胃を小さくする手術で痩せることができます。
これは、病的な肥満・糖尿病の方に適応となる、一般的な治療法です。
一方、頑張れば食事で痩せることもできる。
同じくらい体重が減ったとして、体の中ではどちらが良いのか?
これを検証した初めての研究を紹介します。
減量手術 vs. ダイエット:どちらが良い?
減量手術、聞いたことあるでしょうか。
多いのはRoux-en-Y胃バイパス法。
手術の減量効果ははっきりと証明されています。
特に、糖尿病を合併している人にて、血糖が下がる点が重要。
でも、太っていても普通は手術受けませんよね?
なぜでしょう。
それは、頑張れば食事で痩せることができるから。
実際心血管予防の研究領域では、weight loss trialといって様々な手段で体重減少させる研究が盛んに行われています。
知りたい点は、
もし同じくらい体重が減ったとして、手術と食事では「体内の状態」がどのように異なるか。
なんとなく、手術は体に悪そうな気がする人もいるでしょうし、逆に手術こそ体に劇的な変化を与えると思う方もいるでしょう。
今週のNEJMに、これを検証した研究が発表されました(N Engl J Med 2020;383:721-32.)。
著者はなんと日本人の方!
どういう研究?
胃バイパス手術 or 低カロリー食で体重減少を行った、肥満+2型糖尿病の方が対象です。
RCTでなく、観察研究です。
マッチされています。
主要アウトカムは肝臓のインスリン感受性。
*インスリン感受性が高い=血糖値が下がりやすい=良いこと、です。
3-stage hyperinsulinemic euglycemic pancreatic clamp procedure、という方法で計測しました。
膵臓β細胞機能も計測しました。
結果
ダイエット群18人、手術群15人
→このうち目標体重を達成した11人 vs. 11人の比較です。
平均して、ダイエット群は17.8%、手術群は18.7%の体重減少を達成しています。
(減量後も100kgくらいですが)
ダイエット群 vs. 手術群で、こんな変化がみられました:
HbA1c: 8%→5.6% vs. 7.2%→6%
食事血糖:ピークは手術群の方が大きかった
→これは摂取したグルコースが血中へ運搬される割合の違いです。
「肝臓のインスリン感受性=食事後の内因性グルコース産生の抑制」の改善率については、差がありませんでした。
膵臓β細胞機能の改善率にも差がありませんでした。
解釈
食事でも手術でも、体重が減ればbody compositionは良くなり、それは肝臓のインスリン感受性やβ細胞機能の改善と関連する、という報告でした。
「食事により・・・ vs 手術により・・・」という因果効果を比較する、という点では、多くのlimitationがあります。
✔RCTでなく交絡因子で調整されていないので、そもそも因果関係は言えず、相関関係です。
✔「介入で体重減少した場合」というのが暴露因子になりますが、「体重減少した」というのは介入の結果なので、体重減少という中間因子で調整されている事になります。
→つまり「食事 vs. 手術」という介入の比較ではありません。
✔nが少なく、かつmultiple comparisonを調整されていません。
おそらく、そもそも研究デザイン的に、この論文が主張しているのは因果関係ではありません。相関関係です。
この結果を基にしたメッセージは、「方法は何にせよ、体重減らせば良い」という感じでしょうか。
そのメカニズムを多角的に解析した論文、と解釈しました。
結論
食事にせよ手術にせよ、体重を減らせば体にたくさん良いことが起こる。
ではまた。