新型コロナウイルスによって、国民の死亡者数はどれくらい上がると思いますか?
毎日新型コロナによる死亡者数が報告されていますが、その和だと思いますか?
違います。
死亡する人は、多くが高齢者で基礎疾患がある方:何の原因でも死亡しやすい方です。
彼らは、新型コロナにかからなくても、1年以内に亡くなっていた可能性があります。
言葉を変えれば、「コロナの影響でコロナ以外の要因で亡くなる」という考えも取り入れなければなりません。
実際新型コロナによりどれくらい死亡者が増えるか、これを考えた最新研究を解説します。
新型コロナで、実際どれくらい死ぬか
新型コロナウイルスによって、国民の死亡者数はどれくらい上がると思いますか?
新型コロナによる死亡者数というのはあてになりますが、その和=今年のプラスアルファの死亡者数、なわけではありません。
そう思っている方、情報に惑わされていますよ。
新型コロナで亡くなる方は、そもそも色んな理由で亡くなるリスクの高い方がほとんどです。
一番単純なのは年齢。
・この前20代の力士の方が亡くなったことがニュースになりましたが、これが国内で初めての死亡です。この方はコロナにかからなければ、かなり長く生きることができた。とても残念です。
・一方、80代の方がコロナにかかると、死亡率は8%とかそれ以上とか言われています。この年代の方が「新型コロナによる死亡者数」に寄与している事は自明です。
→しかし、彼らがもし新型コロナにかからなかったとしても、1年以内に死亡する可能性はかなり高いです(20代と比較して)
→つまり、新型コロナにより死期が早まったことは間違いないが、「2020年度の死亡者数」には寄与していないかもしれません(というか、一定の割合で寄与しません)
コロナによる、コロナ以外の要因による死亡も考慮する必要がある。
これらを踏まえて「1年で死亡数がどれくらい増えるか」検証した研究がLancetに発表されました(Lancet 2020 org/10.1016/ S0140-6736(20)30854-0)。
イギリスの研究です。
実際、どれくらい死亡者が増えるのでしょうか。
400万人を対象とした統計モデル
イギリスのデータは凄いですよ。国民のほぼ全員の健康情報が一元管理されています。
そしてそれが電子カルテの情報と紐付けられています。
これこそが現代のあるべき姿でしょう。日本も見習うべきです。
さて、その巨大なデータベースを使い、
・30歳以上
・1997年〜2017年に一度医療機関にかかった
人を抽出、約400万人が集まりました。
彼らの情報を集め、次のような研究をしました:
✔まず、1年の死亡率を予測する因子を調査
結果、
「年齢>70歳、COPD、慢性腎不全、心血管病、ステロイド使用、糖尿病、BMI>40」のうち、リスクがいくつあるかで、わかりやすく死亡率がわけられました。
具体的には、
リスク0個:1年死亡率0.64%
リスク1個:1年死亡率3.51%
リスク2個:1年死亡率7.53%
リスク3個:1年死亡率13.1%
となりました。
✔リスクに応じて死亡リスクをカテゴリー化
この図のように「年齢とリスクの個数」でpopulationを32種類に分けました。性別ごとに。
例えば、男性、85歳以上、リスク3個以上が最も1年死亡率が高く、28.7%でした。このグループには956人が当てはまりました。
✔コロナの影響を推定
このモデルを使って、コロナの影響を考えました。
具体的には、
・コロナで死亡リスクがどれくらい上がるか(1.2倍、1.5倍、2倍、3倍)
・何%の人が罹患するか(0.001%, 1%, 10%, 80%)
この2つの組み合わせで考えました。
それぞれのマスで掛け算を行って、全部のマスを足すことで、総死亡数を算出した、ということです。
*かなり単純に思われるかもしれません。実際単純なのですが、「コロナにより死亡者がどれくらい増えるか」をこれで大雑把に予想することができます。単純なので他の国でも応用可能です(それが売りでもある)。
結果。
・例えばめちゃくちゃsocial distancingを強くして0.001%しか罹患しなかった場合。
コロナにより死亡リスクが3倍となったとしても、1年間のプラスアルファの死亡数は、たったの7人。
・もし1%が罹患したら(強めのsocial distancingをしたら)。
死亡リスクが1.5倍だったら、プラスアルファで1837人の死亡。
3倍ならプラス7350人。
・もし10%だったら(social distancingを弱めにしたら)。
死亡リスク1.5倍でプラス18374人。
死亡リスク3倍でプラス73498人。
もし80%が罹患したら(social distancingしなかったら)・・・・
死亡リスク1.5倍でプラス15万人。
死亡リスク3倍でプラス59万人。
これくらい、普段と比較して、1年の死亡者が増えるだろうと予測されました。
解釈は?
「年齢によって感染リスクちがうやろ!」とか
「年齢によって死亡リスクの増え方ちがうやろ!」とか
「色々interactionあるやろ!」とか(interactionについてはこちら)
批判的にも読めますが、
この研究の目的は、「概算で死亡者数がどれくらい増えるか考えること」です。
その目的は達しています。
*繰り返しますが、重要なのは「コロナで亡くなる方がもともと死亡リスクが高く、死亡がやや早まっただけかもしれない」という考え方です。
言葉を変えれば、コロナ以外の要因による死亡も考慮した考え方です。
例えば頑張ってsocial distancingして国民の1%しか罹患しなければ、コロナによる死亡リスク上昇具合によりますが、プラス数千人の死亡にとどまります。
数千人は多そうですが、国で考えたらそこまで多くないです。
当然、罹患率が増えれば、プラスで死亡する方も増えます。
10%がかかれば、数万人はプラスで亡くなる。
80%かかるほど集団免疫を目指す方法は、数十万人のプラスアルファの死亡に繋がり、避けるべき政策と言えます。
この研究は、
「だから〇〇しろ!」
と主張するものではなく、
「こういう考え方(具体的な数字)を政策決定の役に立ててください」
という趣旨のものです。
当然日本では違う数字になります。
こういうシミュレーション、やってみて良いかもしれませんね。
結論
コロナ以外の要因による死亡も考えて、大体どれくらい死者数が増えるか推定した研究でした。
政策決定は、こういう科学的な知見に基づくことが大切です。
ではまた。