国ごとの感染者数はPCR検査数に依存します。
では死亡率は?これはPCR検査の閾値(誰に検査をするか)に依存しますね。
なので単純に国ごとに比較できません。
どうやって正しく「国ごとの死亡率を比較」できるか、新しい論文が出たのでこれを解説します。
国ごとの新型コロナの死亡率:正しい解釈は?
日本は死亡率が低いからいい。欧米は死亡率が高いから危ない。
特にイタリアはヤバい。
こういう話、聞いたことがあると思います。
でもそれ本当でしょうか。
死亡率は、
「コロナと診断され亡くなった方の数 ÷ コロナと診断された方の数」
で決まります。
つまり、どんな方がコロナと診断されるかがめちゃくちゃ重要なのです。
一番簡単に考えると、若い方だけが診断されていたら死亡率は当然低くなるし、高齢者ばかりだったら高くなる。
低〜中所得の国の死亡率が低いという結果が出てきていますが、これは若い人ばかり診断されているからかもしれません。
じゃあ、年齢で調整すればよいのでは?
でも、どうやって調整する?
これを検討した研究を紹介します(Ann Int Med 2020 10.7326/M20-2973)。
方法は?
年齢別データ(10歳ごと)を抽出できた以下の国が対象です:
→中国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、韓国、スペイン、スイス、アメリカ
具体的にどうやったか?
ちょっとだけ算数してみましょう。
✔まず死亡率(case-fatality rate: CFR)
=「コロナと診断され亡くなった方の数 ÷ コロナと診断された方の数」
✔年齢調整済み死亡率(overall CFR)
それぞれの国において、
「10歳未満の死亡率 × 10歳未満の診断数/全体の診断数」
+「10〜20歳の死亡率 × 10〜20歳の診断数/全体の診断数」
+・・・・・
*こうすることで、その国の「診断された人の年齢の偏り」をなくすことができます。
✔予想される年齢調整済み死亡率(age-expected CFR)
上の式の「10歳未満の診断数/全体の診断数」を、その国のデータでなく、世界全体のデータを用いて計算したやつとします。
つまり、
「10歳未満の死亡率 × 世界の10歳未満の診断数/世界全体の診断数」
+「10〜20歳の死亡率 × 世界の10〜20歳の診断数/世界全体の診断数」
+・・・・・
*これは、「真実の年齢別診断数の分布」は、その国のデータより世界で平均したデータがより信頼性が高いだろう、という仮定に基づいたものです
→「その国ではある年齢層がPCRを受ける確率が多い」というバイアスを調整したものです
✔年齢で標準化した死亡率(age-standardized CFR)
「10歳未満の診断数/全体の診断数」を、世界のデータを用いて年齢で標準化したやつとします。よくみられる年齢別診断数の分布として考える、というニュアンスです。
つまり、
「10歳未満の死亡率 × 標準化した10歳未満の診断数/全体の診断数」
+「10〜20歳の死亡率 × 標準化した10〜20歳の診断数/全体の診断数」
+・・・・・
*標準化というのはバイアスを除去する手法の一つです
→国同士でこの指標を比較した場合、その違いは「年齢層別の死亡率」のみに依存する(年齢別診断数の分布には依存しない)ということです。
結果
国ごとに比較した結果がこちら:
国ごとの年齢調整済死亡率(observed)はかなり開きがありますが、AGe-expected, Age-standardizedでは差はかなりなくなっています。
それでもイタリアやオランダ、スペインは高いです。
フランスはoverall CFRは高いですが、age-standardized CFRはかなり低くなっています。
これが実際の比較に近いのでしょう。
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・この計算に用いた9国の年齢別死亡率を平均化し、
・他の95の国の年齢分布を使って、
・その95の国でage-standardized CFRを計算して、
・報告されているoverall CFRと比較したのが
次の図です
*この90国では年齢別死亡率が分からなかったので、こういう計算をしています
Overall CFRは5%を超えるものがざらにあり、最大スーダンの28.6%。
一方小さすぎるのもあり、例えばカンボジアの0.0%。
→計算したage-standardized CFRでは、最大がマルタの2.1%、最小がウガンダの0.24%と、かなり小さな幅に収まりました。
解釈は?
コロナの死亡率がめちゃ高い、低い、というのは、診断されている人の年齢に大きく依存する、ということです。
国によって「どの人を検査するのか」バラバラなんだから、当たり前の話ですね。
これを調整したら、大体1-2%、医療崩壊の起きた箇所では倍くらいの死亡率となりました。
おそらく、ただの年齢調整済み死亡率より、真実を捉えているでしょう。
☆大事な注意点:
✔95カ国の分析は、それぞれの年齢別死亡率がわかっていないので、おそらく全然参考にならないだろうこと
→最初に解析した9国の死亡率を平均したものを使えば、そりゃあage-standardized CFRは低くなります
→つまり、2つ目のグラフから得られる情報は殆ど無いということです
✔モデルの仮定があること
・Age-expected CFR:「国民全員コロナにかかる確率が等しい」という仮定
・Age-expected CFRとAge-standardized CFR:「COVID-19と診断された人も、診断されていないが感染している人も、死亡率は等しい」という仮定
→この仮定は成り立たないんですが、そうしないと計算できないのでしょうがない。
✔年齢以外にも、国ごとで分布の異なる大事な要因がある
→例えば無症候で検査している人の割合、なんかは大事そうです
→でもそれを言い出したらきりがないし、そんなデータはありません
*つまり、本当にフェアな国ごとの比較はできない、ということです
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ということで、今回のはラフな解析ですが、それでもある程度真実を示していると思われます。
巷に言われているほど国ごとの死亡率に差はない。が、少しはある。
こういうことでしょう。
結論
国ごとの報告されている死亡率にかなり開きがあるが、年齢で標準化すると、その差はかなり小さくなる。
だいたい死亡率1-2%、高い所だとその倍くらい。
ではまた。