冠動脈バイパス手術で撓骨動脈と大伏在静脈のどちらが良いのか。
経験上撓骨動脈の方が良い気がする人がほとんどと思いますが、はっきりしたエビデンスはありませんでした。
そもそもgraft failureとなるのは数年以上かかるので、かなり長期間フォローする必要があります。
RCTはいくつかありますが、それらのフォローを継続して、ようやくメタ解析が発表されました。
これを解説します。
冠動脈バイパス手術:撓骨動脈 vs. 大伏在静脈【最新メタ解析】
どっちがいいと思いますか?
循環器内科に聞けば、ほとんどが橈骨動脈と答えると思います。
開存率という意味では。
*橈骨動脈からのカテができなくなるというデメリットはありますが。
でもグラフトの開存率を比較するRCTは超大変です。
2-3年じゃつまらないので、10年くらいのフォローが必要。
どういう研究?
撓骨動脈 vs. 大伏在静脈 を比較した5つのランダム化試験が対象です。
それぞれのランダム化試験責任者と連絡し、一番updateされた予後情報を収集しました。
そしてそれぞれの患者情報を共有してもらい、individual dataを使って解析しました。
アウトカムはMajor adverse cardiac event [MACE]、死亡+心筋梗塞+再度の血行再建です。
結果・・・撓骨動脈の勝ち!
534人が撓骨動脈群、502人が大伏在静脈群となりました。
中央値10年のフォローアップ、90%以上が10年以上フォローされました。
すごい
MACEは
・撓骨動脈群で220/534人
・大伏在静脈群で237/502人
ハザード比は0.73 [95%CI: 0.61, 0.88]で撓骨動脈の勝ち。
死亡単独のアウトカムをみても、ハザード比0.73 [95%CI: 0.57. 0.93]で撓骨動脈の方が有意に良い結果となりました。
Kaplan-Meier曲線をみると、最初の半年くらいは両群に差がありませんでしたが、それ以降は差が開いていました。
→5年までと5年以降でそれぞれのハザード比を求めて、ほぼ同じくらいでした(0.71と0.75)
→完全にproportional hazardとは言えませんが、まあまあOKそうでした。
*proportional hazardについてはこちら
解釈は?
CABGやるなら大伏在静脈より撓骨動脈の方がよい、ということでした。
質の高いエビデンスです。
実臨床の感覚とも一致しています。
ただ、いくつか留意するポイントがあります。
✔対象患者が明確でない
狭心症なのか心筋梗塞なのか。両方含まれているが、“elective admission”が90%であることを考えると、ほとんどが狭心症。
→狭心症に対する血行再建(主にPCI)は、その効果が疑問視されている
→「CABG vs. 薬物治療」というエビデンスはほとんどない
→よって、そもそもCABGした方がよいかどうかははっきりしていない。
✔10年のフォローをしているということは、10年前の手技を比較しているということ
→今やったら・・・わかりません(あまり変わらないかもしれません)
✔内胸動脈は?
わかりません。
このメタ解析の対象も平均で3本バイパスされており、RCTは「LITA+radial」vs「LITA+SVG」の比較が多いです。よって、内胸動脈の立ち位置(片側 vs 両側)は不明です。
*The Arterial Revascularization Trialというランダム化試験では、片側 vs 両側の内胸動脈バイパスは予後に有意差なし、とされています。
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ランダム化試験をやるのは金も労力も半端なくかかります。
こういうindividual patient dataのメタ解析は質の高いエビデンスを出すので良いですね。
一方、「どういう風に治療するのが良いのか」については日々わかってきているので、やはり「どういう人に治療するべきか」をもっと突き詰めたい所。難しいんだけど。
*疫学的には「Effect modifierを探す」ということなんですが(Effect modificationについてはこちら参照)、これは構造的に非常に難しいんです。
→なぜなら、その研究で有意なEffect modifierが見つかったとしても、generalizabilityはない=その研究の集団でしか当てはまらないから。
=結局hypothesis-generatingでしかないのです。
→最終的に、集団を限定したRCTを行う必要が出てくる。
いくつRCTが必要なんだ・・・・?ということです
結論
CABGに使うならRadial A > Saphenous V。
ではまた。