心筋梗塞予防にはアスピリン。それが常識でした。
特に心筋梗塞の既往がある方に対しては、自動的にほぼアスピリンが処方されてきました。
しかし最近は色々な抗血小板薬が開発されてきており、アスピリンの必要性は少なくなってきています。
そして今週、「アスピリン vs 新しい抗血小板薬」という非常に重要なメタ解析が出版されました。これを解説します。
アスピリンの時代は終わったか
昔から、心筋梗塞予防にはアスピリンでした。
しかし、最近の研究では一次予防に関してアスピリンはあまり有効でないと結論されています(この記事参照)。
つまり予防の使いみちは、心血管病の既往のある方(二次予防ということです)。
二次予防に関しては、今もアスピリンは当然の如く処方されています。
しかし、抗血小板薬はアスピリンだけでありません。
最近ではP2Y12阻害薬(エフィエント、クロピドグレルなど)がよく使われています。
エフィエントはアスピリンより切れ味が良い印象。
この時代にアスピリンは必要あるんでしょうか?
*先にはっきりさせておくと、抗血小板薬2剤が必要な状況(PCI後など)はアスピリン+エフィエント(もしくはクロピドグレル)がスタンダードです。
抗血小板薬1剤のシチュエーションではどうなのか、これが問題です。
今週のLancetに、この問いに答えるメタ解析が発表されました(Lancet 2020; 395: 1487–95)。
これを解説します。
アスピリンはP2Y12阻害薬に負け
9つのランダム化試験のメタ解析です。約2万人ずつの比較となりました。
✔メインの結果です:
アスピリン群をreferenceとしたときに、P2Y12阻害薬群は
・心筋梗塞のOR 0.81(95%CI 0.66-0.99)
・脳梗塞のOR 0.93(95%CI 0.82-1.06)
・全死亡のOR 0.98(95%CI 0.89-1.08)
・大出血のOR 0.90(95%CI 0.74-1.10)
でした。
✔leave-one-out法という感度分析(1つずつ研究を除外して結果がどう変わるかみる)をした所、CAPRIE trialという研究を除外すると脳梗塞のOR 0.89 (95%CI 0.82-0.97)となり、P2Y12阻害薬が有意に良い結果となりました。
✔大出血は変わりませんでしたが、消化管出血はアスピリンのほうが頻度が多い結果となりました。これは薬剤の作用機序から当然ですね。
解釈は?
P2Y12阻害薬のほうがアスピリンより良さそうです。
心筋梗塞を少なくし、出血の副作用は同じくらい。
ただし、244人につき1人の心筋梗塞を予防する程度よい、くらいです。
アスピリンよりやや高価なので、どう患者選択をするかは議論の余地が出てくる所かもしれません。
日本人はプラビックスへの遺伝子耐性がある人がある程度の割合でいるので、エフィエントが良い選択肢ですね。
この論文に対するletterで、「それでもアスピリンが良い」と主張するものが発表されています(Lancet 2020; 395: 1462-63)。
確かにlimitationを言い出したらきりがないですが、このメタ解析は(individual dataを使ってないメタ解析としては)質が高いと思います。
議論が合っても良いですが、私はシンプルにアスピリン<エフィエントだと思います。
問題はコストのみ。
結論
1剤ならアスピリンよりエフィエントがよいと思う。
ではまた。