アルツハイマー病の新薬アデュカヌマブの問題:家族になら使う?

最近アメリカでアルツハイマー病の新薬アデュカヌマブが承認され、波紋が広がっています。

というのも、通常承認となるに足るエビデンスがない中で承認されたから。

一方、治療の選択肢が増えることは良いことだ、という意見もあります。

もしあなたの家族がアルツハイマー病と診断されたら、この薬を使って欲しいでしょうか。

この新薬承認に関わる問題はどこにあるのか。

承認の経緯を振り返りながら、考えていきましょう。

 

 

アルツハイマー病の新薬アデュカヌマブ

アルツハイマー病の新薬アデュカヌマブ

新薬が出てくる事は、患者やその家族にとっては光であることがほとんどです。

アルツハイマー病は、治療薬のない進行性の病気。患者はアメリカだけでも620万人もいます。

この新しい治療薬となると、臨床上ではすさまじいインパクトです。

 

渦中の薬、アデュカムマブは、今年FDAが使用承認した「アミロイドβ」に対するモノクローナル抗体。

そもそもアルツハイマー病の原因(の一部)が、脳内にアミロイドβが蓄積する事だ、と考えられているので、理にかなっている治療法です。

*この理論は医学部の授業で習うレベルです。ただ、その理論自体に疑問を投げかけているグループもいます。

 

なぜこの承認が問題視されているかというと、通常承認に足るエビデンスがないから。

簡単にいうと、大きなRCTのprimary endpointは「有意な効果なし」とのことだったのです。

あるサブ解析で「効果があるかもしれない」となり、それが今回承認の根拠となっています(詳細こちら)。

一般的には、primary endpointで効果ありでないと、当然「実際に効果が見込まれる」とはならないので、承認されません。

承認に際して、専門家のほとんどが「承認すべきでない」と結論していますが、結局承認されています。

これがどういう問題を生むのでしょうか。

最近NEJMに発表されたcorrespondenceを参照に考えていきましょう(N Engl J Med 2021; 385:771-774

 

 

アデュカヌマブの臨床試験

通常臨床試験には3つのphaseがあり、最後のphase 3=大規模ランダム化試験で「有意な効果あり」と結論されて初めて、新薬として承認されます。

アデュカヌマブについては2つのphase 3 trialが走っていました。

*ENGAGE (NCT02477800) と EMERGE (NCT02484547)

 

簡単に言うと、軽度の認知機能障害+PETで脳内にアミロイドβの蓄積が確認された患者が対象で、投与後の認知機能スコア(CDR-SB)がアウトカムでした。

この2つのtrial、なんと2019年に「治療効果ありとなる見込みなし」として中断されたのです!

しかしその7ヶ月後、EMERGEの一群で「有意な効果あり」だった、とした発表がBiogenからなされました。ENGAGEでは同様の解析で効果なしであった。

BiogenはEMERGEの解析結果を新薬承認のエビデンスとして提出したのでした。

 

 

承認の根拠

ただ、片方のtrialの一群で効果ありだったとしても、もう片方では効果がないわけだから、承認の直接的な根拠とはならない。

今回承認の直接的な根拠になったのは、PETでの脳内βアミロイドの量、というアウトカムに有意差があったことでした。

これはかなりはっきりした効果がありました(モノクローナル抗体だから当然です)。

問題なのは、脳内βアミロイドの量を減らせばアルツハイマー病の進行が予防される、というはっきりした科学的根拠がないことです。

 

というか、そもそもprimary endpointにはっきりした差がなかったわけで、なぜこの脳内βアミロイドの量、というアウトカムが承認の根拠になったかは甚だ疑問です。

サブ解析で他にも色々なバイオマーカーに効果がありそう、となっていますが、それも直接の根拠にはなりません。

謎なのです。

 

 

アデュカヌマブ承認の問題点

そもそも効くか定かでない薬を承認した、ということ以外にも問題があります。

 

副作用

薬には必ず副作用が伴います。

アデュカヌマブの副作用は、amyloid-related imaging abnormalities(アミロイド関連画像異常)と言われています。

単語だけ聞くと「画像上の異常でしょ?」と軽い印象がありますが、実際は血管性浮腫と脳内微小出血を意味します。

これが投与群の約40%の患者に認められたのです。

 

これは、もしはっきりした治療効果があれば「投与が憚られるほど恐ろしい合併症」とは言えないかもしれません。

が、治療効果がはっきりしていないので、····。

 

 

高すぎ

最近色々なモノクローナル抗体による治療がありますが、概して高額です。

アデュカヌマブも1年600万円ほどかかる薬。

数百万人単位の患者がいることを考えると、これが標準治療となったらこの薬だけで国の財政を破綻させるレベルです。

*アメリカでもMedicareやMedicaidは国が医療費を支出する仕組みです

 

 

承認のプロセスに疑問

最近FDAにはより多くの薬を承認しようという流れがあることは確かです。

が、この承認はあまりに科学的でないので、FDAと製薬会社(Biogen)の間でなんらかの適切でないやりとりがあったかもしれない、と考えている人たちがいます。

これについては現在調査中です。

 

 

アデュカヌマブ、あなたの家族になら使って欲しいか

アデュカヌマブ、あなたの家族になら使って欲しいか

さて、科学的にかなりの疑問を残しつつ、結果的にはアメリカで承認されてしまいました。

すると、医者は処方すべきか、患者(家族)は処方をお願いすべきか、という現実的な問題が生じます。

あなたの家族になら使って欲しいでしょうか。

 

*****

医者目線では、ある程度臨床試験の解釈ができる人なら、この薬を使う事はないでしょう。

実際いくつかの病院では「アデュカヌマブの処方はしません」と明言しています。

ただ、当然科学に基づいている医者だけではありません。日本もアメリカも。

 

胡散臭い医者がたくさんいることは、少なくとも日本では、コロナで浮き彫りになりました。

アメリカも同様で、特に開業医ははちゃめちゃな利益相反が生じえるため、アデュカヌマブを処方しまくる医者が出てくることが予想されます。

 

****

患者目線ではどうでしょう。

自分の家族だったら使って欲しいと思う人、それなりにいるのではないでしょうか。

特に日本のように費用負担が少ない場合。

*現時点で日本では保険承認されていませんが。

 

偉そうにこんなことを書いている自分でも、家族の問題になったら考えてしまいます。

というのは、各患者での効果はわからないから。

研究でわかるのは「平均的な効果」であって、それがエビデンスと言われています。

個人に対する効果はエビデンスではわかりません。現状。

(おそらく使う選択肢はとりませんが)

あなたならどうでしょうか。

 

 

結論

つまり問題は、患者·医師といった下流でないということです。

薬の承認は、それが全体的に社会にプラスとなるか、という上流の問題です。

疫学、臨床研究というのは、この上流の視点にたった方法論なのです。

 

実臨床でもEBMといわれ研究の情報が用いられるので混同しやすいですが、結局EBMが基づくのは「平均効果」であり、「個別効果」ではありません

でも実臨床は治療は個別化されるべきなわけです。

ここに大きなギャップ、発展の余地があります。

 

アデュカヌマブの承認は明らかに科学的でありません。

ただアルツハイマー病の治療薬はたくさん候補が出てきていて、多くの臨床試験が走っているので、そのうちよりはっきりした効果のある薬が承認されるでしょう。

ではまた。

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