそも血がサラサラになることを、どのように定量化するのか決まっていません。「納豆は血をサラサラにするから健康に良い」、間違っています。本当は、「納豆(発酵性大豆製品)を食べることで糖尿病のリスクが減るという研究があるから(Diabetes Res Clin Pract. 2018;137:190–199.)、健康によさそう」です。

結論

質の高い疫学研究以外、ほとんどの研究は弱い健康の定義を使用しており、結果の解釈に慎重になる必要があります。具体例は、追って説明します。注意しましょう。

ではまた。

-ヘルスリテラシー

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