狭心症って心臓の血管が狭い、というイメージがあると思います。
それは実は、正しい概念ではありません。
明らかに冠動脈に狭窄がなくとも、狭心症となります。なんと半分くらい。
そして実はその中にも亜型があると言われています。
この記事では、なんでそのような病気が生じるのか説明し、これに関する最新研究を紹介します。
*安定(労作性)狭心症についての記事です。狭心症とは?はこの記事で。
冠動脈が狭くなくても狭心症になるって知ってる?
狭心症といって循環器内科に紹介されてくる、ほぼ50%の患者は、冠動脈に明らかな狭窄がないとされています。
でも運動すると胸が痛くなる。
一昔前なら、「狭心症じゃないですね」といって帰されていたのですが、今やそれもれっきとした病気であることが示されてきています。
Microvascular Anginaです。
心臓の血管は、冠動脈造影やCTで見える太いものだけではありません。
太い(造影で目に見える)冠動脈をepicardialの冠動脈、と言ったりしますが、epicardialに狭窄があるのが典型的な狭心症ですね。
でもepicardialに問題なくとも、その末梢、microvascularに問題があるケースがあります。
具体的には、microvascularのせいで血流が阻害されている状態。
言い方を変えれば、microvascularの抵抗(microvascular resistance)が上がった状態。
これをmicrovascular dysfunction、microvascular anginaとか言ったりします。
こういう病気があることは広く知られていますが、実は定義がはっきりしていません。
なぜなら、microvascular resistanceを測定・解釈することが難しいから。ホットな研究分野です。
具体的にどうやって病気をみつけるか、気になりませんか?
Coronary flow reserveという概念
運動すると心臓(冠動脈)の血流量が増えますよね。
心臓が早く、強く動くので、それに見合う血流が必要だからです。
でも冠動脈に血流循環の障害があると、十分が血流が得られない。
だから運動時に血流が足りない状態=虚血となり、胸が痛くなる。
これが狭心症の病態です。
つまり、epicardialに狭窄があるかどうかに関わらず、「運動(など心臓が頑張る状態)で心臓の血流がちゃんと増えるか」が重要なことがわかります。
定量的に言えば、運動時の血流と安静時の血流の比が十分にあること。
この「運動時の血流÷安静時の血流」がCoronary flow reserve (CFR)という概念です。
CFRが十分に大きければ、運動しても十分に血流が心臓に供給されるということ。
逆にCFRが低ければ、心臓への血流が運動時に足りない。
こういう意味です。
どれくらいでCFRが低いとみなされるか。カットオフは決まってないのですが、だいたい2.0未満=CFRが低い、とされることが多いです。
epicardialに狭窄があってもなくても、CFRは低くなりえます。
そもそも「epicardialに狭窄がある」ということをどのように定量的に示すか、また問題となってしまいますが。
*多くはFractional flow reserve (FFR)という概念で表します
ここで議論したいのは、epicardialに狭窄がない(FFRが陰性)なのに、CFRが低い場合。
これが一応、一番支持されているmicrovascular anginaの概念です。
*ちなみに、私はepicardialに狭窄がありCFRが低い場合についての研究を専門にやっています。
なんでCFRが低くなるの?
じゃあ、なんでCFRが低くなるのか、という話です。
これは「microvascular dysfunctionがあるから」なのですが、これを説明します。
血流量は圧力÷抵抗で決まりますよね。
ここでいう圧力は、血圧と考えておいてよいです。具体的には、冠動脈の入り口の血圧です。
今はepicardialに狭窄がないことを前提としているので、抵抗はmicrovascularで生じます(microvascular resistance)。
このmicrovascular resistanceが高いと、血流量が下がるというわけです。
でも、CFRは「運動時 vs 安静時」でしたね。
つまり運動時のmicrovascular resistanceと安静時のmicrovascular resistanceという2つを評価する必要があるわけです。
つまりCFRが下がる状況は、
・運動時のmicrovascular resistanceが高い=運動時の血流量が少ない
・安静時のmicrovascular resistanceが低い=安静時の血流量が多い
という2つのタイプに分けられます。
話せばもっと面白い事があるのですが・・・とりあえずここまでにしておきます。
最新研究:カテ室で運動させた
さあ、microvascular anginaの概念がおわかり頂けたと思いますが、一つ重要な疑問が残っています。
どうやってCFRやmicrovascular resistanceを測るか。
これはかなり深い領域なのですが、一つのポイントは
・冠動脈の血流を測るなら、冠動脈に血流を測れるワイヤーを入れる必要がある=カテーテル検査を行う必要がある点
・もしワイヤーを冠動脈にいれるなら、どうやって運動負荷をさせるかという問題
にあります。
普通ワイヤーを入れたまま運動させるのは不可能だと思うので、ATPという薬剤で運動の代わりに心臓負荷を行っていました。
ATPは血管拡張薬なので、単純に心臓に流れる血流量が増えるためです。
でも、「心臓がより動くために必要だから血液量を増やす」という運動とは全く異なる機序ですね。そこにlimitationがありました。
最新の研究は、「ワイヤーを体内に入れたまま患者を運動させてみた」というものです(J Am Coll Cardiol 2020;75:2538–49)。
そんなことできるの?と思う方。
患者さんは当然仰向けに寝てカテーテル検査を受けますが、その足元にエルゴメーターを設置、こがせたのです。
論文自体は50人程度の「epicardialに狭窄がなくCFRが低いmicrovasulcar anginaの患者」を対象とした小規模なもので、「運動時のmicrovasulcar resistanceが高い群」と「安静時のmicrovasular resistanceが低い(というより運動時のmicrovascular resistanceが高くない)群」を比較、色んな特徴に違いが有りました、というものです。
新しい発見があるというよりは、このような新しい測定方法でmicrovasulcar angina患者のmicrovascular resistanceを評価しました、という研究でした。
結論
ちょっとマニアックな話でした。
・microvascular anginaという病気があること
・CFRが下がるのが悪いということ
・CFRが下がる原因に複数あること
・この分野を熱心に研究している医者がいること(私含め)
このあたりがポイントです。
ではまた。