マスクはウイルス感染の予防効果があるか【エビデンスまとめ】

コロナが流行してから、どこでもマスクが義務化しています。

しかし、「マスクのウイルス感染予防効果は立証されていない」と聞いたことが無いでしょうか。

実はこれを立証するのは難しく、今までたくさんの研究が行われてきました。

この記事では、これまでに培われてきたエビデンスをまとめ、マスクは本当にコロナ感染を予防するか、するならどれくらいの予防効果があるか、検討しました。

マスクについて議論する際は、この内容をまず抑えて下さい。

 

 

マスクはウイルス感染の予防効果があるか

マスクはウイルス感染の予防効果があるか

感染予防のため、人々の生活習慣が変わりました。

日本ではマスクしていないと白い目で見られるようになり、アメリカ含め一部の国ではマスク着用が義務化されるようになりました。

つい数ヶ月前まで、アメリカ人がマスクを着けるなんて異常事態だったのに。

 

この背景には、マスク着用による感染予防効果のエビデンスが見直された経緯があります。

新しく凄い研究が行われたわけではありません。

 

*唾液がフィルターされるんだからマスクした方が良いに決まってる、と思うあなたへ。

マスクの表面を触った手で顔を触れれば、マスクしている意味はありません。

ディスポーザルで使わないなら、より効率的にウイルスをマスクの表面に集めてしまう、という考え方もできます。

「理論的に効果があるはずだ」というものを立証するのが疫学研究で、立証されないものはされるものの数十倍多いです。

薬の臨床試験がなかなかうまく行かない(=新薬の候補はたくさんあるのに中々商品化までいかない)という事実が、それを物語っています。

 

実際、今は「マスクによる感染予防効果」がどれくらい確からしいと科学的に考えられているのか。

これを理解するために、いくつか重要な科学論文を紹介し、その解釈を考えていきます。

・マスクによるインフルエンザ予防効果を検証したメタ解析(Epidemics. 2017;20:1–20.

・医療従事者でのマスクの効果を検証したメタ解析(Clin Infect Dis. 2017;65(11):1934–1942.

・SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)、SARS-CoV-1(SARSの原因)、MERS-CoV(MERSの原因)の感染予防効果について調べた研究のメタ解析(Lancet 2020 10.1016/ S0140-6736(20)31142-9

・新型コロナの予防効果を検証した最大規模の解析(JAMA 2020 10.1001/jama.2020.12897

 

*メタ解析やランダム化試験など、研究デザインについてはこちら参照下さい

 

最後に、これらを総合し、マスクによるウイルス感染予防効果があるか、見解を提示します。

ではいってみましょう!

 

なぜランダム化試験が必要なのか、というとても重要な事を最初に注意書きしておきます。

ランダム化試験というのは、マスクをしている人の群としていない人の群の属性が同じと仮定することで、「マスクによる感染予防効果」という因果関係が言えます。因果関係こそが私達の知りたいこと。

ランダム化されていない観察研究では、「マスクしている人の方がしていない人に比べて感染率が...」という相関関係しか言えません。

→相関関係と因果関係は全く異なります。マスクしている人の方が手洗いも厳密にやるので感染率が低いだけかもしれません。つまり、マスクによる感染予防効果なのかはわかりません。

→統計モデルで「年齢と性別と...が同じとした時に、マスクしてるしてないで比較すると...」という解析も行いますが、結局「マスク着用する人という、感染予防に気を使う特性」は数値化され得ないので、因果関係がわかることはありません。

この記事も参照ください

しかし、ランダム化試験はお金と手間と時間がかかります。こんな状況では倫理的な問題もあります(マスクしない群に割り振ってよいのか)。

因果関係を言うにはランダム化試験が必要です。でも限られています。

今まで行われたランダム化試験を知り、かつ沢山ある観察研究を上手にに解釈することが重要です。

 

*また、マスクを着けることで自分が感染しにくくなるか、他人に感染させやすくなるか、というのは疫学研究ではわかりません。

疫学研究でわかることは、皆がマスクを着けたほうが良さそうなのか、別に変わり無さそうなのか、ということ。

少し詳細ですが、なぜわからないかというと、個人をランダム化させてもconsistencyが成り立たないためです。

...consistencyについてはこちら

後述しますが、そもそも個人をランダム化させた研究は、私が知る限りありません。

でもどちらかと言えば、他人に感染させるのを防ぐ役割の方が多いのは明らか(もし感染予防効果があるとして)。

同じフィルター効果でも、感染者のつばがフィルターされる方が、非感染者が吸い込む空気がフィルターされるより強力なの、誰が考えても当たり前ですよね。

 

 

マスクによるインフルエンザ予防効果はあったか?

2017年のメタ解析(Epidemics. 2017;20:1–20.)です。

personal protective measureとして主に手洗いとマスクの2009年インフルエンザパンデミックでの予防効果を検証しました。

結論は:

手洗いの効果はあったが、マスクの効果はなかった (オッズ比[OR] = 0.53; 95% CI 0.16–1.71; I2 = 48%)

 

え、なかったの!?!?

と鵜呑みにする前に、中身をみてみましょう。

 

結果を説明!

対象となった研究でランダム化研究は1つだけで、これはcluster RCTといって個人でなく集団をランダム化する試験です(BMC Infect Dis 2012 10.1186/1471-2334-12-26)。

マスクを使用する家族と使用しない家族の比較ですが、結果マスクによる予防効果はあったとしています(OR =0.28, 95% CI, 0.08-0.98)。

→家族全体でマスクをしていると家族内感染は予防できることを示唆しています。しかしこれは個人の比較でない点に注意が必要です。また、サンプル数がかなり少なく(84家庭)、信頼性が弱いです。

 

・メタ解析の対象となったコホート研究は3つだけで、合わせると参加者は1371人、OR = 0.53; 95% CI 0.16–1.71 と有意な効果は認められませんでした。I2 = 48% とまあまあなheterogeneityが認められており、やや信頼性の低いメタ解析です。

*I2 はどれだけ対象となった試験がバラバラか、という指標で、これが100%に近いとメタ解析の信頼性が低いことを意味します(こちら参照

 

・ちなみにランダム化研究、横断研究、コホート研究を全部併せてメタ解析もしておりOR = 0.41; 95% CI 0.18–0.92 と有意な予防効果を示していますが、試験デザインが異なるものをメタ解析するのは基本的にNGです。

 

解釈は?

✔ランダム化研究は結論するに足る信頼性でない。

✔コホート研究は信頼区間が広く有意差はなかったが、summary ORは低かった

✔よって、「予防効果が認められないと結論する十分なデータがない」というのが正しい解釈だと思います。

 

 

医療従事者でのマスクの効果はあるか?

医療従事者でのマスクの効果はあるか?

続いては2017年のメタ解析。医療従事者でのマスクの予防効果を検証しています(Clin Infect Dis. 2017;65(11):1934–1942.)。

結果、N95またはサージカルマスクの着用によって上気道感染を予防することが示されました(リスク比 [RR] = 0.59; 95% CI:0.46–0.77)。

*上気道感染はほとんどがウイルスを原因とします。

 

結果の説明

・ランダム化研究は2つありました。メタ解析にて、N95またはサージカルマスクの着用によって上気道感染(RR= 0.59; 95%CI:0.46–0.77)、インフルエンザ様症状(RR = 0.34; 95% CI: 0.14–0.82) を抑える と報告されました。また、N95はサージカルマスクより強い予防効果が認められました。

 

・サージカルマスクとマスク無しの比較はされていませんが、データ上そのメタ解析も可能です。

自分で計算してはいませんが、Figure 2を見る限り、少なくとも上気道感染予防については有意な予防効果が示されそうです。

 

・5つの観察研究のメタ解析ですが、サージカルマスクによってSARSの有意な予防効果がありました((OR = 0.13; 95% CI: 0.03–0.62)。インフルエンザpH1N1に対する有意な予防効果はありませんでした。

*SARSに関してはよりupdateされたメタ解析があり、後述します。

 

解釈は?

サージカルマスクでも有意な予防効果が示されそうですが、解釈には注意が必要です。

・質の高いランダム化研究が行われていないし、それぞれのサンプル数は少ない

・どれだけ感染の危険性にある状態か異なる

 

すごく質の高いエビデンスとは言えませんが、マスクに感染予防効果があることが示唆された結果でした。

なぜ医療従事者には効果が認められたかと言うと、病院は一般的に感染リスクが高いから+医療従事者はマスクの使い方が教育されているからでしょう。

感染リスクが高いほど、マスクを推奨どおりに使うほど、予防効果が期待されます。

よって、医療従事者にはルーチンにマスクをつけることが推奨されています

(実際どの病院もそうしてますね)

 

*ちなみに、「サージカルマスクvs N95マスク」の大きなcluster RCTが2019年に発表されています。結果、病院でのインフルエンザ予防に有意な差はなしと結論されています(JAMA. 2019;322(9):824–833.)。

 

 

コロナ感染に対するマスクの有効性

コロナが流行り、マスクの効果を正確に判断する必要に迫られたため、WHO主導で「コロナウイルスに対するマスクの有効性」についてメタ解析が行われました(Lancet 2020 10.1016/ S0140-6736(20)31142-9)。

 

✔2020年3月26日までに発表された論文で、

・コロナウイルス感染症(COVID-19, SARS, MERSのいずれか)の感染者か感染疑いが含まれている状況(病院、病院外含む)

・physical distance、マスクや眼鏡(eye protection)着用有無による感染リスクを評価したもの

を対象とし、

✔MEDLINEやPubmed, Embaseといった一般的な医学論文データベースに加え、中国のデータベース、preprint servers(査読前の論文、bioRxivなど)、COVID-19 resource centers(NEJMやLancetにあります)を手作業で全て確認し、今までの報告を集めました。

 

かなり網羅的な報告ですね。

結果、ランダム化試験は1つもなく、44個の観察研究がメタ解析の対象となりました。

*Physical distance, マスク, eye protectionそれぞれについて解析していますが、ここではマスクの結果のみ紹介します。

 

結果!

マスクをしていた方が感染リスクが低い結果となりました:

交絡因子で調整なし(29研究): リスク比0.34 [95%CI: 0.26, 0.45]

交絡因子で調整有り(10研究): オッズ比(リスク比でない)0.15 [95%CI: 0.07, 0.34];リスク差は-14.3%

 

医療機関内外でinteractionがありました(p=0.049)

→医療機関内でより強い効果がありました

 

N95マスク vs. 他のマスクではinteractionは有意ではありませんでしたが(p=0.09)、N95の方がオッズ比は低い傾向がありました(調整済オッズ比:0.04 vs. 0.33)。

 

また、エアロゾル発生を伴う現場かどうか、という因子でinteractionが有意でした(p=0.048)

→そういう現場ではマスクが有効ということ

 

*この研究の対象となった「普通のマスク」は、12-16層のマスクです。

ホームメイドのものは1層のものが多く、対象としていません。

 

解釈は?

マスクをしている人が感染リスクは低い、と言えますが、それがマスクによる効果かはわかりません。

*80%も感染リスクが減る、という解釈は誤りです。「リスクが減る」というのは因果関係を意図した言い回しです。因果関係はランダム化試験でしか言えません。

 

例えば、マスクを着用する人は、よく手を洗ったりうがいをする可能性が高いですね。

→こういう交絡が取り切れないので、観察研究では因果関係は言えていません。

=マスクの調整済みオッズ比0.15が、マスク単独の効果とは言えません。

 

 

マスクは医療従事者の新型コロナ感染を防ぐか?

最後に、マスクによる新型コロナ感染の予防効果を検証した最近の研究を紹介します(JAMA 2020 10.1001/jama.2020.12897)。

新型コロナを対象とした研究では最も大規模な解析です。

 

どういう研究?

ボストンの12病院、75000人の医療従事者が対象です。

期間は3/1~4/30。

この間に「患者のマスク着用ポリシー」が変化、3つのphaseがありました

Phase-1 (3/1~3/24):患者のマスク着用が義務化される前

Phase-2 (3/25-4/10):移行期

Phase-3 (4/11~30):患者のマスク着用が義務化

 

この期間での「その日の感染者発生率」を計算した、というわけです

→感染者発生率: PCR初めて陽性の人数 ÷ (PCR初めて陽性だった人数+PCR陰性だった人数)

 

そして、日毎の感染者発生率をプロットしました。このplotは検査数で重み付けを行いました。

これをアウトカムとするのは妥当なのか?「解釈」で言及します。

 

*PCR検査の適応は感染が疑われる症状があることでした。

 

結果・・・図の通り

全体で1271/9850 (12.9%)がコロナ感染しました。

めっちゃ多い!

経過はこのとおり↓

Phase-1: 0%から21.32%へ増加

Phase-3: 14.65%から11.46%へ低下

というように、その日の感染者数率は変化しました。

 

解釈は?

患者のマスク着用を義務化したらある程度感染コントロールができている、という報告でしたが、

勿論これは相関関係であり、因果関係ではありません

なので「マスクつければ・・・」という因果関係を言うことはできません。

=つまりこれがマスクの効果なのかは不明です

(おそらく違います)

(相関患者と因果関係の違いはこちら

 

具体的には、こんな解釈の注意点がありそうです:

マスクでない政策のせいかもしれない。

→待機的手術はキャンセルになったし、social distancingも強化されました

→さらに、病院内のコロナ患者への対応も日々うまくなってきました。

→マスク単独の効果とは言えません

✔「コロナにかかるとやばい」という医療従事者の意識がはっきりしてきたのもあります

→より厳格な感染予防策を講じるようになったと思います

 

Figureの解釈がバイアスかかってそうです

...おそらくphase-1の最後の2ポイント、Phase-3の最初の方の25%くらいのポイントはoutlierかと思われます。

→これらを除外すると、徐々に感染率が上がっていき、phase-3の途中からちょっと下がり傾向にある、という風に見えます。

つまりマスクが決定的な効果があったわけでなく、色々な方策により感染が徐々にコントロールされてきている、という風に読み取れます。

 

✔そして、そもそもこのアウトカムは妥当なのかということ。

...アウトカムは「コロナ疑いの医療従事者が実際にPCR陽性である確率」です

→これが高くなるということは??間接的にコロナが増えていることを示していそうですが・・・・

→「単純な患者数+検査数のweight」の方がbetterです。

 

 

これらの研究を踏まえて、マスクはコロナ感染予防効果があるか

以上の研究をまとめると:

・ランダム化試験は小規模のものが少ししか無いが、予防効果はありそうという結論

・観察研究では低い感染リスクと関連性あり

・医療従事者では関連予防効果がありそう

・新型コロナに関する良いエビデンスはなさそう

 

結果、おそらくマスクによる新型コロナ感染予防効果はあるんじゃないか、とまとめられそうです。

 

でも、どれくらい予防効果があるか(何%くらい感染リスクが減るか)、ということは言及できません。

それを言うには、大規模なランダム化試験が必要。

*繰り返しですが、観察研究では、「マスクをしている人が感染リスクは低い」という相関関係しか言えず、そのオッズ比やリスク比からは「何%減るか」という因果関係はわかりません。

 

******

マスクに感染予防効果があるとして、どれくらい強力かはわからない。

その効果を過信するのは、科学的とは言えません。

マスク警察はやめましょう

 

特に夏、マスクしてると苦しいと思います。

周りに人がいなければ、マスクする必要はありません。

また、運動するときもマスクしない方が良いです。熱中症になります。

 

感染予防に大事なことは他にもたくさんあります。

少し補足してまとめると↓

✔具合悪い人との接触を避ける

✔粘膜(目や鼻や口)を触るのを避ける;粘膜から感染します

✔マスクをつけたならそれをずらさない;結構難しいですよ

✔咳やくしゃみをティッシュで覆う

✔手洗いをこまめにする;手に付着しているウイルスが粘膜を介して感染する可能性

✔しっかり手洗いをする;60-95%アルコールを含むソープで20秒以上(医療従事者は手洗いのトレーニングを受けていますが、そうでない方は正しい手洗いの方法を学習すべきです)

三密を避ける

 

CDCのウェブサイトでは、このように啓蒙しています:

Everyone should:

・wash your hands often(よく手を洗い)

・avoid close contact(密接を避け)

・cover your mouth and nose with a mask when around others(周りに人がいる時は口と鼻をマスクで覆い)

・cover coughs and sneezes(咳とくしゃみをカバーし)

・clean and disinfect(よく触る所を常に殺菌し)

・monitor your health daily(毎日体調管理するべき)

 

マスクは常に必須なわけではないし、マスクしていれば安心でもありません。

感染予防する一つの(おそらく有効な)手段、というのが正しい認識かと思います。

 

 

結論

大規模なランダム化試験はないが、おそらくマスクに感染予防効果はあると思われる。

どの程度の効果があるかは不明。

また、感染予防に大事なことは、マスク以外に沢山ある。

ではまた。

-COVID, 基本

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