電子タバコは健康に悪そう、と言われてから1年程度が過ぎました。
しかし電子タバコが導入されて数年程度、なかなかエビデンスははっきりしません。
今回紹介する論文は、電子タバコは炎症や酸化ストレスを増やすか、というヒトでの研究。
もし増やすなら、様々な疾患リスクが高くなることを意味します。
電子タバコは炎症や酸化ストレスを増やすか?
タバコは悪いけど電子タバコならちょっとは良いだろう・・・
こう考えられ、流行ったのが電子タバコ(だと思っています)。
しかし昨年、電子タバコは健康に悪いとNew England Journal of Medicineにて報告され、衝撃が走りました(N Engl J Med 2020; 382:903-916)。
→この報告は疫学的な因果関係を示すものではありませんが、電子タバコを原因とするであろう重症な肺疾患をまとめた報告です。
電子タバコが出てきてまだ数年、なかなかエビデンスは確立しません。
一つの理由は、電子タバコを吸う・吸わない、でランダム化することは、倫理的にできないから。
(1年吸えって言われたら、嫌な人は嫌ですよね。僕は嫌です。)
今回紹介する報告は、電子タバコの使用と、血中の炎症・酸化ストレスのバイオマーカーとの関連性をみた報告です(Circulation. 2020;143:00–00)
どういう研究?
The PATH study (Population Assessment of Tobacco and Health)という、アメリカ人のコホートを用いた、cross-sectional studyです。
*アメリカ人を代表するサンプル、というデザインになっています。
<アウトカム>
・2013-2014年に血液検査を行い、様々なバイオマーカーを調べました
→hs-CRP, IL-6, sICAM, Fibrinogen, Urinary 8-isoprostane
<Exposure>
・同時にタバコ/ 電子タバコの使用歴も聴取し、過去30日間の使用について、以下のように参加者を分類しました
→どちらも未使用/ タバコのみ使用/ 電子タバコのみ使用/ 両方使用
これらの関連性をLinear regressionでみました(adjusted geometric mean ratioを計算しました)。
色々な交絡因子で調整しました。
*adjusted geometric meanとは、「その交絡因子のstatusが同じだった時に、今対象としているpopulationで計算される、それぞれのバイオマーカーの平均値」です。
→geometric mean ratio (GMR)とは、geometric meanの比です。1なら同じ。
結果は?
7130人の参加者のうち、
どちらも未使用=58.6%/ タバコのみ使用=29.6%/ 電子タバコのみ使用=1.9%/ 両方使用=9.9%
でした。
タバコのみ使用者と比較した電子タバコのみ使用者のGMRは、
hs-CRP=0.91,
IL-6=0.87,
sICAM=0.88,
Fibrinogen=0.96,
Urinary 8-isoprostane=0.82
でした。
→つまり電子タバコのみ使用者の方が、タバコのみ使用者と比較し、それぞれのバイオマーカーの値が低かった、ということです。
タバコのみ使用者とタバコ+電子タバコ使用者の比較では、GMRはだいたい1でした。
解釈は?
タバコを吸っている人の方が、電子タバコを吸っている人より、炎症と酸化ストレスのバイオマーカーの値が高い
という結果でした。
電子タバコに関するエビデンスが殆どないので貴重な報告ですが、
まあ、なんとも言えません。
✔電子タバコを吸っている人が少なすぎます
✔cross-sectional studyなので、「電子タバコを吸っているから」という因果関係は言えません
→時系列が不明だからです
✔例えばreverse causationが否定できません
→色々生活習慣が悪くて炎症のバイオマーカーが高いから、タバコを電子タバコに(せめて)変えた、ということです
✔dose-dependencyも調査されていません(pack-yearなど)
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世界の流れとしては、電子タバコの方がタバコよりは健康に良い、ということだと思います。
だから、禁煙できないまでも、電子タバコに置換したほうがよい、と。
実際それを否定する結果ではありませんでした。
でも本当のところは、まだ誰もわかりません。
結論
電子タバコuserはタバコuserに比較すると炎症・酸化ストレスのバイオマーカー値が低かった。
しかし因果関係は不明。
ではまた。