新型コロナの死亡リスクとは

最近は新型コロナに関することしか話題になりませんね。

科学的根拠に基づいた議論がなされるべきですが、皆さんどれくらい把握しているでしょうか。かなりのスピードで論文が出ているので、キャッチアップするのは難しくないでしょうか。

そこで、Riklogにて新型コロナに関する最新論文解説を行っていくこととしました。わかりやすさ、正確さを追求します。

この記事では、新型コロナに罹患した患者における、院内死亡のリスク因子に関する論文を紹介します。

 

 

新型コロナの死亡リスクとは?

新型コロナの死亡リスクとは?

Lancetに3/9に発表された、後ろ向きコホート研究を紹介します(Lancet 2020; 395: 1054–62)。

武漢の2つの病院からのレポートです。

 

この論文以前にも、コロナ肺炎で重症化するリスクはいくつか報告されていましたが、死亡リスクについて論じたものはありませんでした。

この論文が初めての報告です。

 

3/9以降、新しい知見も出てきていますが、この論文がベースです。非常に重要です。

 

 

どうやった?

これは武漢の2つの病院のデータベースを基として、後ろ向きにデータを集め、解析したものです。

PCRで確定診断されて入院した人」が対象です。武漢の状況で入院した人、重症な方が多そうですね。

さらに・・、

2/1までに「死亡した人」もしくは「完治して退院した人」が対象です。

 

→つまり

医療崩壊している武漢の状況で入院した方

PCR陰性の人・入院中の人は含まれていない

というバイアスがかかった集団となります。

 

最終的に191名が対象となり、そのうち54人が死亡しています(28%!)

 

解析は3つあります。

1) 死亡した人、生存した人の入院時の特徴の違いを統計解析したもの

2) 死亡に独立に関わる因子を調査したもの

3) 典型的な入院後経過

 

これらを解説していきます。

 

 

1. 死亡した人、生存した人の入院時の特徴の違いを統計解析したもの

とりあえずこれを知りたいですよね。

論文では100項目くらい比較しています。それぞれ統計検定を行っているので、multiple testingという問題がありますよね(この記事参照)。Lancetの論文ではmultiple testingに触れていません。

実際大事なのは60項目くらいです。ここでは、これで有意なものを紹介します

 

*p値のカットオフは0.05/60=0.0008以下となります

*()内は(死亡者の中央値 vs 生存者の中央値)です。

 

 

病院に行かないでわかる項目

まず年齢(69 vs 52歳)。当然ですね、死亡した方は高齢者が多い

既往歴として心血管病(24% vs 1%)。生存者のうち1%しか心血管病既往が無かった。これはかなり重要ですね。

入院時頻呼吸(1分間に24回以上)も死亡者に多かったです(63% vs 16%)。苦しくなると頻呼吸になるので、死亡者には苦しくなった方が多かった。当然です。

 

*ここで喫煙者(9% vs 4%)、COPD(7% vs 1%)などは有意な差がないことに気づきます。これが差がないのは、おそらく191人しか解析対象がいないためです。

→このデータで有意な差がないとしても、「本当に差がない」とは言えませんし、おそらくあるでしょう。

 

死亡者/生存者に差が認められた症状は有りませんでした

強いて言えば、生存者に咳がちょっと多かったくらいで(72% vs 82%)、この差も有意ではありませんでした。

 

→このコホートでは、病院に行かないで分かる項目は、年齢・心血管病の既往 ・頻呼吸かどうかくらいでした。

 

 

血液検査データ

死亡した方は生存した方に比べ、以下のような血液検査上の特徴がありました。私なりの解釈も入れてみました。

 

<炎症に関する項目>

✔白血球数(9800 vs 5200)、フェリチン(1435 vs 503)、IL-6(11 vs 6.3)、プロカルシトニン(0.1 vs 0.1)、アルブミン(2.9 vs 3.4)

 

*プロカルシトニンは中央値では変わり有りませんでしたが、25パーセンタイル値は0.5 vs 0.1でした。即ち死亡した方は「それなりに高くなった方」が多かった事を意味します。

→プロカルシトニンは細菌感染を示唆すると言われており、二次的な細菌感染を示唆しているのかもしれませんし、他の意味合いかもしれません。

 

*白血球はウイルス感染なので上がりづらいですが、その中でも高値なのは悪いかもしれない、というのは、色々解釈の余地のあるポイントです。これも一部は二次的な細菌感染を示唆していると思われますが、それだけではなさそうです。

 

*アルブミンは全身炎症があると下がりますね。機序に関してはこちら(知識の卵)

 

✔リンパ球数(600 vs 1100)

 

*死亡した方は、白血球は多いがリンパ球数は少ないという結果でした。かなり興味深い現象です。

→二次感染で好中球が上がるというのは一つの説明ですが、他にも理由がありそうです。論文中では考察されていませんでした。

 

<凝固系に関する項目>

✔血小板(17万 vs 22万)、PT(12.1 vs 11.4)、D-dimer(5.2 vs 0.6)

 

*これらは感染が重篤であることによる血管内凝固を表しているものと思います。さらに進むとDICとなりますね。

 

<肺組織破壊に関する項目>

✔LDH(521 vs 254)、CK(39 vs 18)

 

*特にLDHは重症な肺炎で上昇するマーカーとして有名です。

 

✔高感度トロポニン-I(22.2 vs 3)

 

*トロポニンは心筋が壊れると上昇する酵素です。急性心筋梗塞の診断に使われます。でも、感染症が重症化するとトロポニンが上昇することが知られており、コロナでなくともその上昇は悪いことを意味する事が知られています。

コロナ肺炎においてトロポニンの意味合いはとても重要と思われ、他の論文でも検証されています。

ここでのメッセージとしては「コロナで死亡するかは心臓との関連が重要」ということくらいでしょう。

 

 

レントゲン所見

死亡した方、生存した方で頻度が有意に異なる所見はありませんでした。

しいて言えば、浸潤影の頻度は死亡者の方に多い傾向にありました(74% vs 53%)。

 

 

SOFA score

最後にかなり重要なスコア、SOFA scoreです。これは死亡者に有意に高い傾向がありました(4.5 vs 1)。

 

*SOFA scoreとは、敗血症の予後に重要だという強いエビデンスのあるスコアです。

これは、次のような6つのdomainから計算されます。

・肺機能:PaO2/FIO2

・凝固能:血小板数

・肝機能:ビリルビン値

・心血管系:血圧

・神経系:GCS(意識障害)

・腎機能:クレアチニン値

 

SOFA scoreは全身臓器がどれほど正常に働いているかを示す、統合的なスコアです。

これがコロナ肺炎の死亡リスクにも超重要な役割を果たすことになります。

実際私の勤務する病院でも、トリアージにSOFA scoreが用いられるプロトコルとなっています。

 

 

死亡に独立に関わる因子を調査したもの

そもそも、独立した因子、とはなんでしょうか。

例えば高齢だとコロナ肺炎で死亡するリスクが高いわけでした。しかし高齢者の方が、心血管病の既往がある人が多い。すると、高齢だから死亡リスクが高いのか、心血管病の頻度が高いから死亡リスクが高いのか、わかりませんよね。

これは、「心血管病がないとしたときに、年齢の違いが死亡リスクと関連するか」という解析をすることで分かりますね。

これを色々な因子で同時にやれば(同じモデルにいれて解析すれば)、何が独立に死亡リスクに関わるか分かるというわけです。

 

論文では、年齢・心血管病の既往・SOFA score・リンパ球数・D-dimerという5つの因子を同じモデルにいれています。

結果、年齢・SOFA score・D-dimerが死亡リスクに関わった=これらが独立して死亡に関わる事が示唆された、ということが分かりました。

 

この方法を少し詳細に解説します。

 

・なぜ5つしか選択しなかったのか?

死亡をアウトカムとしたロジスティック回帰モデルを使うのですが、「アウトカムの数÷10程度しかモデルに因子を入れてはいけない」という法則(overfit)があるからです。それ以上をいれると信頼性の高い結果は得られません。

今回は54名しか死亡者がいないので、5-6個くらいしか因子が入れられないのです。

 

・どうその5つの因子を選択したか?

これは筆者らがやや恣意的に選択しています。SOFA scoreに関連無さそうなもの、欠損値が少ないもの、ERで普通使える血液データ、という基準で選んだ、と論文に記載されています。

*でも例えば、d-dimerとSOFA scoreは内容がoverlapしているようにも考えられ得ます。なので恣意的な=バイアスがかかったチョイスとなってしまっています(仕方ないですが)。

 

つまり結果としては年齢、SOFA score、d-dimerは大事なんだが、それは信頼性のやや低いモデルから導かれた結果だということです。

そもそも200名弱の研究で「独立して関わる因子」を追求することは、やや無謀です。

できる限りの解析をした所、上の3つはおそらく重要だろう、くらいのメッセージとなります。

 

 

典型的な入院後経過

最後に、典型的な入院後経過が紹介されています。

 

✔生存した方の経過はこんな感じです(日数は発症後、中央値です)

解熱はday 12

咳が止まるのはday 19

呼吸困難感出現はday 7

敗血症になるとしたらday 9、ARDSになるとしたらday 10

ICU入室期間は(入室となった方は)day 12〜day 18

PCRでコロナのRNAが検出されるのはday 20まで

 

✔死亡した方の経過はこんな感じです

症状の経過は生存した方と同じ感じ

敗血症になるとしたらday 10、ARDSになるとしたらday 12

ICU入室はday12

死亡はday 19

 

これらは中央値なので個人のvariationは表していないし、実際個人のvariationはかなり大きいと思います。

この情報だけで何か解釈するのは難しいですが、だいたいこういう経過をたどるかもしれない、という参考になります。

 

*RNAの検出に関しては、全員システマティックに検査されていなかったり、検査の妥当性が低いなどlimitationが多く、day 20でOKとは到底言えないので注意です。逆に、ここでの主張は、結構長くウイルスが排出されますよ、という点です。

 

 

結論

この論文の意味合いはこんな感じでまとまりそうです。

年齢、SOFA score、D-dimerは、コロナ肺炎による死亡リスクとして使えそうだ。

結構長くウイルスが排出されるので、感染者を隔離するのは理にかなった方法だ。

ではまた。

-COVID, 論文解説

Copyright© Riklog , 2020 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.