薬をたくさん飲んでいるご高齢の方。
なんとか減らしてあげたいですよね。
でも何もどう減らしたほうが良いか、というエビデンスは有りませんでした。
そんな中、「降圧薬を減らしたらどうなるか」というランダム化試験が発表されました。
どういう場合、実際減らしてOKなんでしょうか?
80歳以上の人は降圧薬を飲む必要ないか
血圧のコントロールは、高齢者ほど多剤で行うことが多いです。
カルシウム拮抗薬、ARBやACE阻害薬、利尿薬(特にサイアザイド)、β遮断薬、α遮断薬など。
ガイドラインに従って薬を増やしていくのは簡単ですが、減らすのはちょっと難しい。
高齢者にポリファーマシーが悪い、と言われて久しいですね。
ポリファーマシーとは、たくさんの種類の薬を飲むこと。
ただ実は、「たくさん薬を飲むことが悪いことに繋がるか」ということを証明することは容易でありません。
→たくさんの種類の薬を飲んでいる人が悪い、というのは常識ですが、これとは異なることですね。
→相関関係と因果関係の違いです(わからない方はこちら)
何かの薬にフォーカスして調べる必要があります。
この記事で紹介する研究は、高血圧に関するその因果関係を(おそらく初めて)確かめたものです。
どんな研究?
この研究はざっくりとこんな感じです:
・80歳以上で2種類以上の降圧薬を飲んでいる血圧150未満の高齢者が、
・薬を1剤減らす群か減らさない群かにランダム化され、
・12週間フォローされ、
・血圧やQOLがどうなるかを検証した。
より詳細には、
・かかりつけ医のレベルで検証された試験で、
・何の薬を減らすかはフローチャートがありこれを参照すること
・(収縮期)血圧が150超えたり高血圧による合併症が生じた場合は薬再開すること
・患者は家で血圧測定して良いこと
などがポイントです。
*薬が減らされるので、減らされたことが医者と患者に分かる(=二重盲検でない)ことが重要です。
しょうがないですが。
「1剤減らしても血圧はあまり変わらないだろう」というのが仮定です。
これを基にpower分析が行われ、540人の参加者が必要と判断されました。
*実際は、6194人にinvitationを送って、結局ランダム化されたのが569人でした。
→だいたい5000人が試験参加を拒否しました。
→これが大きなlimitation(selection biasの内のvolunteer bias)です。
結果は・・・あまり血圧変わらなかった
平均約85歳、2つ以上の基礎疾患をもっている人が98%、主に白人の集団です。
降圧薬内服時の血圧はだいたい130くらい。
全員血圧150以下でした。
✔結果、降圧薬減らした群 vs 減らさなかった群 で
・平均収縮期血圧:133.7 vs 130.8 (p=0.005:差がありということ)
・血圧が150未満:86.4% vs 87.7% (p=0.01 for non-inferiority:同等だということ)
・QOLとフレイルティ:有意差なし
でした。
*ちょっとアドバンスの内容です:
降圧薬減らした群で80/265人が「降圧薬再開したり、そのデータがなかったり」したことから、「実際に降圧薬を減らした」と言える人は185人/265人でした。
→この集団とコントロールを比較する、per-protocol解析も行われています
*この比較はもはやfairでない(ベースライン情報がランダム化されていない)ので、色んな交絡因子で調整する必要がでてきます(このあたりはいつか解説します)
→結果は上のものとほとんど変わり有りませんでした
解釈は?
80歳以上の安定している高血圧患者では、薬を1剤減らしても短期間ならまあ大丈夫そう、というのが解釈だと思います。
二重盲検化されていないことと、invitationを出した患者のうち実際に参加したのがごく一部だったこと(のためselection biasが強いこと)が主要なlimitationです。
が、まあ普段の診療を考えるとそんなに気にするほどでないかもしれません。
より具体的には:
・降圧薬中止群にて当然血圧が3程度上がったりしていますが、それは大きな問題ではありませんね。
・それより、66人/265人(25%)が降圧薬を再開しているという事象が興味深いですね。
→そんなに再開することあるかな?よほどしっかりした高齢者が多かったのか、国民性の違いな気がします。
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こういう研究を2-3年前にみてたら、
「降圧薬1剤減らしてもあんまり血圧変わらないなんて当然じゃん」
「こういうランダム化試験やる意味無いんじゃないの」
とか思ってました。
が、今は意義がわかります。
自分たちがやってる診療のエビデンスを作ってEBMを推進したい、という意気込みです。
→まず自分たちがやっている臨床があって(高齢者の薬をへらす)、「これは大丈夫なのか」「本当にやったほうが良いのか」ということを証明するため、ランダム化試験を行うわけです。
→患者個人に合わせてプラクティスを変えるのは当然で、それを集団に対し一般的に適応させたい=エビデンスを作りたい、ということです。
→完全に臨床医着案、主導のRCTです。
これは新薬のランダム化試験とは思考回路が真逆です。
新薬の場合は、この新しい薬によって今解決していない疾患の治療がどのように改善するか、ということを新しく調査します。
臨床医は密接に関わりますが、製薬会社主導のRCTとなります。
結論
超高齢者で安定している人は、降圧薬を1剤減らすくらいなら短期間は大丈夫そう。
ではまた。