心肺停止となって一番重要なのはなんだか知っていますか?
病院につく前の、一般市民による胸骨圧迫と除細動です。
これが意外にやられない。
スマホのアプリを使ってこの現状を変えられないか?
デンマークの面白い取り組みです。
心肺蘇生にスマホが使えるか!?
実は病院外での心停止、2-9%しかbystander CRP(胸骨圧迫)が行われないというデータがあります。
胸骨圧迫とAEDでの除細動こそ、救命率を上げる最も重要なファクターなのです。
病院内での治療よりずっと大事。
これを改善させるには、心停止した人に周りが気づかなくてはいけない。
そしていち早く蘇生を開始すること。
デンマークでは ”citizen responder system” というアプリで、周りに心停止患者が出現したらアラートが通知されるシステムがあります。
このシステムの有効性を間接的に調べた論文が発表されました(J Am Coll Cardiol 2020;76:43–53)。
どういう研究?
このアプリが始まった2017/9/1から2018/8/31の、デンマーク首都で起こった院外心停止が対象です。
citizen responderとは、このアプリに自主的に登録した人で、テレビやSNSなどでかなり宣伝されたようです。研究開始時には1030人、経過で22087人がさらに登録しました。
*こんなシステムです:
院外心停止が起こったかも(emergency dispatch centerが確認)
*外傷や自殺、老人施設における心停止などは除外
→患者から半径1.8km以内の、最大20人のcitizen responderに通知
→通知から90分後にアンケートが送られる
…救急車より早く来たか、CPRしたか、AEDしたか、ショックになったかなど
何を比較したかというと:
・アラートが発動した院外心停止で
・救急車より先にcitizenが着いたケース vs 救急車が先に着いたケース で
・bystander CPRや除細動がどれくらい行われたか
*bystander CPRとは市民による胸骨圧迫なので、救急車より先にcitizen responder(=市民)が着けば、その割合は当然増えることが予想されます。
結果は予想通り
819回の心停止疑いのアラートがあり、対象となったのは438例でした。
…297件心停止でなかったり、明らかに死んでいる・外傷・DNRあるなど色々exclusionされています。
→そのうち市民が救急車より先にきたのは42%でした。
<主要なアウトカム>
(市民first vs 救急車first)
・bystander CPR:85.3% vs. 76.8%(p=0.027)
・bystander defibrillation:21.2% vs. 6.7%(p<0.001)
と、市民が先に来たほうが割合が高かった。
*一応30-day survivalのデータもあり、16.1% vs. 13.1%でした(p=0.38)
サブ解析は「救急車がくるまでの時間」で層別化して行われました。
(当然)時間が長いほど、市民first vs. 救急車firstで、市民firstのbenefitが大きい傾向にありました(bystander CPR, bystander defibrillation, 30-day survival)。
解釈は?
院外心停止、救急車より先に市民が来たほうがよい。
という報告でした。
そりゃそうだろ!
と思われると思いますが、このレポートの意義は「科学への貢献」にあるわけではありません。
”citizen responder system”の宣伝のため、そして同様のシステムを広めたいという思いが背後にあります。
疫学的にみると、この研究は何がしたいのか謎です。
✔そもそもknowledge gapが何なのか不明です。
✔まず、最初に市民が来た場合と救急車で来た場合、明らかに様々な交絡因子があるのに、全く調整されていません。
✔bystander CPRは(救急車が来る前に)市民がやるCPRなんだから、市民が先に来たらそれが増えることは何も考えなくてもわかります。
✔p<0.05を絶対的な「差があるないの基準」にしています。
✔救急車が来るまでの時間での層別化の検討、interactionが統計的にみられていません。
でもこんなこと些細なことです。
だって、絶対あった方が良いシステムを国主導で導入してるんだから、すごいんです。
この宣伝に論文という媒体を使うことはとても強力です。
私はこういうレポートがあっても良いと思う派です。
結論
デンマークのcitizen responder systemは画期的。
効果の検証を科学的にすることは難しいが、絶対あった方がよいシステム。
ではまた。