PCIとは、狭心症や心筋梗塞に対し、血管の中にステントを入れるカテーテル治療です。
でもせっかくステントを入れても、一定の確率で再狭窄=また狭くなってしまい、またPCIが必要になります。
そのPCIの戦術は「ステントを重ねて入れる」「バルーン拡張のみとする」と主に2種類あります。
どちらが良いか、という最新の報告を紹介します。
*完全に循環器のトピックですが、専門外の方も、臨床研究の批判的吟味という点で参考になるかと信じています。
PCI:冠動脈再狭窄のベターな治療法は?
薬剤溶出性ステント(DES)が10年以上前に出てきてから、再狭窄の率はかなり減りました。
薬剤溶出性というのがポイントで、これによって冠動脈内の細胞増殖を抑制し、再狭窄を減らします。
が、今でも一定の確率では生じます。
また、昔埋め込まれた薬剤溶出性でないステント(BMS)は、高確率で再狭窄をきたします。
その治療をどうするか、循環器内科医にとっては大きなトピックです。
具体的には、
・薬剤溶出性ステント(DES)を重ねるようにして追加して入れる
・薬剤溶出性バルーン(DCB)で広げる
という2通りの戦略があります。
ステント重ねていくとガチガチになってしまい、よくない部分があります。
薬剤溶出性バルーンというのは、ステントを重ねず、しかししっかり内側に薬剤を塗る、という類の、比較的新しい治療です。
最近の施設ではDCBを使うことが多いかもしれませんが、どちらが良いか、今まではっきりとしていませんでした。
RCTはたくさん発表されていたのですが、対象集団が違ったり患者数が少なかったりでした。
これを検討したのが、最近発表されたランダム化試験のメタ解析です(JACC 2020 10.1016/j.jacc.2020.04.006)。
どんな研究?
「ステント内再狭窄に対するDCB vs DES」という10個のRCTのindividual patient dataを集めたメタ解析です。
もとのステントが
・BMS:724病変
・DES:1338病変
でした。
✔安定狭心症患者がだいたい57-65%程度。
✔LAD病変が40-45%程度。
✔狭窄率が70%弱(けっこうきつい病変)
でした。
アウトカムは、「再狭窄の治療を行った病変が、また狭窄して治療(PCIか手術)が必要になった場合」です。TLRと言います。
1年間以上フォローした研究が対象となっており、3年間のフォローとしての結果が公表されています。
結果は・・・DES狭窄にはDESか??
DESと比較したDCBの成績は、
・BMSによる再狭窄に対してはハザード比0.78 (95%CI: 0.46-1.32):有意差なし
・DESによる再狭窄に対してはハザード比1.74 (95%CI: 1.24-2.45):DCBが悪い
でした。
*この解析はrandom effectを用いたメタ解析で、かつ交絡因子で調整しています。
RCTなのに交絡因子で調整するの?と疑問に思う方。いつか解説しますが、よく使われる手法です。
メタ解析の方法論についてはこちらの記事でわかりやすく解説しています。
他に色々なsecondary endpoint(心筋梗塞や死亡など)も検討していますが、ほぼ有意な違いは認められませんでした。
* safetyを検討したりBMS-ISR vs DES-ISRを比べたりして、論文の内容はかなりややこしくなっていますが、メインのメッセージは上述の通りです。
解釈は?
DESの再狭窄にはDES、と言いたい所ですが、いくつか注意点があります。
ここが批判的吟味、本記事で伝えたいポイントです。
①DCBの効果を十分に発揮するには、その前に十分拡張しておくことが必須です。DCBは柔らかいバルーンなので、拡張効果が期待できないからです(DES治療については、全拡張は必須ではありません)。
→しかし、DESの再狭窄のDCB群の内8%がこの前拡張を行っていません。
→なんで?
→前拡張はDCBやる前提なので、DESとのfairな比較になっていない可能性があります
②DESの再狭窄において、ステントエッジの狭窄がDCB群で24名多いです(28.5% vs 25.9%)。
→小さい差に思われるかもしれませんが、エッジ病変をDCBでしっかり治療するのはかなり難しいです。
→バルーンが(もとの)ステント外にはみ出ないと、全病変をカバーして治療できないからです
→はみ出たら、そこは「内膜が破綻しているのにステントがない部分」となってしまい、再狭窄の強いリスクとなります
→よって、この24人がDCB群のTLRに寄与している可能性が高いです
上記の2点が「DES再狭窄に対してDCBの効果が不利になっている(過小評価されている)ポイント」ですが、それとは別の視点ですが:
③アウトカムのTLRって妥当なの?という疑問です
→中身をみると、ischemia-driven TLRが主な差になっています。
→これはつまり再狭窄による安定狭心症を意味しており、そのPCI適応はほぼ主治医の判断によって決まります。
→客観的な指標とは言えません。
※しかもdouble-blindでないので、主治医が治療内容を知っています。
→「DESの再狭窄に対してはDCBよりDESがいいだろう」と思っている医者がこういたtrialを主導している場合、彼らはDCBにより治療された患者を再度PCIする方向に誘導してしまうバイアスが有りえます
④さらに、DES再狭窄患者での「心臓病による死亡」というアウトカムは、DCB群で2%、DES群で4.3%とDES群に多く、ハザード比は0.46 (p=0.06)です。
→p値有意ではありませんが、イベント数が合わせて27人しかおらず、明らかにunderpowerです
...underpowerということは、「関連がないという結果だから実際関連がない」とは言えない、ということです
→むしろ傾向は強く、参加者を増やすと「DCBの方が心臓病による死亡が少ない」という結果になる気がします。
⑤最後に、再狭窄となる患者は再狭窄を繰り返す事があります。
→ステントを何重にも入れまくることは、解決にならないケースがあります
→この研究では、再狭窄の回数(というか、再狭窄を繰り返す体質)について示唆を与えるものではありません
よって、この研究から「DESの再狭窄にはDESがいい」とは言えないと(私は)判断しています。
*ちなみに、BMSの再狭窄についてはDCBとDESどっちでも良い、ということは言えそうです。
結論
貴重なデータを使った研究だが、論文が主張している「DESの再狭窄にはDESがよい」とは自信をもって言える結果ではなさそう。
BMSの再狭窄にはどちらでも良さそう。
ではまた。