新型コロナに関するエビデンスはかなりのスピードで蓄積されています。
おそらくほとんどの方が知識をupdateできていないと思います(自分もです)。
そんな方に朗報。
権威ある医学誌に、定期的に「今までのエビデンスまとめ」論文が発表されます。
今回は2020年7月までのエビデンスを解説していきます。
Contents
新型コロナ感染症:今までのエビデンスまとめ
前回紹介したエビデンスreviewは、4/24にNEJMに発表された論文でした(NEJM 2020 10.1056/NEJMcp2009249)。
今回紹介するJAMAのreview記事は、2020年7月時点までの正式に論文発表されたエビデンスをまとめたものです(JAMA 2020 10.1001/jama.2020.12839)。
網羅的で、役に立つと思います。
一つずつ見ていきましょう。
*網羅的な情報でやや長いので、上の目次から知りたい箇所に飛んで下さい。
ウイルスの特徴
・コロナウイルスとは:一本鎖RNAウイルス。Envelopあり
→229E, OC43などといった通常の風邪の原因ウイルスがほとんど
→その中で3つ、重症感染症を引き起こす特殊なコロナウイルスがある
・COVID-19の原因であるSARS-CoV-2
・SARS-CoV-1、いわゆるSARSの原因
・MERS
・SARS-CoV-2は自然宿主はコウモリだと考えられている
→中間宿主である哺乳類(センザンコウなど)を介してヒトに感染したかと思われる
最初の患者はセンザンコウを食べたんですかね。
ヒトのウイルス防御機構、新型コロナ肺炎の病態
・最初は、SARS-CoV-2は鼻腔・気管上皮・肺細胞などにくっつこうとする
→具体的には、ウイルスのSスパイク蛋白がヒトのACE2受容体に結合する
→TMPRSS2という(ヒトの)プロテアーゼによりS蛋白が活性化、ウイルスが侵入する
*この理由から、ACE2受容体の発現を増加させるACE阻害薬の使用によりコロナウイルス感染リスクが高まるのでは??と言われていたが、大規模コホート研究より否定されました
=ACE阻害薬の内服を辞める必要はありません(この記事参照)。
*また、S蛋白に対するワクチンがPhase-1 trialを終了しています(この記事参照)
・T細胞に感染して死滅させることで、リンパ球減少をきたしうる
…これはインフルエンザウイルスと同じメカニズム
→全身炎症をきたすとリンパ球のアポトーシスを助長、さらにリンパ球減少を助長する
・感染が悪くなってくると、上皮と内皮のバリア機能が廃絶、間質にマクロファージや好中球が浸潤
…これにより間質性肺炎となり、CTですりガラス陰影となります
→結果、
・肺の毛細血管が機能しなくなり(酸素運搬ができなくなり)、酸素化が悪くなる
・内皮細胞の血栓予防効果が低下、全身に血栓を生じる(DICやDVT)
SARS-CoV2がどう感染するか
✔一番高頻度なのは飛沫感染
…話、咳、くしゃみでface-to-faceに感染します
→具体的なリスクは、
・無症候性感染者からは、6フィート(約2m)の距離で15分以上
・症候性患者からはより少ない暴露でも(咳だけなど)
*48-62%の感染が、無症候(か発症前)の感染者からだと推定されています
...無症候 vs 発症前の比較はダイヤモンド・プリンセス号の研究が参考になります(この記事にて)
✔ウイルスが付着しているものを触ることでも感染しうる
…特にステンレスやプラスチックの上でウイルスが長い時間安定して感染力を保つとの報告があるが、48-72時間の間に急速にウイルス量が減るとの報告もある。
→理論上はドアノブや服からの感染もありうるが、実際ほとんどの感染はface-to-faceだろうと考えられている
*物議を醸したNEJMの報告に基づいています(この記事参照)。
✔エアロゾル感染のありうるが、日常生活の範囲内でどれくらいの意味を持つかは不明。
+飛沫核を介した空気感染についても証明はされていない。
*最近WHOが「空気感染も否定できないから密集・密閉を避けよ」という声明をだしましたね(この記事参照)
✔妊婦から胎児への感染(垂直感染)はあまりなさそう。
…妊婦の感染のほとんどは妊娠3期で、母子ともに予後良好。
✔ウイルス量
・上気道でのウイルス量は症状発症時点でほぼピークに達する
・症状発症2-3日前から人に感染させうる。これがコロナが大流行している大きな原因。
・無症候感染の頻度は4~32%と幅が大きい
→これは、研究によっては「本当に無症候性感染なのか」「その後発症するのか」「軽い症状があるだけなのか」という区別ができないから。
✔回復
・症状発症後8日で、ウイルス培養はほとんどの方で陰性となる
…発症後5日以降の患者と接しても感染しないことが示されている
→これを根拠に、症状消失というのが一つの退院基準となっている。
*CDCは発症10日間、症状改善後3日間の隔離を推奨しています
臨床的特徴(症状など)
<症状>
潜伏期間はおそらく5日(2-7日)。発症するなら、長くても11.5日以内に発症する。
中国の4.5万人の研究では、81%が軽い症状、14%が重い症状、5%が重篤な症状(ショックなど)とのこと。
頻度の高い症状は以下の通り:
・発熱:患者の90%以上
・乾性咳嗽:60-86%
・呼吸困難感:53-80%
・倦怠感38%
・消化器症状:15-39%
・筋肉痛:15-44%
*まれに、消化器症状だけ、嗅覚障害、味覚障害も認められる。
<入院・合併症>
・入院する人の74-86%は50歳以上。男性の比率がやや高く60%程度。
・感染者のうち25%、入院患者のうち60-90%は併存症あり。
・17-35%の入院患者はICUで治療される:ほとんどの場合呼吸不全のため
→ICU患者の29-91%に挿管管理を要する
・COVID-19の合併症は多岐に渡り、高頻度。
→血栓系のイベント(DVTや血管塞栓)は特に多く、ICU患者の31-59%、入院患者の10-25%にみられる
<小児>
2-5%の患者が18未満。
小児患者の症状は軽く、ほとんど上気道炎のとどまる。
→これがなぜかは不明
・その中でも入院した患者のうち、かなり少数(7%未満)で挿管管理を要する重篤な状態となる
・非常に稀(10万人に2人程度)に、川崎病に似た全身炎症(予後不良)を呈する。
診断
★スタンダードは鼻の奥から採取した検体を用いたRT-PCRだが、偽陰性(本当は感染しているのに陰性となる)の確立が高いため、その他の臨床情報を用いる
<RT-PCR>
特異度は高い。
感度が低い。
…暴露後4日では33%、症状出現時には62%、症状出現後3日では80%との報告
→気管支洗浄液>痰>鼻腔ぬぐい液>咽頭拭い液の順に感度が高い
<抗体>
IgMは感染後5日以内、IgGは感染後14日くらいに検知可能となる
重症な感染であるほど、抗体の力価は高くなる
迅速キットや免疫アッセイ法など様々な検査法があるが、その検査能はばらつきがある
★抗体があるからといって、感染に対し免疫があるとはいえません。
→2回目の感染の特徴については、今の所詳細不明です(抗体との関連性も含めて不明)
<血液検査>
リンパ球減少(109/L未満)は多く、入院患者の83%に認められる。
(以下カッコ内はおおよその頻度)
その他、よく見られる異常は次の通り:
→CRP (60%)、LDH (50-60%)、ALT (25%)、ASTの上昇 (33%)、Albの低下 (75%)、PT延長 (5%)、血小板減少 (30%)、D-dimer上昇 (43-60%)
→ただどれも特異度が低く、何が原因の肺炎でもみられる所見(コロナに特徴的とは言えない)
→コロナの診断として使えるのは、リンパ球減少ともしかしたらD-Dimer上昇程度。
<画像所見>
特徴的なCT所見は、びまん性・末梢性のすりガラス陰影。
発症早期では、CTで15%、Xpで40%程度の患者で初見なしとなる。
CT初見も特異的でなく、診断能力は低い
*感度は高い(コロナ患者なら異常所見があるとはある程度言える)としても、診断にはあまり役に立ちません。
ここで言う診断とは、「その肺炎がコロナなのか」という診断を指します。
治療
<酸素化、肺の管理>
酸素投与で十分でない場合、nasal high-flowはよい選択肢。
それでだめなら挿管する。呼吸器設定は肺保護的に:
論文で言及されているTipsは:
タイダルを少なめ(4-8ml/kg)
圧も低めにする(プラトー圧<30mmHg)
伏臥位
PEEP高め
短期の筋弛緩剤
挿管の基準は統一されていない。
なぜなら、多くの患者は普通の呼吸をしているのに酸素化が極めて悪いから(見た目より悪い)。
→現在の所、早めに挿管することを支持するエビデンスはない(早めに挿管したほうが良いか悪いかわからないということ)
約8%の患者が細菌や真菌の合併感染となるが、実際72%の患者が抗菌薬を併用されている。
→抗菌薬をどういうタイミングで投与すべきかは今の所不明。
<根本治療薬>
理論的に、抗ウイルス薬は感染初期に、免疫調整薬は入院患者に、抗凝固薬は血栓塞栓系のイベント予防に効果があると考えられる。
・(ヒドロキシ)クロロキン(+アジスロマイシン)の有効性は証明されていない
トランプが飲んでたやつですね
・レムデシビルは治療期間の短縮化に効果があることが証明された。
→5日間のレジメンと10日間のレジメンで「挿管の回避」における効果は変わらなかった
→死亡率などへの影響は調査中。
*この記事参照下さい
・COVID-19から回復した患者の血清を使うという治療法も検討された
(さすが中国)
→中国の103を対象としたRCTで「clinical improvement」における有意差は認められなかった
→ただし51.9% vs. 43.1%で治療群の改善率は高かった
→この試験は患者が集まらず中断された経緯があり、power不足である可能性あり(本当は効果ありかも知れない)
・炎症調節薬(モノクローナル抗体)の治療効果も期待されており、RCTがたくさん走っている。
・ステロイドについては、ウイルス性肺炎やARDSに対したくさんRCTが行われてきたが、効果が一貫していない。
→一方COVID-19についてはデキサメタゾン6mgの連日投与で28日間の死亡率を下げるというRCTが報告された。
→特に有効なのは症状が7日以上持続している人、挿管管理を要する人。
*COVID-19がARDSの中でも例外的にステロイドが効果的なのかは、さらなる研究が必要。
・血栓予防のため、低分子ヘパリンが入院患者に推奨される。
予後
入院患者の死亡率は15-20%。ICU入院患者の場合は40%まで至る。
→しかし場所や患者の特性によって大きく異なる
(医療崩壊した地域では当然死亡率が高い。日本は低い)
→年齢に関して:40歳未満は5%未満、70台は35%、80台は60%以上という報告あり
完全に高齢者キラーです。
長期予後は不明だが、敗血症による死亡率上昇効果は約2年間に及ぶとされている
…運動能力や認知機能が低下することで、再感染やADL低下をきたすため
→これに似た様相を呈することが予想されている
予防
各国がそれぞれの政策をとっているため、何が有効なのか判断することが難しくなっている
→これは、いつまでその政策を続けるかに関わってくる重要な問題である
予防策は大きく分けると4種類
・個人の感染予防:物理的距離、手洗い、マスクなど
・感染追跡+隔離:test-trace-track-isolate、必要に応じた学校や仕事場の閉鎖など
・政策:集会禁止、自粛陽性、公共交通機関の閉鎖など
・出入国管理:検疫、国境閉鎖など
・実は、1918年のスペイン風邪以来、エビデンスはそれほどアップデートされていない。
→この際、感染者の自宅隔離、集会禁止、移動禁止、social distancingが感染予防に有効だと示されていた
・ワクチンは開発中で、約120種類の候補がある。詳細略。
以上です。
ではまた。