アメリカに住んでみて、日本は拳銃なくて本当に良い国だと思う事があります。
ただそれは漠然とした感想で、拳銃賛成派の人もかなり多数います。自己防衛の手段として。
でも、拳銃を使った自殺のリスクについて考えたことはありますか?
拳銃以外の自殺は、実は致死率が低いんです。拳銃だとほぼ100%。
この記事では、拳銃と自殺の関連性について最新の報告を紹介します。
拳銃もってると自殺率高くなるの?
自殺は大抵衝動的なものです。
そして大抵未遂に終わり、その後も自殺を完遂する可能性は少ないのです。
でも拳銃は別。ほぼ100%死に至ります。
アメリカでは特に多く、自殺の内3/4が拳銃によるものです。
拳銃擁護派も多数おり、彼らの主張は例えば「拳銃により自殺が増えるという因果関係は証明されていない」というものです。
今までこれに着目した研究は多数行われてきたのですが、確かにlimitationが多く、因果関係は言えていませんでした(小規模だったり昔のデータを使っていたり)。
今回紹介する研究は、カリフォルニア在住の2600万人を2004年〜2016年追跡した大規模データの解析です。
方法は?
カリフォルニアの死亡者データベースと拳銃データベースを結合して解析しました。
カリフォルニアに在住している2004年〜2016年が観察期間で、
・観察期間前に拳銃を買った履歴にある人
・21歳未満の人(拳銃購買可能な年齢)
・誕生日や住所不定の人
を除外しました。
*つまり「拳銃買ったことのない人vs. 新しく拳銃を買った人」という比較です
メインの解析はCOX proportional modelで
・全死亡/ 自殺/ 拳銃による自殺 のそれぞれをアウトカム
・年齢、性別、人種、長銃をもっているか、という因子で調整
したものです。
感度分析が面白く、2種類行われています。
1: Negative control outcome analysis
• 同じモデルだけどアウトカムが肺がん・心内膜炎・アルコール性肝障害としたものを検証しました
(それぞれ自殺のリスクとして確立している)
→これらのアウトカムは喫煙、ドラッグ、アルコールという明らかな交絡因子と強く関連する
...本当はこれら交絡因子で調整したいが、この情報は使えない(unmeasured confounders)
→拳銃所持とこれらのアウトカムに関連がなければ、これらによるconfoundingはminimalだといえる
2: E-valueを用いたUnmeasured confounderの評価(詳細こちら)
結果・・・拳銃を買うことで、、
2600万人が対象になり、平均6.9年の追跡期間となりました。
68万人(2.6%)がその期間のうち、1つ以上の拳銃を購入しました。
彼らをhandgun ownersと定義しました。
handgun ownersは若年、白人男性で都会以外に住んでいる人が多かったです。
この間146万人が死亡、その内1.8万人が自殺、6700人が拳銃による自殺でした。
・handgun ownersの自殺のうち89%が拳銃を使っており、
・non-ownersの自殺のうち33%が拳銃を使っていました。
メインの解析:銃所持→→自殺リスク
COXモデルの結果は:
(handgun ownersのnon-ownersに対するハザード比)
・全死亡:ハザード比0.80 (95%CI: 0.79, 0.82)
...銃所持者の方が低いという結果ですが、これの解釈は後述します
・自殺:ハザード比3.67 (95%CI: 3.46, 3.89)
...高いですね。
・拳銃による自殺:ハザード比9.08 (95%CI: 8.48, 9.73)
...さらに高い。
ちなみに女性においては、拳銃による自殺のハザード比35.15 (95%CI: 29.56, 41.79)でした。
(高すぎるやろ・・・)
*全死亡がhandgun ownerで低い結果となっていますが、これを「拳銃によるprotective effect」と考えるのは短絡的です
→データ上は、癌や心疾患による死亡率が低かったとされています(データはなし)
→理由は2つ考えられます:
・拳銃屋で銃を買うためには、それなりの健康(普通に社会生活を送れる見た目)が必要です
・拳銃は高額なので、買える人は裕福=相対的に健康な可能性が高い
買って直後がヤバい
カリフォルニアでは、拳銃を買ってから所持するまで10日待たねばなりません。
handgun ownersの中で拳銃による自殺をした人は、
・この10日間の内は1人
・所持したその日では9人
・所持してから最初の週で102人
・所持してから1ヶ月で172人(これは全体の14%にあたる)
*最初の1ヶ月間での調整済みハザード比は、なんと100.1 (95%CI: 55.75, 179.9)
...こんな数字見たことないですね。
感度分析の結果は?
handgun ownersはnon-ownersと比較し、
・アルコール性肝障害のよる死亡:ハザード比0.83 (95%CI: 0.72, 0.95)
・肺がんによる死亡:ハザード比0.86 (95%CI: 0.79, 0.93)
・心内膜炎による死亡:ハザード比1.60 (95%CI: 0.93, 2.76)
→アルコール性肝障害と肺がんはhandgun ownersに少ないので、ownersに自殺が多いという理由にならない、ということです
→心内膜炎はhandgun ownersに多いが、p<0.05で有意な関連性ではない
・E-valueは全体で6.80, 男性で6.14, 女性で13.8でした
→拳銃所持と自殺それぞれにハザード比6.80で関わる(ほどめちゃくちゃ強い)unmeasured confounderがなければ、「拳銃所持により自殺が増える」という因果関係は逆転しない、という意味です。
(心内膜炎のハザード比は1.60でしたね。これだと弱い。)
*E-valueの解釈についてはこちら
解釈は?
拳銃を買うことにより自殺リスクが増える、という因果関係を証明しようとしていますが、
因果関係と結論することは、やはりなかなかできません。
<良い点>
✔かなり大規模なコホート研究で、今までの研究よりは良いです
・今までは症例対照研究が多く、特に思い出しバイアスが強かった問題がありました
...自殺した方ほど拳銃のアクセスがあった、と考えられるケースが多いですよね
→これはコホート研究なので、思い出しバイアスはありません。
・また、症例対照研究は経時的な変化を捉えにくいです
→「最初の1ヶ月が危ない」といったメッセージを科学的に出せたのはこの研究の強みです
✔交絡因子に対するつっこんだ解析をしています
・国や州のデータベースを使う限り、既往歴などの詳細な情報がとれず、十分に交絡因子のコントロールができません
→この研究では、2種類の感度分析を行っており、今までの研究より信頼性が高いです。
<Limitation>
✔交絡因子の調整が当然十分でない。
・E-valueは高く、それほど強いunmeasured confounderがないと関連の方向は逆転しないということだが、これは一つのunmeasured confounderについて言及しているのみ
→精神疾患、社会的地位、家庭環境など多くのunmeasured confounderがあるのは明らか
→多数のunmeasured confounderについてE-valueが示唆する所はない
✔「何が原因なのか」が重要な視点。
→「銃を買える環境」が自殺の原因だ、と論文では主張していますが、自殺の原因は「自殺したい」という意図です
→銃を買った直後の自殺率が高いのは、reverse causationだと考えられます
*reverse causationとは、「銃を買う」ということは実は原因でなく結果だ、ということです。
BMIの記事でわかりやすく解説しています。
それでも銃を簡単に買えてしまう環境がよくない、という主張については一理ありますが、それはこの研究で直接的な因果関係としては示されていません。
→つまり、銃による自殺が致死率が高いという事実をベースとした意見です。
論文で言及されている他のLimitationは、以下のようなものがあります:
・違法に購入した拳銃についてはわからない(自殺をする人は正規のルートでない所で銃を所持しているかもしれない)
・拳銃を購入した「家庭」への影響、という観点はない
・カリフォルニア以外についてgeneralizableかは不明
→購入のプロセスも違うし、小丹生後10日間待つのもカリフォルニアだけ
→他の国では当然状況は異なる
・明らかにProportional hazardというCOXモデルを使うためのassumptionがviolateしてる(後日解説します)
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でも銃は無いほうが良いですね。
論文の最後の段落が印象的でした。
“ラスベガスの銃による無差別殺人で59人が死んだ。アメリカでは、毎日それくらいの人が銃で自殺している。多くの場合、それを防ぐことができる。
銃を手にすることのできる環境は、自殺の大きなリスクなのだ。医療従事者と政策に関わる人はこれを意識するべきだ。
今銃を所持している人も、この情報を基にリスクとベネフィットを判断するべきだ。“
(一部意訳しています)
結論
銃は良くない。
ではまた。