予防医学を語る際に、やっぱり重要になるのは「landmark的ランダム化比較試験」の結果です。
これを抑えずしてエビデンスは語れません。
本記事では、主にハーバード絡みで行われた大規模RCTを紹介していきます。
健康な人を対象とした「心血管病の一次予防」についてのRCTが対象です(CANTOS Trial以外)
Contents
DASH Trial
1997年発表(NEJM)。
459人(sBP 160未満)を対象に行われた
1. 果物+野菜多め
2. 果物+野菜多め、脂質少なめ(これが今言うDASH食)
3. コントロール
の3群を8週間フォローした研究。
結果、収縮期血圧がグループ1は2.8mmHg、グループ2は5.5mmHg低下した。
高血圧患者においては効果はより強力であった。
<ポイント>
昔の研究ですが、RCTで食事による効果(因果関係)を示した、landmark的論文。
高血圧→減塩、のイメージがあるが(部分的にはそうだが)、食事の設計は上の通りであったことはあまり知られていない。
なお、グループ2の塩分量は1日3グラム程度であった!
→それなのにアドヒアランスは95%以上達成したのがすごい(フォロー期間が短いからだけどね)
Women’s Health Initiative
2004年発表(JAMA)。
アメリカで11000人の閉経後女性を対象に行われた
ホルモン補充療法 vs. プラセボ
で5.2年間フォローされたRCT。
結果CHD(AMIか心臓死)のハザード比がホルモン補充療法により1.29と上昇した。
この結果によりTrialは中止となった。
<ポイント>
ホルモン補充療法のエビデンスとしては超重要なもの。
ただし色々な問題があり、RCT=ベストなエビデンスとは言い切れない、ということがはっきりした研究でした。
詳細はこちらにて
Women’s Health Study
2005年発表(アスピリン: NEJM, ビタミンE: JAMA, βカロテン: JNCI)。
アメリカで40000人女性を対象に行われた
A. アスピリン(100mg/2日)vs. プラセボ
B. ビタミンEサプリ(600IU/2日)vs. プラセボ
C. βカロテン(50mg/2日)vs. プラセボ
の2X2X2 factorial RCT。10年間フォローされた。
結果、MACE(AMI, stroke, 心臓死)のハザード比が
A. アスピリン vs. プラセボで0.91
B. ビタミンE vs. プラセボで0.93
とどちらも有意差なしであった。
*βカロテンについては2.1年で中止され、プラス2年の計4.1年間についての解析となり、有意差なしであった。中止されたのはPhysician’s Health Studyの結果をうけて。
<ポイント>
ビタミンEサプリのエビデンスとしては最高のもの。あまり効果は期待できなそうでした。
この時代ではアスピリンの一次予防としても重要なエビデンスですが、決定的なことは言えなかった。
その後色々なRCTが行われ、今ではある程度立ち位置がはっきりしてきています。
この記事でまとめています
Physician’s Health Study II
2008年に発表(ビタミンC/E: JAMA, マルチビタミン: JAMA)。
15000人のアメリカ人医師を対象に行われた
A. ビタミンDサプリ(400IU/2日) vs. プラセボ
B. ビタミンCサプリ(500mg/日)vs. プラセボ
C. マルチビタミン vs. プラセボ
の2X2X2 factorial RCT。8年間以上のフォローアップ。
*βカロテンも割り振りされていたが途中で中断となった
MACE(AMI, stroke, 心臓死)のハザード比が
ビタミンDで1.01, ビタミンCで0.99、マルチビタミンで1.01
と、ほぼ全く効果なしの結論であった。
<ポイント>
ここまではっきりと効果なし、という結論を出したRCTは珍しい。
なお失敗ではない。
今だからこそ、上のような介入では効果ないだろうと簡単に言えるが、その大きな根拠となった試験。
JUPITER Trial
2008年発表(NEJM)。
26カ国、18000人のLDL<130, 高感度CRP>2.0の人を対象に行われた
ロスバスタチン(20mg/日)vs. プラセボ
のRCT。1.9年と早期に中断となった。
なぜならMACE(AMI, stroke, 心臓死)のハザード比0.53の他、心血管病のアウトカムの劇的な改善を示したから。
<ポイント>
LDLが低くても炎症が高いと心血管病のリスクになり、それをスタチンが劇的に抑えることを、直接的に初めて示したもの。
こういう人はスタチン飲んだ方がよい。
これ以降はスタチンが予防の前提となり、「スタチンにadd-onでなんの薬をどのような人が飲むべきか」というquestionになった。
→Residual lipid riskなどと言う。
PREDIMED Trial
2013年発表(NEJM)。
スペインで7500人を対象に行われた
1. 地中海式食事+オリーブオイル
2. 地中海式食事+ナッツ
3. コントロール
の3群を4.8年フォローした研究。
MACE(AMI, stroke, 心臓死)のハザードが地中海式食事群どちらも3割低下した。
効果が強力なので、途中で中断となった
<ポイント>
食事はRCTを行うのが難しく、その長期フォローを完遂した珍しい研究。
ドロップアウトがコントロール群で11.3%、地中海式食事群で4.9%と、コントロールの方が多かった!
地中海式食事は美味しい=ドロップアウトが少ない+健康に良い、と最強であることが示されたのであった。
地中海式食事の詳細についてはこちら
CANTOS Trial
2017年発表(NEJM)。
39カ国10000人の心筋梗塞既往がありhsCRP>2の人を対象に
IL-1βモノクローナル抗体(3ヶ月おきの皮下注) vs. プラセボ
としたRCT。4年間フォローされた。
*用量は50mg, 105mg, 300mgの3通り(つまり4群)
MACE(AMI, stroke, 心臓死)のハザード比は、150mgで0.85であり、150mg群のみが有意であった。
<ポイント>
JUPITER Trialの続きなので、二次予防の研究ですが載せました。
効果ありとのconclusionでしたが、決定的とは言えず、IL-1βモノクローナル抗体が臨床で応用されるには至っていません。
なお、現在ベザフィブラートの糖尿病患者での効果を検証するPROMINENT試験が進行中で、2021年中に結果が出るそう。
VITAL Trial
2019年発表(オメガ3: NEJM, ビタミンD: NEJM)。
アメリカで25000人を対象に行われた
A. ビタミンDサプリ(2000IU/日)vs. プラセボ
B. オメガ3サプリ(1g/日)vs. プラセボ
の2X2 factorial RCT。5.3年フォロー。
MACE(AMI, stroke, 心臓死)のハザード比は、ビタミンDで0.97、オメガ3で0.92
で、どちらも有意差なしであった。
<ポイント>
サプリのRCTとしては最大規模でしっかりとしたデザインであり、最高のエビデンス。
アドヒアランスは80%強。
一つの栄養素の効果はやっぱり強く無いのであった。
ただomega3脂肪酸については、魚を食べてない人では効果がありそうであった
詳細はこちら
結論
大規模RCTで差を証明するのはとても難しいのです。
なお、どの研究も10億ドル単位の事業です。
ではまた。