待機的PCI: FFRガイダンスは死亡率を下げる?!

「安定狭心症に対する待機的PCIは意味あるのか?」という議論は有名ですが、

「安定狭心症のPCI適応はFFRで決めるべきか?」という議論もあります。

そりゃあFFR使ったほうが良いに越したことはないですが、未だにアンギオガイド(細いからPCIする)人が世界中に多いわけです。

なんと、FFRガイドとした方が死亡率が低くなるかも!?という論文です。

 

*「見た目の細さで治療方針を決める vs. FFRという詳細な検査法で治療方針を決める」という比較でどちらがカテーテル治療後の死亡率が低いか、という話です。

→完全に循環器内科向けの記事のように見えるかもしれませんが、議論していることは単純。

→しっかり検査して治療方針を立てるべきか、適当でよいか、という違いです。

 

待機的PCI: FFRガイダンスは死亡率を下げる?!

待機的PCI: FFRガイダンスは死亡率を下げる

安定狭心症に対するPCIの議論は色んな研究がありすぎて、わけわからなくなってきていますね。

ここで一度整理しましょう。

 

★そもそも安定狭心症にPCIするべきか?

PCI vs. 薬物治療、という議論です。

この比較では、予後は変わらない、というのがコンセンサスです。

一部に(私含め)「ある条件を満たす(重症な)安定狭心症に対しては、PCIにより予後がよくなるかもしれない」と信じている人はいますが、証明されていません。

 

じゃあなんでPCIという治療法がオプションになるの?というと、狭心症症状緩和のためです。薬物治療で症状が抑えきれない場合、PCIの適応になります。

→しかし、主治医がそう厳密に決めず、とりあえず冠動脈が細いからという理由でPCIが行われすぎている現状があります。

 

★FFRを用いてPCIの治療方針を決めるべきか?

アンギオガイド vs FFRガイド、という議論です。

アンギオガイドというのは、見た目の細さを意味します。

FFRガイドは、その細さにより血液量が落ちているか(本当は量でなく圧力ですが)、という評価を意味します。

そりゃあFFRガイドの方が良いだろう、と常識的に思うのですが、FFR検査をするのは面倒なのでアンギオガイドでPCIを行う病院も多いです(昔は全部アンギオガイドでした)。

 

 

いや待てと。

そもそもPCIやるのは「症状の有無」で決めるんだから、アンギオとかFFRとか関係ないんじゃないの?

と思われる方、そのとおりです。これには2つの側面があります。

1) 薬で良くならない症状があって冠動脈に細い所があるけど、それが原因か分からない場合

→この場合は、その細い部分が悪さをしているか判断する必要があります

→その指標の一つがFFRです

(でもFFR以外にも色々あるんですが)

 

2) 冠動脈にとりあえず細い所がある場合

→本来ならまずは薬物治療なのですが、歴史的には「細いところは広げておく=PCI治療する」という治療方法が取られてきました

→それだとPCIやりすぎる事になります

PCI適応とする前に、「その細さが悪さをしているか、少なくとも判断しよう」という流れになってきました

→その一つがFFR。

 

 

今日紹介する論文は、後者の「アンギオガイド vs. FFRガイド」です。

FFRガイドにしたほうが良さそうなのは明らかなんですが(ガイドラインでも推奨されていますが)、死亡率に差が出るかどうかは不明でした。

多くの症例を集めて長期間フォローすることで、それを初めて検討した研究です。

 

 

どういう研究?

SCAARというスウェーデンのデータベースを用いた研究です。

これはスウェーデンのほぼ全てのPCI情報がプールされている、巨大データベースです。

日本にも(どの国にも)同様のものはありますが、SCAARの特徴は、

・詳細な患者情報があること

・予後の情報があること

です。

なぜ予後の情報があるかというと、スウェーデンには一人ひとりに番号が振られ健康データが国単位で管理されており、そのデータベースとSCAARを組み合わせることができるからです。

→予後の情報があるため、本論文のような解析が可能です

 

*このデータベースの更に凄い所は、FFRの値やPCIの詳細のデータも使えることです。かなり貴重なデータといえます。

 

結局、

2005年〜2016年の間に安定狭心症患者でPCIが行われた人の中から、

手技中にIVUSやOCTを使用された患者(4498人)を除外し

FFRガイド:3367人

アンギオガイド:20493人

が解析対象となりました。

 

*これ日本では考えられない集団です。

→まずIVUSやOCTを使わない人がほとんどだということ(日本では普通使います)。

→また、FFRを測っている患者がかなり少ないということ。

→2005年からのデータベースなので一部しょうがないですが、平均的にみて、ちょっと適当に診断・治療しているな、という印象です。

 

 

ただし、この2群の比較はフェアでないので、患者情報を用いて傾向スコアマッチングを行っています。

・何の変数を傾向スコアモデルに使ったか

→「FFRガイド」をアウトカムとしてロジスティック回帰で有意になった変数を使った

→ステント数や治療されたセグメントの数はMediatorの可能性があるから、除外された

ということでした。

*しかし論文をみても、何の因子で調整されたかが不明です!!かなり重要なことなのですが。

しかも記載をいる限り、Mediatorとしてもおかしくない因子で調整されている可能性があります。

→本来は複数のモデルを作って感度分析すべきです。

 

・感度分析として、IPWとIV analysisを行っています。

→Instrumentは「FFRが好きな病院」としています(FFR件数により病院をquintileに分けた変数)

(IV analysisについてはここで解説しています)

 

 

結果は・・・FFRガイドは死亡率低かった!

フォロー期間は中央値で

・アンギオガイド:5.1年

・FFRガイド:3.9年

 

PS match後のCOX proportional modelにて、死亡のハザード比は0.81 (05%CI: 0.73, 0.89)でした。

ちなみに1年後の死亡率は差がありませんでした。

IPWの結果も同じくらい。

IV analysisではハザード比0.67 (95%CI: 0.43, 0.86)でした。

 

 

解釈は?

FFRガイドはアンギオガイドと比べて死亡率が低くなる、  と言いたい所ですが、そう言い切れない

FFRガイドはアンギオガイドと比べて死亡率が低くなる、

と言いたい所ですが、そう言い切れない、4つ重要なポイントがあります。

 

*かなり大規模かつ詳細なデータベースを使い、色々な解析をしたというのはかなり貴重なことです。また、アンギオガイドよりFFRガイドが良いことは明らかで、メッセージ性も十分です。その上で、疫学的な観点でいくつかlimitationがあるという意味です。

 

①結局何の因子で調整されたか分からない

(RCTでなく)観察研究で因果関係を言うときは、何という交絡因子で調整するかが最も重要なポイントです。これが明記されていないのはいただけません。

→また、交絡因子はlogicalに決めるべき(統計の結果で決めるべきでない)とされています(この記事参照

…まあはっきりとはわからないので、Mediatorを抜いて統計的に決めたというのは次善の策ではあります

 

さらにいくつか以下のようなポイントがあります:

・「FFRやるかやらないか」と「死亡」という交絡因子は、血管の解剖・性質がとても重要です。例えば蛇行している血管や石灰化の強い血管。これらは必ず調整されなければなりません。

・また、「虚血の程度」はかなり重要な因子です。これで調整されない限りはフェアな比較とはなりえません。

・更に、総じてPCIの手技がFFRガイドで良い感じです(DESが多かったり、radial accessが多かったり)。これらは完全に調整されるべきです。

・スタチンや抗血小板薬で調整されていません。そこまでの情報がなかったんだと思いますが、少なくともスタチンはかなり強力にイベントを抑制するので、調整されるべきです。

 

*ちなみにPS matchを使う理由はありません。不必要なselection biasにつながります(この記事参照)。普通の多変量COXモデルの結果がみたいです。

 

②FFRが高すぎる

FFR≤0.80の血管が、なんと82.6%しかありません。FFRガイドというのは、FFR≤0.80に対してPCIを行うという意味です

→つまりこの研究のFFR群は、FFRガイドPCI群とは言えません

*FFRの良い血管にPCIをしても、ほとんどイベントは起きません。つまりFFRガイドPCI群の予後が良い方に過大評価されます。

 

③結局なぜFFRガイドが死亡を減らすかわからない

・この理由がわからない以上、単にFFRガイドにより健康な患者が多かったんじゃないか、ということを観察研究では否定できません。

→結局20%弱しかFFRされていないわけで、FFR測定しやすい血管が選ばれているのは間違い有りません。

 

*PCI vs. 薬物治療、という比較なら、かなり虚血を起こすような病変をPCIで広げてあげることで心筋梗塞の予防につながったと推察されますが、この研究の比較は「どっちもPCIを行った症例」です

→PCIにより恩恵を受ける可能性の高い血管(flowやCFRを測定することで推定できるかもしれません)がFFR群に多かったのかもしれません(この記事参照)。いずれにせよ証明はできませんが。

 

④FFRガイドの方が丁寧にPCIやるだろう

・アンギオガイドは一番適当なPCIになります。IVUSすら使ってないわけだし。

そんな中、FFRガイドを行うなんて、本当に選ばれたPCIです

→丁寧に治療されている可能性があります(例えばPCI後のFFR測定して、その結果に応じて更に治療を加えたりです)

 

 

結局上記のような複雑な要因があるので、観察研究ではフェアな比較にはなりえないということです。

つまりRCTしかありません。

 

でも、本当にFFRガイドPCIがアンギオガイドと比較して死亡率下げるかは別として、FFRガイドの方がよいことは誰の目にも明らかなわけです。

このご時世でアンギオガイドは止めたほうが良いです。

 

 

結論

色んなlimitationがあってはっきりは言えない。

でもFFRガイドの方がアンギオガイドよりよい。

ではまた。

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