メンタルが弱い、精神疾患があると病気にかかりやすいと言われています。
周りを見ても、そういう感じがないでしょうか。
でも具体的に、どんなタイプのメンタルがどんな病気にかかりやすいか。
これを調べた超大規模な研究が発表されたので、ここで解説します。
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メンタルが弱いとどんな病気になりやすいか?
メンタルが弱い=mental disorderには色んな種類があります。
パーソナリティ障害、発達障害、異食症、薬物依存、統合失調症・・・
それぞれがどんな病気のリスクになるか、はっきりさせることは重要です。
紹介する論文は、デンマークの約600万人を対象とした報告です(N Engl J Med 2020;382:1721-31.)。
対象集団の年齢は中央値で32歳、このうち12%が何らかのmental disorderと診断されました。
約16年フォローされました。
そして「精神疾患ある人 vs ない人」で、どんな病気を発症したか、COX proportional hazard modelで関連性を調べました。
*モデルは年齢、性別、カレンダータイム、他の精神疾患で調整されています。
明らかに調整因子が少なく、因果関係を言っているわけでないことに注意しましょう(因果関係についてはこちら)
結果は?
精神疾患の種類に分けて説明します。
<器質的精神疾患>
脳梗塞など何らかの原因による精神疾患です。
・心血管病、肺疾患、血液疾患のリスクは高く(HR1.2程度)
・癌と神経疾患のリスクは低い(HR0.8程度)
結果となりました。
*癌のリスクが低くなるという意味ではないです
→他の病気になりやすく+それによる致死率が高いため、相対的に癌のリスクが低くみえる、ということかと思います。
<薬物依存>
・心血管病、内分泌疾患、肺疾患、泌尿器疾患、筋骨格系疾患、癌、神経疾患はそれなりの高リスク(HR1.5-2程度)
・消化器疾患と血液疾患はかなり高リスク(HR2.5-3)
となりました。
実際、よく消化管出血や肝疾患を有している印象があります。
<統合失調症>
・心血管病、内分泌疾患、肺疾患、消化器疾患、泌尿器疾患、血液疾患はそれなりの高リスク(HR 1.5-2程度)
・筋骨格系疾患は若干低いリスク(HR0.9程度)
と関連しました。
特にやや高齢の統合失調症の方は、心筋梗塞のリスクが高いと昔から言われており、それなりに経験しています。
<気分障害>
鬱や躁鬱病を含みます。
・癌以外のあらゆる疾患がやや高いリスク(HR1.5-2程度)
と関連しました。
癌がそれほど関連性がないのは意外でした。
後に紹介するreverse causationによる関連性が出てもおかしくないのに。解釈不能です。
<不安障害>
強迫性障害やパニック障害を含みます。
・癌以外がやや高いリスク(HR1.5-2程度)
・癌は若干の高リスク(HR1.2程度)
と関連しました。
おそらく不安障害の方はかなり血圧が上がりやすいので、それが一部原因になっている気がします。
<摂食障害>
むちゃ食い障害や神経性食思不振症を含みます。
・心血管病、内分泌疾患、肺疾患、消化器疾患、癌、神経疾患はやや高いリスク(HR1.5-2程度)
・泌尿器疾患、筋骨格系疾患、血液疾患は高いリスク(HR2.5-4)
と関連しました。
特に神経因性食思不振症は色々な疾患との関連が昔から言われています。
むちゃ食いは、日本の内科診療ではあまり目にすることがない印象です。
<パーソナリティ障害>
気分障害と同じようなリスクの上昇でした。
気分障害と、そもそも区別がつきにくいとも思います(素人考えですが)。
<知的障害>
・癌以外の疾患で若干の高リスク(HR1.5程度)
・血液疾患と神経疾患は高リスク(HR2-2.5)
と関連しました。
神経疾患は原因な気もしますが、詳細は不明です。
<発達障害>
・心血管病、内分泌疾患、筋骨格系疾患、血液疾患、神経疾患のやや高リスク(HR1.5-2程度)と関連しました。
<行動障害>
・癌以外のやや高リスク(HR1.5-2程度)
と関連しました。
解釈は?
メンタルの病気があると、様々な病気になりやすい。
なりやすい病気は精神疾患の種類による。
ということでしょう。
*注意すべきは、これらは因果関係とは言い切れない点です。
モデルが年齢、性別、時間、精神疾患でしか調整されていません。
例えば精神疾患の方は喫煙率が高く、喫煙は心血管病の原因となる。
このように喫煙や他の生活習慣という因子で調整されていない以上、因果関係(精神疾患のせいで心血管病になった)とは言えません。
*アウトカムの病気と精神疾患の因果関係が逆の場合もありうる点は重要です。
癌だから、神経疾患だから鬱になっているのかもしれません。
疫学用語ではreverse causationといいます。
その他にも、たくさんlimitationがあります。
でも少なくとも、精神疾患がある方はその後に何らか他の病気になりやすいとは言えます。
これを超大規模のコホートで確かめた、デンマークの研究というわけでした。
結論
やはり精神疾患があると他の病気になりやすい。
どんな病気になりやすいかは、精神疾患の種類による。
ではまた。