両側 vs. 片側内胸動脈グラフト:年齢によって効果変わるか【CABG】

冠動脈バイパスグラフト術で、内胸動脈をいくつ(両方 or 片方)使うか。

2016年に大きなRCTで「差がない」と結論されたのですが、その後も議論がある領域です。

若い人は両方使った方がよいんでないか。

今回紹介する報告は、これを検証したものです。

 

 

両側 vs. 片側内胸動脈グラフト:年齢によって効果変わるか

両側 vs. 片側内胸動脈グラフト:年齢によって効果変わるか

両側内胸動脈グラフト(BITA)か、片側内胸動脈グラフト(SITA)か。

LITA-LADは経験とエビデンスが豊富な方法ですが、両方の内胸動脈を使ったらどうか。

良さそうだけど、術後感染のリスクが高い。

大きなRCTは1つしかありません。2016年に結果が発表された、ART (Arterial Revascularisation Trial)です(N Engl J Med 2016; 375:2540-2549)。

これは、BITAの優位性が期待されたTrialだったのですが、蓋を開けてみれば、ほぼ全く同等の予後であった。。。

 

でもBITAが良いと信じている外科医はいます。

例えば、術後感染のリスクが低い患者なら。

そこで行われた解析が、「年齢」とのInteractionです。今月のJACCに発表されました(J Am Coll Cardiol, 77 (1) 18–26)。

年齢が低ければBITAの方がよいのか。

みていきましょう。

 

 

どういう研究?

ARTのサブ解析です。

ARTとは、multivessel diseaseの「CABGがurgentに必要だがAMIを起こしていない患者」を対象とした試験です。

*高感度トロポニンが導入される前の話なので、一昔前のUAPが主な対象だと思います。今ではNSTEMIと判断される症例がほとんどかと。ただ狭心症症状が無い例もあり、具体的な基準は不明確です。

 

適応となった患者を1500人ずつくらいBITAとSITAに割り振り、10年間の予後を調査しました。

*NEJMの報告は5年のフォローです。

 

ARTのポイントは、割り振られた通りの治療が行われなかった例が結構多かったことです。

・SITA群:1554名のうちSITAが行われたのは1494名

・BITA群:1548名のうちBITAが行われたのは1294名(215名がSITAとなった)

→これではBITAが本当は良かったとしても、「BITA群」としては良い効果が立証されない可能性が出てきてしまいます

→intention-to-treat解析とともに、per-protocol analysisを行われるべきです(IV analysisです

 

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今回の研究は、治療法(BITA or SITA)と年齢のinteractionを検討したものです。

具体的には、

アウトカム = 治療法 + 年齢 + 治療法*年齢

というCOX proportional hazard modelで、「治療法*年齢」というinteraction termの有意性を検討した、というもの。

 

*実際はmultivariable fractional polynominal (MFP)という方法を適応しています(J Epidemiol 1999;28:964-974.)。

これは、一番統計学的powerが高くなるように、「治療法*年齢」の「年齢」の部分を「年齢の○乗」に変える、というもの。

→○には-2, -1, -0.5, 0, 0.5, 1, 2, 3のいずれか、とします。

 

・本来は年齢+年齢*年齢+....とたくさんの項をモデルに入れたほうがfrexibleとなり良いのですが、そうすると治療法とのinteractionが複雑となってしまいます(治療*年齢、治療*年齢*年齢、、、というそれぞれにp値が出現します)

→こうなると、どれかのpが低くても、p-interactionは〇〇だ、とは言えません。

→でも治療*「年齢の○乗」にはp-interactionは一つしかないので、わかりやすいですね。これが理由だと思います。

→でもでも、それは論文の伝わりやすさを重視している方法に過ぎず、より厳密には上記の方法が正しいです。

 

 

結果は?

死亡がアウトカムの場合は、interactionなし(p=0.98)。

死亡+MI+脳卒中がアウトカム(MAE)の場合も、interactionない(p=0.18)が、若い人で予後が良い傾向あり。

胸骨創感染についてもinteractionなし(p=0.61)

*これはBITAとSITAが変わらなかった、という意味でないです。BITA vs SITAの効果が、年齢に応じて違う、ということはなかった、という意味です。

 

そして、

MAEに対し、50-70歳に絞った解析では、interactionあり(p=0.03)で、若い人が予後が良かった。

 

 

解釈は?

Authorが「若い人にはSITAよりBITAの方が有効であることが示唆されたが、これは仮説である」と言う通りだと思います。

 

50-70歳に絞った解析ではinteractionは有意だったことについて、これが真実を示す結果かどうか、以下の点を考えてみると良いです。

 

✔なぜ50-70歳か?

→これが一番BITA vs. SITAの違いが強調され、かつ多くのサンプルサイズを確保できる集団だからです。

→そのためp値が小さくなりました

→つまり「恣意的に」p値を小さくしています

*恣意的にp値を小さくすることは、観察研究をやったことがある人なら誰でもわかります。しかしそれでは、当然p値の額面通りの解釈はできませんね(p値の解釈についてはこちら)。恣意的に小さくされたp値にどれだけの意味があるか。

 

✔multiple testingが考慮されていない

・p<0.05という基準は、「1回のテスト」につき適応されます。

でも50-70歳に対するMAE、というのは何回目の解析でしょうか。

*もし20回テストされたら、ほぼ必ず1回はp値が0.05未満になります

→統計がわかると、p値が0.01-0.05の時、それが示すのは「差がある」事象より「差がない事象」である可能性が高い、ということを知ります(詳細はこちら

 

✔COX proportional hazardが内包する問題があります

→proportional hazardというassumptionが、ほぼ必ず満たされることがない、という問題でした。

→特にこれは10年のフォローアップが行われており、その問題が顕著となり得ます

 

✔そうは言っても「若ければBITAが良い」傾向にあったのでは?

以上のように、p-interaction=0.03というのは、frequentistのアプローチを取る限り、有意であることを意味しません

=エビデンスとしては「差がない」ことを支持します。

→これは「その一つのRCT」というランダムの要素を加味した結果です。

・じゃあ「傾向」はどのように解釈すべきか?

これはエビデンスではないので、expert opinionと同レベルです。

→科学のスタンスを取る限り、科学に基づいた結果=エビデンスなわけです。

 

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ということなのですが、一つ根源的な問題として「interactionでpowerを保つには非常に多くのサンプルサイズが必要」という大前提があります。

片方1500程度では十分なpowerは得られません

これに加えて、割り振られた治療に対するアドヒアランスも悪かったことが、power低下に寄与しています

pが大きくても「差がない」と結論することはできません。

→そして、authorが言う「十分なpowerのある新しいRCTを組む」というのは現実的な話ではありません。

 

ではどうすればよいか?

一つの方法は、「今までの(経験的)知見」から「BITAがSITAと比較してより有効そうな集団」を、色々な因子で定義して(例えば若年・DMなし・EF保たれている、など)、それとのinteractionを検定すればよいと思います。

もしARTでその解析を行うなら、その集団を定義するのはARTのデータを見てはいけません。あくまで事前に心臓外科医のコンセンサスとして定義した集団において、検証を行う必要があります。

これが、限られたリソースを最大限使用する方法かと思います。

 

 

結論

年齢によりBITAとSITAの効果が変わるとは言えない。

ではまた。

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