心血管病は、命に関わる、生活習慣病の最たる例です。
しかし生活習慣だけでなく、遺伝子であったり生活環境や社会的要因も心血管病の原因だと、多くの研究で示されています。
実際「生活習慣」が原因に占める割合はどれくらいか。
これを検証した研究を紹介します。
生活習慣、心血管病の何割くらいの原因か?
よく医療現場では、生活習慣5割、遺伝要因5割、みたいな説明が行われることがあります。
大体の方向性としては合っているかもしれませんが、全く厳密ではありません。
(そもそも社会的要因や環境などの因子を無視しています)
実際、生活習慣が心血管病の原因として、どれくらい寄与していると思いますか?
今回は、アメリカ人女性において、これを検証した研究を紹介します(J Am Coll Cardiol. 2015;65(1):43-51.)。
Population attributable risk(PAR)という指標で検討した研究です。
少し古いですが、面白いので紹介します。
*この理解には、Attributable fractionの理解が必要です。
Attributable fractionの解説はこちらの記事にて。
どういう研究?
Nurses Health Study IIという、11万人程度のアメリカ人看護師を対象としたコホートを用いています。
Baselineの年齢は25-42歳、20年間のフォローが行われています。
PARとは、
「この集団で、もし全員その暴露因子がなかったと仮定したら、何%くらい心血管病となる人は少なかったか」
という指標です。
✔暴露因子は6つの項目を0-1で定義しました(それぞれ左が「よい生活習慣」です):
・喫煙:現在喫煙なし vs その他
・運動:週2.5時間以上の中程度以上の運動あり vs なし
・テレビ:週7時間未満の視聴 vs 7時間以上
・BMI:18.5~24.9 vs それ以外
・アルコール:1日0.1~14.9g vs それ以外
・食事:AHEIというスコアが全体の上40% vs それ以外
✔アウトカムは心血管病の発症。
✔PARを計算するために、Pooled logistic regressionという方法を用いています。
簡単に言うと:
・exposureの情報は、約2年おきに更新されていきます
→その2年のインターバルでのアウトカム発症とexposureの関連性(ハザード比)を、logistic regressionで求めます
...色々な交絡因子で調整しています
→実際は「2年ごと」の時系列データ解析を行います
...「暴露因子あり/なし」の情報は次の2年間にのみ適応され、経時的にUpdateされます
*この方法の弱点は、「2年のインターバルのどこでアウトカムが発症したか」という情報をモデルに組み込む事ができないこと。
結果は?
心血管病を発症したのは計456人。
PARはそれぞれ:
・喫煙:19.2%
・運動:20%
・テレビ:有意でない
・BMI:22.9%
・アルコール:12.6%
・食事:19.5%
・「以上6つの良い生活習慣があること」:72.7%
でした。
解釈は?
因果関係として考えれば、喫煙・運動・BMI・アルコール・食事という因子は心血管病発症に10~20%くらいの原因として考えられた。
もしこの集団の全員が「良い生活習慣」があったら、心血管病発症数は70%以上少なかっただろう、という解釈。
PARはこういう解釈ですが、いくつか注意点があります。
✔因果関係として考えることは、観察研究なので基本的にはできない
・これは根本的なのですが、観察研究である以上、いくら頑張って交絡因子を調整しても因果関係とは結論できません。
→しかし、これは観察研究でしか求められず、かつできる限りの解析をしており、これ以上質を求めるのは無理です
✔アメリカ人の若年看護師という集団である
→「この集団において」という解釈なので、他の集団には一般化できません。
→特に男性や他の国の女性には。
✔暴露因子を単純化しすぎています
・これはしょうがないですが、PARは暴露因子を0-1とカテゴリ化しないと計算できないためです
(実際の論文では、dichotomizeせず、PAR以外の解析もしています。)
ただ、こういう情報は面白いですよね。
若年女性については、生活習慣が、心血管病予防にとても大事であることを言っています。
結論
アメリカ人の若年ナースにおいて、生活習慣は心血管病発症に非常に大きな寄与をしている。
ではまた。