どのような因子が、コロナにかかって死亡するリスクになるか。
かなり多くの研究がこれを調査しています。
最近の中でもっとも規模が大きく、信頼に足るものがNEJMより発表されました。
これを解説していきます。
****この論文は撤回されました(6/5)****
新型コロナウイルス感染症、院内死亡のリスクは?
以前の記事で、紹介した事があります。
これは3/9時点での中国からの報告でした。
200人程度とかなり患者数が少ないながら、高齢、心臓病の既往、糖尿病などがリスクと結論しました。
この記事で紹介するのは5/1にNew England Journal of Medicineに発表された報告です(NEJM 10.1056/NEJMoa2007621)。
アジア、ヨーロッパ、アメリカの169病院より、計8910人の患者のデータを集めて行った解析です。信頼度が全く異なります。
このうち515人(5.8%)が院内死亡しました。医療崩壊している武漢に限った報告でなく、より一般化しやすいpopulationです。
結果はどうだったでしょうか。
多変量解析の結果はこちら
院内死亡に独立に関わる因子を知りたいわけです。
この場合、多変量解析を用います(これがわからない方、詳細はこちら)。
アウトカムは院内死亡(0か1)なので、ロジスティック回帰です。
モデルに入れた因子は以下の通りです:
年齢、性別、既往(冠動脈疾患、心不全、不整脈、糖尿病、COPD、高血圧、脂質異常症)、喫煙(現在喫煙、過去に喫煙)、免疫不全状態、国、内服薬(ACE阻害薬、ARB、抗血小板薬、スタチン、インスリン、経口降血糖薬)
そして有意になった因子はこの通りです。
・高齢、男性、冠動脈疾患の既往、心不全の既往、不整脈の既往、COPD、現在喫煙者が院内死亡のハイリスクでした。
・ACE阻害薬やスタチンを飲んでいると院内死亡が少ない傾向にありました。
*この中でARBだけがオッズ比1をまたいでいるので有意ではありません(ARBがリスクになるかはトピックなのでこの図に入っているだけです。人種や高血圧も有意でないですが、この図には含まれていません)。
*95%信頼区間がOR=1をまたぐかで有意差をみるということは、p=0.05をカットオフにしているということです。なので本当はmultiple testingを調整する必要があります(この記事参照)。この論文では、multiple testingが調整されていません。つまり、有意となっている因子の一部が、本当は有意でない可能性があります。
解釈は?
色々な因子を一つのモデルにいれることで、交絡因子を調整しています。
つまり、「男性は喫煙者が多いから死亡リスクが高いんだろう」という要素は調整されているわけです。「喫煙者(などモデルに入れた全ての因子)の数が同じとしたときに、男性と女性の違いが死亡率にどう影響しているか」を検討しています。
すると女性のほうが死亡率が低かったという結果だったわけです。
以前からの研究で言われているのと、ほぼ一貫した結果でした。
すなわち、高齢、男性、冠動脈疾患の既往、心不全の既往、不整脈の既往、COPD、現在喫煙者が院内死亡のハイリスクということ。
これはある程度固いでしょう。
ACE阻害薬とスタチンがprotectiveであったのは、注意して解釈されるべきです。
飲んだほうが良いとは全然言えません。それにはランダム化試験が必要です。
これは交絡因子によるもの(この記事参照)で、おそらく次のような考え方がもっともらしいかと思われます:
↓
心不全や心筋梗塞後の方には、ほぼ必ずACE阻害薬かスタチンが処方されます。
しかしアドヒアランスが悪い方、超高齢者、金銭的に薬剤が飲めない方は処方されない事もあります。
彼らはベースの健康状態が悪いため、どんな病気でも(新型コロナ感染症含む)死亡リスクが高いです。
すると同じ心不全患者でも、スタチンやACE阻害薬を飲んでいない人が、飲んでいる人より死亡リスクが高いとなってしまいます。
しかしそれはスタチンの影響ではなく、「彼ら」という属性の影響なのです。
結論
年齢、男性、タバコや心臓病が悪い。
これはほぼ間違いないでしょう。リスク高い方は、感染しないよう気をつけましょう。
ではまた。