尿酸値が高ければ下げる、というのは一昔前のpracticeです。
痛風だったら下げるべきですが、痛風でない高尿酸血症の治療指針はガイドラインによって異なります。
「腎臓を守るため尿酸値を下げたほうがよい」という意見もありますが・・・?
最新の知見を知りましょう。
あなたの尿酸値、ほんとに下げたほうがいいの?
「尿酸値が8mg/dlだった。痛風の既往はないけど、アロプリノール(尿酸下げる薬)を飲んでます」
という方、多くないですか?
昔はそれで良かったかもしれませんが、ガイドライン通りの治療ではありません。。。
実際高尿酸血症について勉強する機会はあまりない医者がほとんどかもしれません。
日本のガイドライン見たことあるでしょうか?
「こういう患者どうする?」といったコーナーもあって結構面白いので一読をおすすめします。
ちなみに治療ガイドラインは各国で異なります。
一致している点は、無症候性の高尿酸血症患者の尿酸値を下げても、そんなに良いことは期待できなそう、ということ。
*当然痛風患者は別です。
よく聞く意見に、「腎臓守るため尿酸値を下げる」というものがあります。
でもこれ、エビデンスに基づいているでしょうか?(なんとなくではないでしょうか?)
実は今まで大規模なランダム化試験は行われてきていなかったのでした。
今週のNEJMに、このトピックで大事なランダム化試験(CKD-FIX)が発表されました(N Engl J Med 2020;382:2504-13.)。
どういう研究?
対象は以下の通りです:
・オーストラリアとニュージーランドの31施設
・eGFR 15-59で、かつCKDが進行するリスクの高い方
・痛風の病歴の無い方
*高尿酸血症は条件に含まれていません
彼らが、アロプリノール100mg(増量可)またはプラセボにランダム化され、2年間追跡されました。
アウトカムはeGFRの変化量。
残念なことに・・・
Power 90%で計算して620人をリクルートする予定だったのですが、なかなか参加者が集まらず、結局369人で打ち止めとなりました。。
そのうち6人がすぐに参加撤回を申し入れたので、解析は363人が対象となりました。
そして2年フォローできたのは75%弱でした。。
結果は?
ベースラインのeGFRは32程度、尿酸値は8.2程度でした。
アロプリノールで尿酸は35%ほど低下。
eGFRの変化量は
・アロプリノール群が-3.33/year
・プラセボ群が-3.23/year
で有意差なし。
その他いろいろなsecondary outcomeも有意差なし。
解釈は?
残念ながらRCTとして失敗してしまっていますが、おそらくアロプリノールでCKDの進行は抑えられないと思われます。
解釈の注意点は以下の通り:
✔サンプル数が全然足りない=powerが足りないので、「p値が有意でなくとも、本当に差が無いか言及はできない」ということになります。
+lost follow-upが多く(25%以上)、post-randomization confoundingと言われる枠組みで交絡が生じています
(post-randomization confoundingについては、この記事のWomen's Health Initiative説明を参照)
→ということで、科学的に結論を出すことはできません。
*しかし、メインの解析で本当に全然差がなかったので、おそらく理想的な試験デザインであったとしても差はなかったんだろうな、と推察されます。
✔尿酸値を組み入れ基準に入れていないのは謎です。
→結果的に平均して尿酸値8.2や9の集団となりましたが、当然正常値の方もいることが予想されます。
→なぜ≥8mg/dlとか決めなかったのか??完全に謎です。
このRCTは不完全ですが、今までのエビデンスとは一致しています。
なので、びっくりする新しい結果ではありません。
<補足>
「尿酸値が高いからCKDが進行する」という文言は因果関係です。
尿酸値とその後のCKD進行の関連をみた研究は死ぬほどあり、きちんと交絡因子で調整されているものもたくさんあります。が、結局それは観察研究なので、因果関係を言うことはできないのです。
因果関係を言うにはRCTが必要で、それはこのような「尿酸値を薬で下げる」という介入によってのみ言及されえます。
これでCKD進行が予防されたら、「尿酸値が高いとCKD進行するんだろうな」と因果関係が推察されるわけです。
でもそうとは言えなそう、ということ。
結論
あんまりうまく行かなかったRCTでしたが、アロプリノールとCKD進行の間におそらく関係は無いんでしょう。
アロプリノールを処方するのは痛風予防のためです。
ではまた。