何人かのフォロワー様から、私の研究内容を教えて欲しい!とTwitterで連絡頂きました。
有難うございます!!
情熱をもって研究に取り組んでいるので、とても嬉しいです。
そこで、これから自分の論文が発表されたら、それをブログで解説することに決めました。
最近一つ、「AIで冠動脈病変を分類してみた」という研究が発表されたので、これを解説してみます。
【自分の論文紹介】AIで冠動脈病変を分類してみた
このブログにて、自分の論文を日本語で解説してみることにしました。
なぜなら、、、自分の研究トピックこそ世界一面白いと思っているからです。
(ほんとです)
もともとは循環器内科の臨床研究、特に冠動脈の血流循環に関するものをメインにやっていました。
今はアメリカで心臓病の予防医学や因果推論をメインに取り組んでいますが、元の臨床研究にも引き続き参加しています。
今回は臨床研究、「AIで冠動脈病変を血流情報を基に分類してみた」という論文です(Heart Vessels. 2020;10.1007/s00380-020-01640-x.)。
なんでそんなことしてみたの?
もともとCoronary flow reserve (CFR)という指標が好きで、よく研究していました。
CFRは「負荷時の冠動脈血流÷安静時の冠動脈血流」で計算されるもので、要は「心臓にどれだけ余力があるか」を表します。
運動したときに十分血流を増やすことができないと、心臓に酸素が行かなくなって狭心症の症状が出てしまうような、「虚血(血が足りない)」という状態になります。
CFRが低いと良くない。
*実は血流には「心臓全体の血流」と「冠動脈1本の血流」の2種類の分け方があるので、、
→「心臓全体のCFR」と「冠動脈1本のCFR」という2種類のCFRがあります。
→ここでは冠動脈1本のCFRを扱っています。
でもCFRって聞いたことなくないですか?
実際臨床現場ではほとんど使われていません。
なぜなのか?
✔「CFRが低い状態」は確かに予後が悪いけど、治療方針には影響を与えないからでしょう。
同じような血流の指標にFractional flow reserve (FFR)というものがあります(CFRと同じワイヤーで測定できます)
→これは冠動脈の狭窄がどれくらい悪いか(虚血と関連するか)を表します。
→FFRが低いと、当然予後は悪いです
→それだけでなく、FFRが低い病変はPCI(カテーテル治療)で直したほうが良いかも、ということが言われています
→つまりFFRは治療方針に影響を与えています
→よって、よく使われています
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CFR好きな私は、
「CFRを臨床現場で使うようになるにはどうしたらよいか」
ということを考えるようになりました。
このままでは難しい。
そうか、CFRは色んな状態がごちゃまぜ(heterogeneous)なのが良くないのか
...例えば、CFRの分子の「負荷時の冠動脈血流」が小さいからCFRが低い人もいれば、分母の「安静時の冠動脈血流」が大きいからCFRが低い人もいる。
→「CFRが低い状態」を更に詳細に分けたら良いかも
という観点で、私は色々研究をしてきたのでした。
(CFRについての詳細はこちらも御覧ください)
今回のアプローチは、「CFRが低い状態」をAI(Clustering)で分けたらどうなるのか、という試みでした。
*Clusteringとは「強化なし学習」の一つです。データをインプットして、似た者同士を自動的に分ける(サブグループを作る)解析方法です。
方法は?
幸運にも(ボスのおかげで)1000例以上の冠動脈血流に関するデータベースにアクセスできているので、それを用いました。
これらはFFRやCFR、負荷時と安静時の血流が測定され、FFRが低い場合はPCIが施行された集団です。
*このあたりから、ちょっと難しいと思われる方が出てくるかもしれません。
が、事は単純です。
現状FFRが低い→PCI(カテーテル治療)が行われている1000人以上患者さんのデータがあります。
彼らはCFRや血流量という別の指標も測られています。
これらのデータを解析してみた、ということです。
CFRが低い集団を、臨床情報と冠動脈血流の情報を基にClusteringにかける(自動的にサブグループに分ける)のですが、ここで大きな問題があります。
何だと思いますか?
(わかった方はすごい)
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答えは、FFRをベースとした情報でClusterに分かれてしまうということでした!!
FFRは臨床判断に影響を及ぼすほど強い指標なので、例えば0.8以下と以上ではきれいに性質が異なります。
よってせっかくCFRの中身を見たくてClusteringしても、FFRの情報で分かれておしまいな訳です。
意味ない。
なので、「CFRが低くてFFRも低い」集団を抽出し、clusteringしたのでした。
*実際は、CFRが中央値(2.65)未満かつFFRが0.8以下、という集団を用いました。
これには議論の余地がありますが、細かいことなので省略。
Clusteringの結果は?
仮説として、CFRの低い集団は、少なくとも以下の2つのようなclusterがあると思っていました。
・負荷時の血流が少ない(せいでCFRが低い)集団
・安静時の血流が多い(せいでCFRが低い)集団
加えて、
・検査した冠動脈がLAD
・検査した冠動脈がそれ以外(RCAかLCx)
という情報は血流量についてかなり重要な因子なので、その要素もcluster化されるだろうと。
メインの解析では3つのclusterに分けた結果、このような感じになりました:
Cluster 1: 安静時の血流が多い、主にLAD
Cluster 2: 負荷時の血流が少ない、主にLAD
Cluster 3: 安静時の血流が多い、主にLAD以外
ほぼ予想どおりでした。
*Clusterを4つにすると、Cluster 3が主にRCAかLCxかによって2つに分かれました。
だから何?
これだけだと「ふーん」で終わるので、予後も評価しました。
✔予後が悪いのはCluster 3でした。
✔予後のモデルでPCI治療の有無とcluster 1 vs. cluster 2の間にinteractionがありました!!
→PCIはcluster 1には意味無しだったが、cluster 2の予後は良くするかも、という結果でした。
結局これ(interaction)が大事だと思ってるんです。
負荷時の血流が少ないことを原因とした「CFRが低い状態」こそ、PCIの意味があると。PCIは血流量を増やしますからね。
一方、安静時の血流が多いことを原因とした「CFRが高い状態」はPCIに意味ないと。
これはPCIの適応に関わる=治療方針に関わる、大事なことです。
*ちなみに、Hierarchical clusteringという手法をメインに用いましたが、Internal validationとしてk-means clusteringも行い、かなり似た結果が得られています。
これ結構すごいことなんですが(結果の信頼性が高いという意味で)、あまりreviewerには伝わっていない印象でした。
解釈は?
CFRが低い(+FFRも低い)病変にも色々ある。
その中で際立って予後が悪いものだったり、PCIが意味あるものも意味ないものもありそう。
こういうメッセージです。
ちなみにこれは、Coronary flow capacity (CFC)という、私が専門としている(ちょっとマイナーな)指標に関わります。
要は負荷時の血流量が低いことによる「CFRが低い状態」こそ、CFCが低い状態なのです。
そして、CFCが低い状態にはPCIが有効だと思っているのです。
研究のlimitationはかなり多く、面倒くさいのでここには書きません(よかったら論文御覧ください)。
結論
「CFRが低い状態」にも色々あって、機械学習で分類したら、それぞれ特徴があった。
ではまた。