認知症というのは色んな原因(=病気)があります。
病気に応じて治療が異なるので、それをはっきりさせることは重要です。特にアルツハイマー病の診断は重要。
専門の外来にかかれば高度な検査で診断されますが、認知症患者はめちゃくちゃ多いので、全員に行うことはできません。
そこで、1回の血液検査でアルツハイマー病の診断ができないか、という試みが行われました。
アルツハイマーの診断に血液検査が使えるか!?
アルツハイマー病って、世界に何人くらいいるか、想像つきますか?
2050年には1億人になるそうです。
日本ほぼ全員アルツハイマー病というスケールです。そんなに多いし、増えているんです。
アルツハイマー病というのは認知症の原因となる病気の一つです。
他には、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症など。
病気によって治療は異なるので、認知症の患者さんがアルツハイマー病がある、と診断することは重要です。
アルツハイマー病の特徴は、脳にアミロイドβ蛋白が沈着することです。
確定診断は、PETもしくは脳脊髄液の検査で行われます。
が、
いかんせん患者が多すぎます。
全員にPETを行うことはできません。
そこで血液検査。
いくつか検討されていますが、今回はP-tau217というバイオマーカーの検査精度を検討した研究を紹介します(JAMA. 2020;324(8):772-781)。
どういう研究?
3つのコホートの解析です。
それぞれ
・死後の脳生検でのアルツハイマー病の診断と
・アルツハイマー病の臨床診断(PET含む)
・PSEN1変異あり/なしをマッチしたコホートでの認知症発生
とP-tau217との関連性をみました。
*PSEN1とは、早期発症型アルツハイマー病の原因遺伝子です。
結果
<脳生検による診断>
血液検査は、死亡する直前〜2.9年前に採取されました。幅があります。
81人が対象(34人が疑いもしくは確定診断)。
・疑いもしくは確定診断に対し、AUCは0.89 (95% CI, 0.81-0.97)でした。
・確定診断に対し、AUCは0.98 (95% CI, 0.94 to 1.00)でした。
*病理でも、診断の信頼性に幅があります。
<臨床診断>
699人が対象(コントロール301人)
臨床診断に対し、AUCは0.96 (95% CI, 0.93 to 0.98)でした。
*他の色々な検査(P-tau181やNfLなど)と比較していますが、P-tau217の診断性能はベターでした。
<PSEN1変異>
622人が対象。365人がPSEN1変異あり、そのうち71%が認知症あり。
平均のP-tau217濃度は、
・PSEN1変異なし:1.9 ng/ml
・PSEN1変異あり+認知症なし:4.5 ng/ml
・PSEN1変異あり+認知症あり:16.8 ng/ml
でした。
解釈は?
P-tau217はアルツハイマー病の診断性能が良いことを示唆する論文でした。
limitationは、
・それぞれ別々のコホートで、サンプル数が少ない点=selection biasが大きい
・cross-sectional analysisなので因果関係は言えない点(P-tau217が高いから・・・)
・P-tau217のアッセイがまだリサーチベースで、clinicalにvalidateされていない点
等ありますが、P-tau217は期待できそうです。
そもそもどうやっても(脳生検しても)アルツハイマー病の診断は難しいのです。
心血管病のように、はっきりとした基準で「あり/なし」がわかることは、なかなかありません。
そして専門外来以外での実臨床では、認知症っぽければ特段検査しないで(検査しても長谷川式くらい)、アリセプトが処方される(もしくは処方されない!)のが一般的です。
そんな中、アルツハイマー病が一発の血液検査でわかる(かもしれない)というのは、臨床医にとってはめちゃくちゃ重要なニュースです。
認知症っぽい→P-tau217→高ければアリセプト、というようにプラクティスを単純化できるからです。
これが最善でないにしても、現状よりはベターでしょう。
よって、実臨床への応用が期待されます。
結論
P-tau217はまだリサーチベースだが、発展性が期待できそう。
ではまた。