「エビデンスがない」に注意:4つ解釈がある

「エビデンス(科学的根拠)がない」という理由で、何かを批判している人を見かけた事が無いでしょうか。

「アビガンは新型コロナウイルスに対する効果のエビデンスがないから・・」など。

医療現場(医者の会話)では、割と日常的に聞くワードです。

でも「エビデンスがない」という言葉、全然違う意味が意図されているかもしれません。

これをはっきりと認識し、解釈に注意できるようになるための記事です。

 

 

「エビデンスがない」の解釈に注意

「エビデンスがない」の解釈に注意

「エビデンスがない」とは、普通否定的な文脈で用いられます。

・エビデンスがないから、その薬は使わない方が良い

・エビデンスがないから、それは意味がない

 

発言している人(多くは医者)は、善意で言っています。

つまりほとんどの場合、「あなた(〇〇の患者)には飲まない方が良い」ということを、格好良く言っている訳です。

そういう場合、発言している医者はあまり自覚していません。

 

でも実はこの「エビデンスがない」という言葉、背景には様々な解釈があるのです。

違う意味で使う専門家・医者もいて、かなり意図的に解釈を曲げることができます。

我々はこれに騙されてはいけません。

 

これを題材にした最近の論文(JAMA 2020 doi.org/10.1001/jama.2020.2855)を参考にしながら、「エビデンスがない」という様々な意味について、わかりやすく説明していきます。

 

 

こういうのは「エビデンスがない」

次の4つの文で、「エビデンスがない」という意味合いが同じだと思いますか?

 

・アビガンが新型コロナ肺炎に効くというエビデンスがない

・市販の風邪薬を飲んで、風邪が早く治るというエビデンスがない

・ウイルス性の風邪に抗菌薬はエビデンスがない

・横断歩道を歩く前に左右を見ることが、交通事故を防ぐというエビデンスがない

 

違いそうですよね。

これをはっきりと区別してみましょう。

 

✔アビガンが「エビデンスがないのに現場で提供される準備が進んでいる」のは事実です。

これはアビガンが効かないからでなく、効く可能性があるからですよね。

つまり、今後エビデンスが出てくるかもしれません。

ここで「エビデンスがない」は、「まだエビデンスがない」=効くか効かないか分からない、という文脈で使われています。

 

✔風邪薬で風邪は早く治る事はありません。

風邪を治す薬を開発したら間違いなくノーベル賞でしょう。

市販の風邪薬には色々な成分が含まれていますが、それぞれについて、様々な臨床研究が行われてきました。その結果、風邪薬のどの成分も、風邪の罹患期間を短くする効果はない、と示されてきました。

でも別に風邪薬使っても良いわけです。

つまりこの「エビデンスがない」は、「効かないとするエビデンスがある」=効かない(からその人の選択に任せられる)、という文脈で使われています。

*世の中の大半のサプリはここに該当します

 

✔ウイルス性の風邪(上気道炎)に抗菌薬が効くわけありません。

抗菌薬はウイルスでなく細菌を殺す薬だから。

加えて、ウイルス性の風邪に抗菌薬を使うと耐性菌が育つので、使わないほうが良いとされています。

よってこの「エビデンスがない」は、「(一部の人には)使わないほうが良いとするエビデンスがある」=使わないほうがbetterだ、という意味です。

 

✔横断歩道を渡る前、左右を確認しない人は普通いませんよね。

確認したほうが、事故にあうリスクが低いに決まっています。

でもそんな効果を調べた研究はありません。調べる意味がないからです。

この「エビデンスがない」は、「研究されていない」=当然効果があるから調べる価値がない、という文脈で使われています。当然効果がない、という意味で使われることもあります。

 

 

「エビデンスがない」の一言に煙をまかれるな!

まとめるとこの一言には、次のような意味が含まれます:

 

・まだ効くか効かないか分からない

・効かない

・害が大きいので使わないほうがよい

・当然過ぎて調べられていない

 

これを認識することが、本当に大事です。

 

 

エビデンスのグレードにUS Preventive Services Task Force (USPSTF) gradesという有名なものがありますが、ここでは

・効く=A

・おそらく効く=B

・効かない=C

・害が大きいので使わないほうがよい=D

・まだ効くか効かないか分からない=I

とされており、「エビデンスがない」という文面ではCかDかIかわかりません

 

 

専門家が「エビデンスがない」というと、「そうか効かないんだ(C)」と思う人が大半かもしれません。

でも本当は効くかもしれない(I)し、もしくは使わないほうが良いのかもしれない(D)。

この「エビデンスがない」という言葉に煙を巻かれてはいけません。

 

なお、医療はscienceとartの要素があり、エビデンスはscienceの部分ですが、実はここが多少おろそかでもそこまで患者個人への影響は大きくないと思います。

なぜならエビデンスとは、集団の利益をアウトカムにした研究結果だから(この点はこの記事で解説しています)。

実際日本の医療は世界的に超高水準です。

 

 

私はエビデンスが好きなので勉強していますが、実際の医療に関してはそこまでインパクトがない感じもします。

別に「エビデンスがない」が何を意味しているか意識していなくても大差ない。

 

でも何かを科学的に議論する際にはダメです。

専門家が自分が知らないことを「エビデンスがない」として煙に巻くことは断じて許されません。というか、この曖昧な「エビデンスがない」という言葉は使うべきでありません。

非専門家の方も、この事実を知っておくのが大切です。

 

 

結論

「エビデンスがない」には色んな意味合いがある。

効かない、という意味だけではない。効くかもしれない。

ではまた。

 

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