冠動脈バイパス手術の時に左心耳閉鎖しないほうがよいかも!?

心房細動+狭心症の患者に冠動脈バイパス手術が行われるとき、ルーチンで左心耳閉鎖されることが多いのではないでしょうか。

左心耳に脳卒中の原因となる血栓ができるので、合理的かと思われてきました。

一方、左心耳は心臓の収縮に大事な役割を果たしていることも分かってきております。

本当に、冠動脈バイパス手術に左心耳閉鎖を追加した方が良いのか。最新のエビデンスを紹介します。

 

冠動脈バイパス手術の時に左心耳閉鎖しないほうがよいかも!?

冠動脈バイパス手術の時に左心耳閉鎖しないほうがよいかも

左心耳とは、左房にくっついてるポケットみたいな部分です。

これは心房細動の時に血栓ができる心臓の部分として知られています。

よって、心房細動の方では左心耳を閉じてしまうというのが治療(脳梗塞予防)のオプションになっています。

 

冠動脈バイパス手術は狭心症や心筋梗塞に対し行われる心臓手術です。

その患者さんが心房細動も合併している時、手術時に「どうせ心臓を出すのだから左心耳も閉じてしまおう」というのはよく行われてきました。

これはガイドラインでも「reasonableだ」と書かれています。

確かにreasonableなのですが、、

最近、左心耳が心臓の血液ポンプの役割に重要なことも分かってきました。

 

実は、本当に左心耳を閉じたほうが良いのか、予後の観点で検討した研究はあまりありませんでした。

ということで、これを検討した研究が発表されました(Circulation. 2020;142:20–28)。

 

 

どういう研究?

後ろ向きコホート研究です。

 

アメリカのNational Readmission Databaseというものを使って、

・2010年〜2014年の間に冠動脈バイパス手術を行われた

・心房細動を合併している

患者を対象としました。

*弁手術を行った方、入院中に死亡した方は除外されています

 

primary outcomeは30日以内の再入院です。

観察研究なので交絡因子で調整されました。

*交絡因子は以下の通りです:年齢、性別、糖尿病、肥満、心不全、腎臓病、収入、待機手術か緊急か、ST上昇型MIか、AFのsurgical ablationを行ったか

 

 

結果は・・・

22万6千人が対象となり、そのうち2万2千人(10.6%)が30日以内に再入院しました。

(多くない??)

 

(調整なしの)単純な相関をみると、左心耳閉鎖は

・術後呼吸不全リスクと急性腎不全リスクの上昇と関連し、

・輸血や心タンポナーデ、院内死亡とは関連しませんでした。

・30日以内の再入院リスクの上昇とも関連しました(16% vs. 9.6%)

 

交絡因子で調整すると、

左心耳閉鎖は高い再入院リスクと関連しました:OR 1.64 [95%CI 1.60, 1.68]

 

 

解釈は?

冠動脈バイパス手術時に施行する左心耳閉鎖は30日以内の再入院リスク上昇に関わるかも、という話です。

 

なぜ左心耳閉鎖を追加することで入院リスクが上がるかについては、例えば

・手術時間が長くなって心臓に負荷をかける

・心臓の収縮効率が悪くなる

・左心耳閉鎖から出るANPはvolume負荷に応じた利尿作用があり、その効果が弱くなる

といったことで説明されています。

 

今までのプラクティスに疑問を投げかける結論ですが、少なくともまだ「左心耳閉鎖しないほうが良い」とは言えません

いくつか注意すべき点があります。

 

✔30日以内の再入院リスクというのは適切なアウトカムか?

・左心耳閉鎖は脳梗塞予防のために行います。

・一方左心耳閉鎖することで、上述の機序で心不全リスクが上がるのは自然かもしれません

→つまり脳梗塞予防効果と心不全リスクのトレードオフと考えられます

→「30日以内の再入院」は、心不全リスクにだいぶweightを置いたアウトカムです(手術に関連したものを除けば、脳梗塞は1ヶ月で起きません)

→言い換えると、脳梗塞予防効果についてはっきりとエビデンスを出しておらず、それ抜きに左心耳閉鎖は語れないと思われます。

*一方、心不全リスクが高くなる可能性がある、ということを周知する意味はあるかもしれません

→でもそういう目的だったら、心不全による再入院をアウトカムにすべきだったんじゃ??

 

✔交絡因子の調整が十分でなさそう

national registryのデータを使っている時点で、十分に調整できるということはありえないのですが。

ここでの交絡因子とは、「30日以内の死亡率の原因」となり、かつ「左心耳閉鎖するかという意思決定の原因」である因子を言います。

→具体的には、今回の調整では以下の問題がありそうです:

・ST上昇型心筋梗塞:なぜSTEMI vs. STEMI以外という調整なのか?心筋梗塞は再入院リスクが高く左心耳閉鎖をやることが少ないので、狭心症 vs 心筋梗塞 という調整が合理的。

・AFのsurgical ablation:これは左心耳閉鎖をするという意思決定の原因になっているか?ちょっとわからない。

・「左心耳閉鎖するか」という意思決定でいちばん重要な要因はなにか?おそらく心房細動のタイプと持続期間だと思う。慢性心房細動だったり持続期間が長ければ、心房細動のリズムコントロールをするのは難しいから、左心耳閉鎖をするのが良いオプションとなる。これを調整しない限りunder adjustmentである。

「術者の嗜好」というのは、また別の重要な交絡因子。術者が誰かというデータはないから、少なくとも施設毎に解析して、それをメタ解析する、というアプローチが必要。

 

✔どのくらいmissing dataがあったか?

おそらくnational databaseでは相当のmissing dataがある。これをどう扱ったか不明。

 

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かなり単純な観察研究で感度分析もなく、はっきり言ってなぜCirculationに採択されたかは不明です。同じデータベースを使ったもっと他の分析が必要だと思います。抜け落ちていた重要なエビデンスを補完するテーマだったからでしょうか。

 

この研究は「左心耳閉鎖はよくない面があるかも」というメッセージで、あまり具体的なimplicationはなさそうです。

RCTにつなげるんだと思います。

 

 

結論

冠動脈バイパス手術時に左心耳閉鎖は高い再入院リスクと関連する可能性があるが、因果関係は言えない。

RCTに期待。

ではまた。

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