ちょっと世間で話題になっている報告です。
O型はコロナ重症化しにくくて、A型は重症化しやすいかも!?
もし本当だったら、どれくらい違うの?
この研究が正式に論文発表されましたので解説します。
O型だとコロナが重症化しにくい!?
ほんと?
なんで!?
と、大抵の方は思うと思います。
発表された論文は、
「Genome wide association study (GWAS) により、重症COVID-19に関連する遺伝子を検索した」
という趣旨のものです(NEJM 2020 10.1056/NEJMoa2020283)
*GWASの原理はいつか説明しようと想いますが、簡単にはこういう流れです:
・遺伝子検査のクオリティが低い検体を除外
・検査で調べている遺伝子は限定的なので、imputationで塩基配列を予測、たくさんの遺伝子変異を調べる
・たくさんある遺伝子と疾患(アウトカム)の関連性(相関)を一気に調べる
・multiple testingという問題が生じるので、p<0.05をカットオフにできない
・multiple testingを考慮した、すごく低いp値の遺伝子変異をピック・アップする
解釈に重要な2つのポイントは、
・どういう母集団なのか
・アウトカムを厳密にどう定義しているか
これに注目して内容をみていきましょう。
どういう研究?
イタリアとスペインの7病院にて、1980名の重症COVID-19患者(酸素投与が必要で入院となった方)が対象です。
コントロールは同国から2381人:献血ドナーがメインで、消化器内科外来の患者なども含まれています。
*コントロール群のコロナに関するstatusは不明です。
詳細には、
GWASにてコロナ群vsコントロール群の遺伝子の違いを同定
...スペインとイタリアのデータ解析結果はメタ解析しました(fixed effect model; この記事参照)
→血液型が関連ありそうだったので、年齢と性別(という交絡因子)を層別化することで調整した解析
という流れです。
結果は?
GWASでは、2箇所の遺伝子座における変異が、2群間で差がありました(カットオフ:p<5*10-8)。
・3p21.31
→ここで関連がありそうな遺伝子は6つありました
→SLC6A20:SIT1というトランスポーターをencodeしている。SIT1はACE2と関連性あり
(ACE2とコロナについてはこちら参照)
CCR9:ケモカイン受容体
CXCR6:ケモカイン受容体、肺のT細胞を調整している
XCR1, LZTFL1, FYCO1:機序は論文中では触れられておらず
・9q34.2
→ここで関連がありそうな遺伝子はABO式血液型のものでした
次に、
血液型を暴露因子として調べてみると、コロナ群とコントロール群で血液型の分布に違いがありました!
A型vs他の血液型:オッズ比1.45
O型vs他の血液型:オッズ比0.651
*オッズ比はそれなりに違いました。
いわゆる確率(〜倍違う)とは違うので注意(こちら参照)
解釈は?
イタリアとスペインにおいては、コロナ重症化した人の血液型の分布は、献血した人の分布と異なった
という報告でした。
注意すべきは、これは因果関係でないということです。
解釈の注意点は以下のとおりです:
✔相関関係であり因果関係ではありません
→「O型にコロナ重症化した人が多い」であって、「O型だからコロナ重症化しやすい」と主張しているわけではありません
→その主張のためには、交絡因子で調整するなどする疫学研究が必要です
→この研究では年齢と性別でしか調整されていません
*ただ、ABO式血液型に関わる既往疾患などは少ないし、関連性があったとしてもそこまで強くないことが予想されるので、交絡因子で調整しても有意な関連性が認められると思います。ただの予想ですが。
✔論文みても書いてなかったのが、ABO血液型の分布がコントロール群でどうだったのか
→コントロール群は献血ドナーが多いので、例えばO型の人が多く献血に行っていれば、「コントロール群にA型が多かった」という結果は当然です
→すなわち、血液型に関しては完全にコントロールとしての役割を満たしている集団かが、ちょっと疑問に思いました
*絶対気になるreviewerいると思うのですが、なぜか論文中に発見できず。ただの自分の見落としかも!?
✔コントロール群の人が重症コロナ感染したかが不明です
→つまり一部はコロナ群に分類されるべきかもしれない、ということです
→ある程度そういう人がいたとしても、関連性が無い方向へのバイアスです
→つまり実際はより強い関連性であることが予想されるので、大きな問題でないかもです
✔当然日本人にも当てはまるかは不明です
結論
イタリアとスペインにおいては、コロナ重症化した人の血液型の分布は、献血した人の分布と異なった。
因果関係は言えない。
ではまた。