ヒドロキシクロロキンは新型コロナへの治療薬として期待されています。
しかし注意すべき副作用があります。QT延長です。
コロナ患者におけるこの副作用の報告がありましたので、これを解説します。
新型コロナにヒドロキシクロロキン、QT延長に注意
COVID-19にヒドロキシクロロキン(+アジスロマイシン)が効果的かも、という報告は前の記事で紹介しました。
この報告により、世界中でCOVID-19に対しヒドロキシクロロキン+アジスロマイシンが使われるようになりました。
しかし、重大な副作用があります。QT延長です。
QT延長とは聞き慣れない方も多いかもしれませんが、これは心電図の所見です。
Q波とT波の間隔が長くなるもの。
これがなんで悪いかというと、心停止の原因になるからです。
つまり、突然心臓が止まるリスクが増えるということ。
具体的には、torsades de pointesというタイプの心室頻拍が生じえます。
ヒドロキシクロロキンはこのQT延長が、それなりの頻度で生じることが知られています。
よって、本来(慣れていなければ)中々使いにくい薬なのです。
アジスロマイシンはよく使われる抗菌薬ですが、この薬もQT延長の副作用が報告されています。
よって、ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンを併用すると、かなりリスクが高くなることが予想されます。
実際どれくらい延長するのか、どれくらい心停止になるのか、気になる所です。
これに関する84症例のまとめが、4/24 Nature Medicineに発表されました(Nat Med (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0888-2)。
対象は?
ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンで治療されたCOVID-19患者連続84名の報告です。
彼らの心電図はカルテ上でreviewして、QT延長の程度(QTc)を判断した、というものです。
後ろ向きコホート研究です。
*毎日心電図がとられている人、時々とられている人などバラつきがあり、これがlimitationとなっています。
*QTcとは、corrected QTの略で、
QT間隔(msec)÷√RR間隔
で表されます。
RR間隔とは、1回の心臓の収縮がどのくらい時間がかかるか。心拍数60回なら、RRは1秒=1000msecです。
なぜRR間隔のルートで割るかというと、心拍数によってQT延長と判断されるに足る度合いが異なるからです。
当然ですが、脈が早ければ、ちょっとのQT延長でも十分なQT延長になりますね。そういうことです。
結果: QT延長した
このグラフが結果です。
ベースラインのQTcからどれくらい変わったかを、日毎に表しています。
day4~5ではQTcが30~40msecくらい延長していますね。
これはかなり著明な変化です。
例えば男性ではQTc>450msecがQT延長と言われているので、この集団のベースラインの平均が435msecであることを考慮すると、平均的にQT延長となることが示唆されます。
さらに重要なポイントですが、QTc>500msecとかなり著明に延長する人は9人(11%)に認められました。
これだけ伸びると、torsade de pointesのハイリスクです。
しかもこの9人のベースラインのQTcは平均447msecと正常範囲内でした。
幸いにも、この集団ではtorsade de pointesは認められませんでした。
4人が臓器不全により死亡し、16人は退院、64人はまだ入院中とのことです。
解釈は?
この治療法はQT延長に注意したほうが良い、という(当たり前の)メッセージです。
世界中でヒドロキシクロロキン+アジスロマイシンが使われている現状、重要な報告です。
ヒドロキシクロロキン+アジスロマイシンは有効かもしれませんが、まだランダム化研究で証明されているものではありません。
しかも効くかも、と言われている対象集団は軽症患者。
使うのは良いですが、QT延長→心停止という最悪の状況は念頭においておく必要があります。
一部、OTCでヒドロキシクロロキン+アジスロマイシンが手に入ってしまう状況もあるようです。特にアメリカ。
これはかなり注意が必要、というか止めといた方がよいです。
torsade de pointesは病院でなければ対応不能で、突然死に至ります。
結論
ヒドロキシクロロキン+アジスロマイシンは経口薬だし使いやすいですが、QT延長に注意する。
ではまた。