人間ドックでよくある、首のエコーの検査です。
「プラークがある」って言われる人多いと思いますが、それが具体的にどういう意味を持つのかご存知でしょうか。
具体的な意味とは、「そのプラークを退縮させたら、どれくらい心血管疾患のリスクが減ったと言えるか」
今まで行われた119のランダム化試験をまとめた結果が発表されたので、これを解説します。
頸動脈のプラークが増えるとどれくらい悪いか

動脈の切片に似ている。動脈硬化みたいだ。
頸動脈のプラーク、人間ドックや健康診断でよく検査されます。
頸動脈エコーですね。
でも、よっぽど狭い場合を除いて、それが治療に結ぶことはなかなかありません。
*よっぽど狭い場合は、頸動脈自体が治療対象となり得ます
なぜ頸動脈のプラークをみるかというと、それが全身の動脈硬化を表すと考えられているからです。
でも何となく「動脈硬化が進んでるね」ってわかっても、「あっそう」で終わりますよね。
実際に「頸動脈プラークを減らすことでどれくらい血管疾患が減るか」という事がわからないと、計測する意味が(あまり)ないんです。
色々な介入により、頸動脈の動脈硬化の具合(cIMT)が如何に退縮するか、という趣旨で今までたくさんのランダム化試験が行われてきました。
そして今週、今までのエビデンスのまとめとして、119のランダム化試験のメタ解析が発表されました(Circulation 2020 10.1161/CIRCULATIONAHA.120.046361)。
頸動脈プラークを減らすとどれくらい良いのか?
実際の数値をしりましょう。
どういうメタ解析?
以下のようなランダム化試験が対象となりました:
・なんらかの介入でランダム化されている
・ベースラインの頸動脈の動脈硬化の具合(cIMT)が計測されている
…cIMTとは、もとの血管から内側にせり出して膨らんでいる箇所の大きさ(µm)です
・心血管疾患のアウトカムが計測されている
*介入の方法は気にしてないというのが面白いポイントです。
でもそれからどうやって、「頸動脈プラークを減らすとどれくらい心血管疾患リスクが少なくなるか」を計算するのか??
これがこのメタ解析の面白いポイントです。
知りたい方へ、具体的にはこんな感じです
↓
A) まず「介入により、1年にどれくらいcIMTが減るか」をそれぞれのRCTから計算しました
…cIMTを繰り返し計測しているRCTから計算できますね
B) 次に、「介入により、心血管疾患イベントがどれくらい減るか」をそれぞれのRCTから計算しました
→ハザード比またはリスク比を計算し、Relative riskとして両者をまとめました
*これポイントですね。この論文でRRはRisk ratioでなくRelative riskです。
C) 最後にBayesian meta-regressionを用いて「心血管疾患イベントのリスク低下がどの程度cIMT低下によるか」を計算しました。
→詳細略。気になる方は論文読んでください。
結果
全部合わせて119 trial、頑張りました。
平均して3.7年のフォローアップ期間です。
A) cIMTは平均して、1年にこれだけ増えました。
・コントロール群で9.1µm
・治療群で1µm
B) 介入により心血管イベントは抑制されました。
→そのRRは0.88 (95%CI: 0.83-0.92)
C) 介入によりcIMTが10µm/year退縮したら、心血管イベントのRRは91 (95%CI: 0.87-0.94)となる、という結果となりました。
解釈は?
cIMTが減ると心血管イベントは減る。
だから心血管イベントの代わりにcIMTをアウトカムとして用いてもよいだろう。
というのが解釈でしょう。
解析に関してはかなりcomprehensiveで質の高い論文ですが、結果のimplicationが弱い(研究者向けのメッセージ)なので、NEJMやLancetでなくCirculationなのではないかと推測しています。
✔なぜ実践的なメッセージでないかと言うと、何の介入をしたらcIMTが10µm/yearも退縮するのか、という答えでないからです。
介入群の平均が「1µm/year増える」ということから考えても、「10µm/year退縮する」というのがどれだけ強力な治療か、想像できると思います。
✔しかも頸動脈エコーで10µm=0.01mmを区別できるかという問題があります。
計測誤差の範疇な気が。
「集団を平均すると、ちょっとでもプラークが退縮していれば心血管イベントが少なることを意味する」という意味なんですが、そのちょっとの退縮をどれだけ正確にdetectできるか。
難しいでしょう。
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プラークが退縮するという現象は、頸動脈以外でも観測されているもので、それが良いこと(=心血管イベントリスク低下)を意味するのは間違い有りません。
しかし、強力な治療をしてもなかなか退縮しないのが常識です。
あと測定誤差も大きい。
ここらへんが、cIMTをメインに使っていくlimitationと言えそうです。
では冒頭の質問、頸動脈プラークが具体的にどれほどの意味を持つのか。測定する意味はあるのか。
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わかりません。そんなに無いかもしれません。
結論
cIMTがちょっとでも減ったら、心血管イベントのリスクは低下する。
でもそんな治療はなかなかなく、しかもcIMTの微妙な変化は計測が難しい。
ではまた。