もうちょう(虫垂炎)をどう治療するか。
「結局オペすることになるから、今やっちゃいましょう」というプラクティスが多い気がします。
それに釘を刺す(かもしれない)報告がJAMAに発表されました。
あなたが虫垂炎になったらどうされたいか。考えながら見ていきましょう。
Contents
虫垂炎:緊急オペ vs. 抗菌薬で散らす
緊急オペで最も多い病気。
それが虫垂炎(もうちょう)。
特に子供に多いですね。
純粋な(uncomplicated)虫垂炎をどう治療するか、2パターンあります。
1) 手術をやりましょう。
超急ぐ手術ではないですが、待っている必要もないので、準備でき次第やりましょう。夜に発症したら、翌日やりましょう。腹腔鏡という管を使って手術するので、お腹は開きません。
2) 抗菌薬で様子を見ましょう。
これくらいなら手術する必要は無いと思うので、点滴の抗菌薬で様子を見ます。1-2日みて大丈夫そうなら退院、内服の抗菌薬を継続とします。再発したり治らないリスクはゼロではないですが。
日本では、結局手術に踏み切る人がほとんどでしょう。
実は、今までの研究で2)のアプローチは悪くないことが示されてきました。
だいたい、その治療成功確率は65-75%と言われています。
今回紹介するのは、虫垂炎に対する手術 vs. 抗菌薬で、治療成功率、QOLや満足度などを多角的に比較した最新の試験です(JAMA 2020 10.1001/jama.2020.10888)。
方法は?
10のこども病院にて行われた、観察研究です。
*なぜランダム化試験でないかというと、患者やその家族が、手術か薬物治療かについて強いこだわりがあるケースが多く、彼らはランダム化試験に参加しないことが予想されたからでした
→つまり、敢えての観察研究。
・単純性虫垂炎と診断された7-17歳が対象です
→詳細には:何らかの画像診断された虫垂炎で、虫垂が1.1cm以下、膿瘍なし、糞塊なし、蜂窩織炎なし。腹痛が始まってから48時間以内。白血球5000-18000。
→慢性的な腹痛持ち、身体診察上の汎発性腹膜炎、妊娠反応陽性、コミュニケーションが難しい場合は除外されました
結構厳しいCriteriaですね
参加者には、手術か薬物治療の選択肢を提示し、
✔手術を選んだら、すぐに抗菌薬点滴開始され、12時間以内に内視鏡による虫垂切除が行われました。
✔薬物治療を選んだら、最低24時間点滴の抗菌薬投与され、その後内服へスイッチされました。抗菌薬治療は最低7日間行われました。
→以下の場合は手術に変更としました(治療失敗):
・24時間以内に症状や所見が改善しない場合
・状態が悪化した場合
・一度退院後、再度腹痛で来院した場合
✔主要アウトカムは2つあります:
・1年間のDisability days:もともと参加できるactivityに参加できなかった総日数
・(薬物療法の)1年間の治療成功率(1年間治療失敗しなかった例の確率)
結果
7946人がスクリーニングされ、ほとんどが除外、結局1068人が対象となりました。
370人が薬物治療、698人が手術を選択。
→薬物治療を選択した人は、白人が少なく(76% vs. 86%)、親が大卒な人が多く(80% vs. 75%)、CTを行った人が少なない(28% vs. 32%)傾向にありました。
これらの因子はIPWで調整されました。
*IPWに関してはこの記事参照
1年後のアウトカム評価について、lost follow-upは
・薬物治療群で20%程度
・手術群で10%程度
とかなり多めでした。
✔1年間のDisability daysは平均で:
薬物治療で6.5日、手術で10.9日(有意差あり)
でした
(IPWで調整してもしなくても同じような結果でした)
✔薬物療法の1年間の治療成功率は67%でした。
この他も色々解析しており、例えば:
・30日後のHealth care satisfaction scoresは有意差なし
・30日後/1年後のSatisfaction with decision scoresは薬物療法群で若干低い結果
・adjusted health-related QOL scoresは30日後は薬物療法群の方が若干高いが、1年後には有意差なし
解釈は?
薬物治療の治療成功率が67%というのは過去の研究通りの結果。
新しいのは、Disability daysが平均したら4日ほど薬物療法群で短かった、ということでしょう。
QOLや満足度はほとんど差はなかった。
ランダム化試験というデザインにしなかったのは面白いポイントです。
ほとんどの親は子供の治療に関してランダム化試験にenrollさせないという報告もあり、実際ランダム化試験を行ったとしてもかなりselection biasが強いと考えられます。
そして本研究の場合、それほど強力な交絡因子は無さそうで、実際IPWで調整しても結果にほとんど影響がなかった。
測定した交絡因子は、それほど強い交絡因子でなかった。
だから因果関係は言えているか??
ただやっぱり、
・薬物治療群の人数が手術群と比較してかなり少ない(ほぼ半分)こと
・薬物治療群のlost follow-upがかなり多い(手術群の2倍)こと
は、「通常のプラクティスが手術である」こと、「薬物治療を選ぶ人たちは特殊なこと」を意味していると考えられ、フェアな比較ではありません。
→フェアな比較と言えないと、因果関係とは言えません(こちら参照)
*スクリーニングされた患者から20%弱しか実際にenrollされなかったのは大きなselection biasと考えられますが、これは薬物療法の安全性を担保するために敢えて厳しく設定したようです。
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まあでも一定の因果関係を捉えていると考えます。
結局は、薬物治療の方が数日くらいdisability daysが少ないということをどう考えるかですね。
author達は、薬物治療を一つのオプションとしてより広く知らしめるために、このアウトカムを設定したと邪推します。
(つまり差が出そうなアウトカムとして設定した)
現実問題としては、そんな大した意味合いでない気もします。
それと治療成功率。
1年で67%を高いと見るか。
しかも1年後どうなるかはわかりません。
自分が担当医だったら手術をやっぱり勧めたくなっちゃいますが、そこは客観的なデータを提示して話し合うのが大事ですね。
結論
軽症の虫垂炎を薬物治療で様子をみたら、70%くらい治療成功(手術を回避でき)、disability daysが少なくなるかもしれない。
医療者は、客観的なデータを提示してdiscussionすることが大事。
ではまた。