うつ病、心血管疾患の「原因」だと思いますか?
そもそも「原因」って何なのでしょう?
この記事では最新の研究を紹介し、「心血管疾患の原因」について考えていきます。
うつ病は心血管疾患の原因か?【新研究】
「〇〇が☓☓の原因だ」というのがほとんどの臨床·疫学研究の目的です。
そもそも、原因ってなんなんでしょう?
Modern Epidemiologyという教科書によると、
「他の要因が固定されているとして、その病気の発症に必要な、その病気に先んずる特徴」
と定義されています。
まどろっこしいですね笑
逆に、
「他の要因が固定されているとして、その要素がなかったとしたら、病気が発症していなかったであろう特徴」
とも言えます。
*参照:因果関係 vs 相関関係
つまり、
その要素に介入することで、病気(アウトカム)の発症を予防できうるもの
というのが実践的な解釈になります。
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うつ病は心血管疾患の原因か?
という疑問は、
うつ病を減らすことで心血管疾患(CVD)を減らすことができるか?
という疑問と同義なのです。
これを念頭に置いて、新しくJAMAに発表された論文をみていきましょう(JAMA. 2020;324(23):2396-2405.)
どういう研究?
かなり大規模なデータを使っています。
ERFCというレジストリーから16万人、UK biobankから40万人。全員にCES-D scaleという方法でうつ病の程度を調べています。
それぞれ9.5年、8年フォローアップされ、9010件の、7860件のCVDアウトカム発症を認めました。
一般的な疫学的手法で関連性をテストしています。
*連続尺度の暴露因子をどう扱うか、お手本のような論文なので、研究者の方は是非参照してみて下さい。
結果···
交絡因子(年齢、性別、喫煙、糖尿病)で調整した後、
<ERFC>
·CES-Dのhighest vs lowest quintileで比較すると、62.8 vs 53.5 case/10000 person-yearでした。
·CES-Dが1SD増える(2.7倍になる)と、CVDのハザードは6%高い結果となりました。
·うつ病の診断(CES-D>16点)の有無では、ハザードは10%異なりました。
<UK biobank>
·CES-Dのhighest vs lowest quintileで比較すると、36.2 vs 24.5 case/10000 person-yearでした。
·CES-Dが1SD増える(2.7倍になる)と、CVDのハザードは10%高い結果となりました。
·うつ病の診断(CES-D>16点)の有無では、ハザードは38%異なりました。
そして、いろいろな感度分析でも、同じような結果が得られました。
*ただし、色々他の交絡因子を入れたモデルは、使えるデータ数がかなり限定されていました(それでも大規模ですが)
解釈は?
うつ病、もしくはCES-Dが高い事が、心血管疾患のやや高い発症率と関連した
という結果でした。
いくつか解釈に注意点があります。
✔CES-Dを調べられていない大多数の参加者が除外されています。
→つまりCES-Dを調べる対象となった人の中で···という解釈となります
→選択バイアスが生じています
→実際は、「どのようなコンテクストでCES-Dが検査されたか」が重要です。
*スクリーニングとして取られていればあまり問題なし。「うつ」が疑われる人に取っていれば、そのようなpopulation、ということです
✔1回のCES-Dの結果が約10年後のCVD発症の原因となるか?
→そういうことを主張している論文ですが、本当に???と思ってしまいます。
→CES-Dが高ければ、「平均的に少しだけ」CVDのリスクが高いですよ、という解釈にとどめておいたほうがよいです
→実際CES-Dが原因かどうか=CES-Dを下げるとCVDのリスクが減るかどうか、は、この研究からは言えません
*このように問題提起をすることが観察研究の目的です
✔CES-Dが高ければ、平均的に少しだけ」CVDのリスクが高い、という解釈は、どれだけ意味があるか?
→実際あんまり意味ないでしょう。
→しかも、関連性の程度も、本当にちょっとです。
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以上のように、この研究により「CES-Dが高いことははCVD発症の独立したリスクだろう」とは言えますが、何かプラクティスが変わるようなものではありませんでした。
*「CVDの独立したリスク」とは数百個!!!あると言われています
印象ですが、プラクティスが変わりうる大規模研究がNEJM、変わらないけど大事なエビデンスなのがJAMAに載るような気がします。
結論
CES-Dという「うつ病のスケール」が高いことははCVD発症の独立したリスクと考えられますが、その影響は少ない。
CVDの原因とは言い切れない。
ではまた。